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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
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548食目 The・Hero

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 いや~まいった。まさか、また赤ちゃんになってしまうとは。

 そのお陰で大ピンチに陥ってしまったが、そこに颯爽と現れたのが赤い鎧に身を包んだクラークだから驚きだ。


 彼は確かに死んでいた。俺は彼の火葬が終わり骨になって墓に収められるのを見届けている。

 その際に、彼が死んでから数日間は葬式は延期され、死体は腐らぬように保管されていたが、皆の傷が癒えていなかったこともあり疑問には思っていなかった。


『エルティナ、彼は……』


『あぁ、クラークは確かに蘇った。ただ、それは人としてじゃない』


 彼に救われた時、身体から聞こえてくる音は心音ではなかった。四肢の駆動音、そして……。


『ゴーレムコアの鼓動が聞こえた』


『やはり……か』


 クラークはゴーレムとして蘇ったのだろう。そう思い至ったのは以前、プルルの家で気になる資料を発見した経緯があるからだ。






「ふきゅん、これはなんだ?」


「あぁ、それはゴーレム人間を作ろうって企画書だよ。お祖父ちゃんが立案したんだけど、結局は廃案になってしまったんだって」


 彼女はそう言うと俺から資料を受け取り机の上に無造作に載せる。というか、そんなに適当にしているから生活空間がとんでもない状態になるのでは?


 見ろぉ、この哀れな生活空間を。お部屋が汚いと「ふきゅん、ふきゅん」鳴いているぞぉ。


「たぶん……お祖父ちゃんは、お母さんを……」


「プルル……」


「ううん、何でもないよ。さぁさぁ、今日は何を作ってくれるんだい?」


「ふきゅん、今日は腕によりをかけて【親子丼】を作ってしんぜよう」






 恐らく、ドゥカンさんは諦めていなかったのだろう。密かに研究は進められていた。

 その証拠に俺がゴーレムギルドの【開かずの間】と呼ばれる場所に近付くと、えらい剣幕で怒られたのだ。絶対にここには近づくなと。

 つまり、そここそがゴーレム人間の研究室。彼の娘を蘇らせる禁断の計画がおこなわれた場所。


 そして、ドクター・モモという協力者が現れたことによって、計画はとんとん拍子に進んでいったことだろう。

 だが、ドゥカンさんの娘さん……つまりプルルの母親は蘇る事はないだろう事は容易に想像できた。遅過ぎたのだ、ドクター・モモと出会うのに。


 ドクター・モモは魂を補完する技術を確かに持っている。だが、輪廻の輪に還った魂を呼び戻すことは彼であってもできない。

 つまり、いくらゴーレムの身体を作っても中身が無ければなんの意味もないのだ。


 それに気付いた時、ドゥカンさんは何を想っただろうか。後悔、やり場のない怒り、病への憎しみで荒れたに違いない。

 それでも、彼がおこなった研究は無駄ではなかった。その結果がクラークなのだろう。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 血の通わぬ金属の身体を動かし、熱き拳を鬼に叩き込む。彼の全ては金属、温もりなど一切ない。それでも、それでも彼は叫ぶ。


「俺の血の一滴までもが、おまえを倒せと叫んでいる!」


「小僧がっ! 調子に乗るなっ!」


 シュウ、シュウと白い蒸気を上げるクラークの赤い身体。朝日に照らされ、その身体はまるで赤い宝石のように輝いている。

 対して肩で息をし、全身から赤い血を流すベルカス。彼の血もまた朝日に照らされ命の輝きをこれでもかと見せ付ける。

 二人の激しい攻防は終局へと向かおうとしていた。


「あれはベルカスと……クラーク?」


 輝ける獅子ライオットが俺とリックの隣に並ぶ。気が付けば、殆どのクラスメイトたちがここに集結しているではないか。


 ここでベルカスが膝を突いた。だが、彼は震える足を無理矢理に言い聞かせて立ちあがる。なんという執念であろうか。

 最早、根性ではどうにもならない領域に足を踏み入れているにもかかわらず、彼は何度も立ちあがった。


「まだまぁ! ぜぇぜぇ……見せてやる、鬼力特性【巨】。俺の特性は全てを巨大にする。特性を自身に使う代償は……理性だ」


 ベルカスが最後のカードを切ってきた。そのカードとはまさかの巨大化である。

 明らかなフラグを建ててしまった彼に全力でツッコミを入れたいが、困ったことに今の俺は赤ちゃんだ。「あー」だの「うー」だの「ふきゅん」だのとしか言えないのである。


「おまえたちを一人でも多く、道連れにしてやる! マジェクトに! 夢の続きを!」


 見る見るうちに身体が膨れ上がり衣服が弾け飛ぶ。恐るべき能力だ。だが、ズボンだけは一緒に巨大化している。これは女性に対しての配慮であろう。敵ながら天晴なヤツ。


「おまえは……生きて、夢を見ろ! マジェクトォォォォォォォォッ!」


 それが、ベルカスの最期。後に残るはかつてベルカスだった巨人。その身長は十メートルに迫る。流石にこんな相手とまともに戦えるわけがない。


「ぎおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 後を託された巨人は出鱈目に暴れ始めた。このままではフィリミシアに被害が出ることは必至だ。ここは全員で掛かった方がいいだろう。


 だが、クラークは冷静に右腕を天に掲げた。その右拳から輝きが放たれると、空より九つの影がこちらに向かってくるのが確認できた。あれはいったい、なんであろうか?


「ふきゅん!?」


 その時、俺の左手の中に握り込んでいたミリタナスの証が燦然と輝き出した。これは戦士に力を与える大いなる輝きに相違ない。

 迷うことなどなかった。俺は少し不自由な腕を動かし指輪を天に掲げる。それが【承認】の合図。


「シングルナンバーズ! 身魂合体ソウルドッキング!」


 クラークが熱く叫んだ。すると彼のヘッドギアからフェイスマスクが飛び出てきて彼の顔を覆い尽くす。これで彼は見た目が完璧なゴーレムと化したのである。


 先頭を行く一際巨大な影の正体はシングルナンバーズのシクトスであった。クラークの号令に合わせ、なんと彼らは変形を開始したではないか! いや、それよりもツッコミどころが満載だ!


 アイツらどうやって空を飛んでいるんだ!? 足りない力は勇気で補う的な不思議ぱぅわぁ~を的確に使用した結果なのか!?


『いちいちツッコミを入れていては疲れるだけだぞ』


『まさかトウヤにそんなツッコミを入れられる日が来ようとは』


 トウヤに諭された俺はリックの腕の中で事の成り行きを見守ることにした。


「うおぉぉぉぉっ!? 何が起こるんだ!?」


「なんだかよく分からないが、血が滾る!」


 その光景に大興奮するのはクラスの男子たちだ。逆に女子たちはぽかーんと間抜けな表情を晒している。この温度差はどの世界においても、やはり存在しているのだろう。


 俺? もちろん、大興奮すよぉ! ふっきゅぅぅぅぅぅぅぅぅん!


 シクトスの頭、腕部、脚部が引っ込み受け入れ態勢を作る、そこに巨大な腕へと変形した【右腕のツゥトス】、【左腕のスリトス】がドッキング。

 続いて巨大な足へと変形を果たした【右足たるフォトス】、【左足たるファイトス】がドッキング。そして【頭部たるファストス】が巨大な顔に変形して【胴体たるシクトス】とのドッキングを完了させた。


「うはぁ……どんだけ予算を食いつぶしたんだ?」


「うわぁ……彼らも無茶をするなぁ」


 この光景を見ていたアルのおっさん先生とフウタは揃って遠い目をしていた。たぶん、予算は聞かない方がいいだろう。ストレスで禿げる。


 合体は佳境に差し掛かった。ケンロクが変形しランドセルのような形状になると、そこにウィング状に変形したセトスとエイトスが合体。更に【翼たるナトス】がシクトスの背中へとドッキングする。


 これで完成と思いきや、そうではなかった。シクトスの胸部装甲が開き、そこにある空間目掛けてクラークが跳躍したではないか。


「チェェェェェェェェェンジ! レイトス! ソウル……オンッ!!」


 その掛け声と共にクラークの身体は折り畳まれてゆく、その姿はまるで変形合体したゴーレムの心臓、ゴーレムコアそのものではないか!

 そして、見えない何かに導かれるようにクラークはシクトスの胸の中に納まる。その瞬間、ドクンと巨大変形ロボ……もといゴーレムは脈打ったではないか。


 その瞬間、謎の力によって巨大変形ゴーレムの胸部に炎の紋章をイメージした飾り、そして騎士のような兜が頭部に出現する。

 もう何でもありだ、気にしてはいけないというトウヤの指摘は間違っていなかったのである。


「ソウルドッキング・コンプリート!」


 手足の感覚を確かめるように大袈裟な挙動を取り決めポーズ。そして、彼は名乗りを上げる。


「『大いなる魂の輝きに導かれ、【勇魂ゆうこんの騎士・ソウルレイトス】見参!』」


 大気を震わせるその声をもって、巨大変形ゴーレム【ソウルレイトス】は誕生を宣言したのである。


 ヴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!


 ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 わおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!


 その瞬間、戦場にいた男たちは奇声を上げた。興奮度がMAXを越え天元突破してしまったのである。無論、俺も叫んだ。ふっきゅぅぅぅぅぅぅぅぅん!


 対して女子はどう対応して良いのか分かっておらず「すごいねぇ」「わ~」などと適当な褒め言葉を述べてやる気のない拍手をおこなっていた。やはり、男子と女子とでは、いかんともし難い隔たりがあるようだ。


 勇魂の騎士ソウルレイトスが、やはり少し大袈裟なモーションで攻撃動作を取る。どうやら、巨大化ベルカスに対してパンチを繰り出そうとしているようだ。

 そんな緩やかな動きでは攻撃をかわされてしまうだろう。しかし、次の瞬間、俺たちの目は点になった。


「『ソウル・ナックル・クラッシャァァァァァァァァッ!!』」


 その魂の叫びと共に、ソウルレイトスの真っ赤な右拳が桃色のオーラに包まれ爆発音と共に放たれた。いや、正しくは発射されたのである。

 紛う事無き伝統の【ロケットパンチ】だ。


「ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん!!」


「ヴォォォォッ! スゲェ!!」


 こんなの興奮しないわけがない。反則レベルの盛り上がりだ。そして、何よりもクラークの声が響く響く。必殺技を繰り出す時の声だけ響かせるとか、スーパーロボットの鑑か。


 俺が感動に打ち震えていると、ドクター・モモから〈テレパス〉での通信がきた。今いいところなのに、なんの要件であろうか? 


 うおっ! 胸からの光線も完備ですか!? 最高じゃないですか、やった~!


『どうじゃ、エルティナ。この【響き】のために、殆どの予算を投入したんじゃ』


 まて、それはどういうことだ、科学者へんたいども。


『ふっふっふ、上手くいったのう、ドクター・モモ』


『このために【ゴーレノイド計画】は再始動したようなもんじゃて』


 ダメだこいつら、早くなんとかしないと国が傾く。


『ふぇっふぇっふぇ、ソウルレイトスには、ありとあらゆる機能を追加しておる』


『さよう、え~っと、沢山あり過ぎて何から説明すればいいのかのう』


『そうじゃのう……取り敢えずはフェイズシフ……げふんげふん。モモ転移システムを完備しておる。これは受けたダメージを転移して別の物へと擦り付けるシステムじゃな』


 こいつら……絶対に【僕の考えた最強ロボ】を実際に作りやがったな。特にドクター・モモは地球のロボットアニメのとんでも設定をカーンテヒルで再現して楽しんでやがる。


 いくら規制が無いからと言ってやり過ぎじゃないですかねぇ? このままではファンタジーが呼吸困難で死ぬ! これ以上、とんでもない能力を追加しないように目を光らせなくては!


 俺は謎の使命感に目覚めつつもソウルレイトスと巨大化ベルカス戦いを見守った。もちろん、彼らの一挙一動に興奮を隠すようなことはしない。当然だなぁ?


 使命感? それはそれ、これはこれ! ふっきゅんきゅんきゅん!


 しかし、熱血バトルも終わりの時が来た。巨大化ベルカスは一方的にソウルレイトスの攻撃を受けふらふらだ。スペックが違い過ぎるのだろう。

 チャンス到来を感じ取ったソウルレイトスは、戦いに終止符を打つべく大技を仕掛ける。


「『ソウル・ウェイィィィィィィィィィィブ!!』」


 ソウルレイトスの手から波動のようなものが放たれ巨大化ベルカスに命中する。すると、巨大化ベルカスを拘束する光の縄のようなものが出現し、ヤツをがんじがらめにしてしまったではないか。

 戒めを逃れようと巨大化ベルカスは暴れるも光の縄はビクともしない。そのことを確認したソウルレイトスは次なる行動に出る。


「『ソウル・カリヴァァァァァァァッ!!』」


 ランドセルのウィングとなっていたセトスとエイトスがランドセルから分離、空中で合体し、ひとつの巨大な剣となりソウルレイトスの前方にて停止する。

 それを手に取り、ソウルレイトスは構えた。それは、まさに勇者的なポーズ。


 もはや、男子たちの声援は何を言っているのか分からない。それは既に新しい言語となっているかのようだ。ぶっちゃけ、マリッサちゃんの方が何を言っているか理解できる。


「これで終わりだっ!」


 ソウルレイトスが大型ブースターを吹かし巨大化ベルカスへと突撃した。ソウルカリヴァーを振りかぶりダイナミックに跳躍する。その挙動ひとつひとつが俺たちのハートを熱く揺さぶるのだ。

 クラークは本当によく分かっておられる。


「『ソウル・スラァァァァァァァァァァァシュッ!!』」


 ありきたりな必殺名。だが、それがいい。


 巨大化ベルカスはソウルレイトスの必殺の一撃を受け両断された。そして、謎の閃光と爆発。巨大化ベルカスはその身を光の粒子へと変じさせ、青色が垣間見える天へと昇っていったのである。


 ベルカスの消滅に戦士たちは暫しの間、呆然としていた。しかし、ソウルレイトスの勝利の決めポーズを見るや否や、歓喜の雄叫びを上げたのである。


『エルティナ、鬼たちの全軍撤退を確認いたしました。我が軍の勝利です』


『ふきゅん!』


 そして、タイミング良く入ってきたデュリーゼさんからの連絡によって、遂に俺たちの勝利が確定した。

 ここにフィリミシアを襲った全ての脅威は消滅したのである。






 長い……長い戦いであった。幾多の英雄たちが生まれ、そして消えていった。

 その名もなき英雄たちの戦いによって、ラングステン王国はひとまずの平穏を勝ち取ったのである。


 この戦いを最初から最後まで見届けた吟遊詩人たちは、早速この戦いを詩にしたそうだ。


 その名も【ラングステン英雄戦争】。


 そこには名もなき多くの英雄たちの活躍が詠われていたという。

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