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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
520/800

520食目 フィリミシアへの帰還

「だぁぁぁぁぁぁっ! なんじゃこりゃぁ!?」


 戦場に冒険者たちの怒号と悲鳴が木霊する。現在、俺たちは移動要塞に対して果敢にも攻撃をおこなっていた。その先鋒こそが、彼ら冒険者隊であったのだ。


「バカ野郎! まともに正面から突っ込むんじゃねぇ! 踏み潰されたいのか!?」


 その冒険者隊を纏める者こそが、歴戦の冒険者【野獣の牙】のリーダー、ガッサーム・レパルトンである。


「ガッサーム! 右の連中が圧されている!」


「うほっ! 俺が行く!」


 ガッサームさんの【野獣の牙】に所属するゴリラ獣人のゴンザレスさんが棘付きのメイスを片手に魔導装甲兵たちに飛び掛かった。

 乱れ飛ぶ矢と攻撃魔法、巨大な動く山に群がるは歴戦の戦士たち。暗黒の居城から全てを蹂躙せんと飛び出してくる赤黒い大蛇だ。

 それを打ち払うのは俺が携える救世の剣大根ぎ……もとい、【ザ・セイヴァー】である。


『エルティナぁ! てめぇ!!』


「おまえの好きにはさせん! ムセル、もっとブースターを吹かせないか!?」


『レディ』


 アランの全てを喰らう者との戦いは、やはり空中戦となった。改造を要請しておいてよかった。以前のリベンジャーでは手も足も出なかったであろうから。


『エルティナ、推力材が底を尽く。一旦、いもいもベースに帰艦するんだ』


 戦いは激戦を極めた。出撃しては帰艦し、物資を補充して休む間もなく出撃を繰り返す。

 もう十から先は出撃数を数えていない。なによりも俺はアランの全てを喰らう者に対抗できる貴重な存在なので休憩している時間などないのである。


「ちっくしょう! やっと移動要塞に攻撃できるようになったというのに!」


「だから、まともにやり合うな! 足を狙え、足を!」


「うほっ、ガッサーム! バナナある?」


「ねぇよ!」


 順応性の高い冒険者たちは、がむしゃらに移動要塞の正面から立ち向かう騎士たちに、移動要塞の足を狙うように指示した。

 彼らの言うとおり、剣や斧では移動要塞にまともに攻撃などできやしない。ましてや頭部を狙うなど自殺行為に他ならないのだ。


「鬼どもが出てきたぞ! 迎え撃て!」


 ミカエルの指揮の下、聖光騎兵団が移動要塞より出撃してきた魔導装甲兵と激突する。


「聖光騎兵団が壁をしてくれている間に、GDスクール隊は間接攻撃で魔導装甲兵を仕留めろ!」


 レイヴィ先輩が指揮するGDスクール隊が聖光騎兵団によって動きを止められている魔導装甲兵たちを一方的に攻撃した。

 この僅かな期間で聖光騎兵団とGDスクール隊はこの連携を構築し、その結果として移動要塞を攻撃できるようにまでなったのだ。

 この戦いの功労者は間違いなく彼らだろう。彼ら無くして、この戦いは勝利できない。


「一度、帰艦する! ライオット、持ちこたえてくれ!」


「おう、行ってこい! いくぜ、相棒! シャァァァァイニング、レオォォォォォッ!」


 ライオットが今日、何度目かとなる輝ける獅子と化した。なんと、この状態だと彼はアランの全てを喰らう者を【殴れる】。


「つありゃっ!」


『だから、おめぇはなんなんだ!? くそがっ!』


 ライオットの輝く拳が赤黒い大蛇を殴り飛ばし霧散させた。しかし、すぐさま大蛇は再生し忌々し気にライオットを睨み付ける。

 そう、殴れるだけで滅ぼすことはできない。本当に時間稼ぎでしかないのだ。この隙に俺はいもいもベースへと帰艦し補給を受けるのである。






「急いでくれ!」


「わかっとるわい! おまえらっ!」


「あいあいさー!」


 いもいもベースに帰艦後、俺はGDをすぐさま解除し整備クルーに整備と補給を頼む。俺のGDは特別製とあって整備にはドクター・モモが付っきりでおこなてくれている。


「どういう戦い方をしておるんじゃ!? 駆動系に異常個所が七つもあるぞい!」


「補給が終わるまでに終わらせてくれ!」


「無茶を言うんじゃないわい!」


 そんな俺の無茶に応えてくれるドクター・モモ素敵。そう、この僅かな時間が俺の休憩時間である。その間に俺はおにぎりをムシャムシャするのだ。滅茶苦茶に塩が効いていて、超しょっぱい~ん!


「ほらっ! 水分も摂っときな!」


「ありがとう、ガイナさん!」


 整備クルーとして働いているガイナさんから水筒を手渡された。それをグビッと飲む。中身は蜂蜜レモンだった。

 レモンの爽やかな酸味と、蜂蜜の優しい甘みが疲れた体を労わってくれるかのようだ。


「よぉし、えぇぞ! いってこい、エルティナ!」


「ありがとう! ドクター・モモ、皆!」


 俺は補給の終わったX・リベンジャーを纏いカタパルトへ乗る。


『……エルティナ、がんばって……発進どうぞ……!』


「あぁ、ララァ、行ってくる! エルティナ・ランフォーリ・エティル、出るぞ!」


 そして、俺は再びカタパルトによって戦場へと送り出された。






「ダナン、今何回目の後退だ?」


「五回目だな、そして阻止限界点は……あと三十キロメートル」


「いよいよ、あとが無くなってきたな」


 艦橋にて五回目の後退をおこなっていた。もう桃先生の大樹が薄っすらと見え始めている。


『こちらデュリンクです。いもいもベースはフィリミシアに帰還せよ』


「なんだって!? それじゃあ、完全にあとが無くなるじゃないか!」


『そうなりますね。しかし、そんな状態では阻止限界点での戦闘には耐えられないでしょう。この移動時間で最後の休息を取ってください。阻止限界点にはアルフォンス殿とフウタ殿の部隊を向かわせます。では、フィリミシアでお待ちしておりますよ』


 デュリーゼさんは一方的に話して通信を終えてしまった。だが、俺たちに反論する余地はなかったのだ。

彼の言うとおり、俺たちは限界に達している。これ以上の戦闘は無駄な戦死者が多数出てしまうことを既に理解していたのだ。

 それに物資も度重なる戦闘で底を尽きかけていた。やはり、ここは一度フィリミシアに帰還すべきなのだろう。


「ダナン、疲れているだろうけど頼めるか?」


「おまえらよりは遥かに疲れてねぇよ、任せとけ。ララァ」


「……フィリミシアまでのルートを表示……いいわよ、ダナン」


 正面モニターにフィリミシアまでのルートと到着予想時間が表示された。到着までは四時間弱、これが俺たちに残された最後の休息時間だ。

 

そう、最後になるかもしれない……。


「エル、いいから休んでこいって」


「……気にしなくていいから……」


「すまん、少しぼ~っとしてた」


 俺は二人に送り出されて自分の個室へと向かう。その途中でヒュリティアにばったり遭遇した。彼女も酷く疲れているはずなのだが、その表情は妙に生気に満ち溢れている。


 はて、スタミナドリンクでも飲んだのだろううか? いや、しかし……自分で作っておいてなんだが、あれは少しやり過ぎた。


 牛乳をベースに精が付きそうなものを手あたり次第ぶち込んだ【混沌飲料】と化していたのだ。流石に納豆やパセリ、ドクダミ、ニンニクのすり身を入れたのはまずかったか。

 こんな物を飲み干せるのはタカアキくらいなものだと思ったが、まさかヒュリティアがやってのけるとは。


「エル、ちょっといいかしら?」


「ふきゅん、構わないぞぉ」


 くんくん……んん? おかしいな、彼女からは強烈な臭いがしてこないぞ。あのイカれたドリンクを飲めば、暫くの間は確実に匂いが取れることはないのに。


 ちょっとした疑問を抱きつつも、俺はヒュリティアを自身の個室へと招き入れた。


あ、やべっ。使用済みのおパンツやら何やらを片付けるのを忘れてた。


「と、ところで、話ってなんなんだぜ?」


 俺はおパンツをぽいっちょと部屋の隅にある洗濯籠に入れて、さり気なく話題を変える試みを実行する。


「きちんと洗わないとシミが残るわよ?」


「さーせん」


 残念! 俺の隠蔽工作は失敗に終わった!


「まぁいいわ。鬼たちとの決戦のことだけど……私、暫くの間、別行動を取らせてもらうわ」


「ふきゅん? それはまた、どうして?」


「説明するには難しいわ。ただ、応援を呼ぼうと思って」


「応援? スラム地区のガキンチョ部隊か?」


「いえ、違うわ」


 妙な違和感、目の前にいるのは確かに俺の親友たる黒エルフの少女ヒュリティアだ。

 姿かたち、そして声、どれを取っても違いなどない。しかし感じる奇妙な違和感。これは、いったいなんなんだぁ?


「分かった、深くは聞かないんだぜ。乙女には秘密は付きものだからな」


「ありがとう、エル。きっと、私たちは勝つわ」


 彼女は満面の笑みを浮かべた後、俺の部屋を去っていった。やっぱり何かがおかしい。

 ヒュリティアは俺であっても、あそこまで露骨に笑みを見せることはない。穏やかに微笑むことはあっても、にぱっ、と笑うことはないのだ。


「ふきゅん、まさか……偽者? でも、ヒーちゃんに化けてもメリットなんかないぞぉ」


 俺のつるつるの脳ミソは、この謎に対して力の限り抗った。だが、僅か二秒で敗北。珍獣は考えることをやめた。


「脳がはち切れそうだぜぇ」


 というか、もう眠い。俺の疲労はピークをぶっちぎってコサックダンスを敢行している。こいつを鎮めるには、もう寝てしまうしかないだろう。


「ひゃっは~、睡眠だぁ」


 俺はベッドにダイブした。やはりというか、なんというか……そこには先客がいたのである。


「にゃ~」


「おおう。また、きみかぁ」


 トラ猫のもんじゃである。というか、ビーストたちは何故か俺の部屋に集合する癖がついているようだ。お陰であまり広くない部屋が更に狭くなる。


「わんわん」「にゃ~」「チュチュ」「ひゃんひゃん」「うきー」「ちゅん」「ふきゅん」


 俺の部屋はいつでも動物園だ。うん、もう考えるのはよそう。決戦に向けて休息を取って差し上げるのだ。


 俺は、ぽぽぽぽん! と衣服を脱ぎ捨ててベッドに横たわる。やはり、もんじゃが腹の上で丸くなった。なんだか、このやり取りも久しぶりである。


「ふぁ……」


 大きな欠伸をひとつ。俺の意識は深い闇の中へとルンルン気分で向かってゆく。その途中で何故かヒュリティアの顔が浮かんできた。


 美しい銀の髪、そして透き通ったエメラルドグリーンの瞳。 あれ? エメラルドグリーンの瞳?


 それだ! 奇妙な違和感は瞳の色だ! さっき会ったヒュリティアの瞳って何色だった? 思い出せ、思い出せ。おもいだ……ぐ~すかぴ~。


 残念、俺は深い眠りに就いてしまった! 仕方がないねっ!

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