506食目 合流、そして撤退
「タカアキっ!」
襲い来る無数の鬼に対し一歩も引かぬ大きな背中、放たれるつっぱりは多くの想いを乗せる重き一撃。その身に纏う脂肪は愛と勇気の証。
偉大なる勇者、タカアキ・ゴトウの姿がそこにあった。
「おぉ、我が友エルティナ。このような場所で出会うとは奇遇ですね」
「恐ろしく呑気な返事だが、タカアキが言うと妙に違和感がないな」
俺は挨拶ついでに、ヘビィマシンガンを鬼どもにぶち込みながら、タカアキとの再会を喜んだ。所々、衣服が破れてはいるがケガをしている様子はない。恐らくは彼女のお陰であろう。
「ふきゅん、エレノアさん! 無事か!?」
「エルティナ様、このような場所まで! あぁ、やはり神は私たちを見捨ててはいなかったのですね!」
エレノアさんは終始、治癒魔法での援護に徹しているようだ。彼女を護るのはGDラングスを身に纏うハマーさんと、なんとスラム地区最奥の勇敢なるクソッタレ共を仕切るギド親分であった。
「エルティナ様!? 皆、援軍だ! 最後まで諦めるな!」
「やれやれ……また死に損なったなぁ? つるっパゲ」
「ぬかせ、チンピラ風情が!」
うっは、仲が超悪い。やはり騎士と犯罪者ではこうなるか。だが、口では罵り合いながらもコンビネーションは息が合い過ぎて怖い。仲が良いのか悪いのか……これもうわっかんねぇなぁ?
「うわわっ!? ふぎゃっ!」
爆発に吹き飛ばされてコロコロと転がってきたのは、もう一人の勇者、サツキ・ホウライだ。彼女は射撃による戦いがメインになりつつある戦場で、今も尚、頑なに近接戦闘を貫いている。ちなみに、タカアキはツッパリによる衝撃波で鬼どもを駆逐しているので安心してほしい。
安心できないって? 気にするなっ!
「ああ、もう! 鬱陶しい! ぶっとばしてやる!」
すぐさま立ち上がり、再び魔導装甲兵に殴りかかる。勇者サツキは魔導キャノンの直撃を受けているようだが、僅かばかり衣服が焦げた程度で、特にダメージを負っている様子はない。なんだ、その防御力は?
しかしながら、爆発によって体重の軽い彼女は吹っ飛ばされることになった。恐らくは、これを延々と繰り返しているのであろう。少しは頭を使ってどうぞ。
「だぁぁぁぁぁっ! ガキンチョ共の面倒がなくなったと思ったら、今度はでけぇ子供の面倒とか聞いてねぇぞ!?〈アイスチェイン〉!」
この声はアルのおっさん先生だ。無数の氷の鎖が魔導装甲兵に絡み付き、瞬く間に氷漬けにしてゆく。
久々に見る彼の魔法だが、こうして改めて見るとアルのおっさん先生の技量の高さがひしひしと伝わってくる。
それに加えて、とんでもない数の魔法同時起動。一人で攻撃魔法の見本市のような事をやってのけているのだからたまらない。流石は勇者パーティーの一員である。
「うわっほう! アルさん素敵!」
氷漬けになった魔導装甲兵たちを一撃の下に粉砕する勇者サツキ。どうやら、命中すれば一撃の下に葬り去る威力を秘めた拳であるようだ。当たらなければどうということはない、というのは察してほしい。
「おぉ、嬢ちゃんたちかぁ! ヴァン、援軍が来たぞぉ! もうひと踏ん張りだぁ!」
「ジャックさん! それって本当の話ですか!? うぐぐっ! くそっ、固い連中め!」
ジャックさんや、ヴァンさん、それにガッサームさんの姿もある。その中にはチート転生者フウタの姿もあった。
「しっ!」
タカアキの活躍の陰に隠れてしまい、いまいち強さが霞んでいる彼であったが、この戦場に限ってはそうではないらしい。タカアキは基本的に集団戦を苦手としている節があった。それは自身の攻撃力が高過ぎて味方にも被害が発生しかねないからだ。
それに対し、フウタは器用に立ち回れ、さまざまなチート能力を行使して圧倒的な手数の攻撃を可能にしていた。
今もっておこなわれていたのは、居合抜きによる鬼の三体同時斬りである。
「エルティナ様!? そうか……ならば、そろそろ頃合いか」
フウタは俺に気が付くと軽く会釈をして居合抜きの構えを取り、鬼の大群に向けて抜刀した。すると煌めく青い炎が噴き出て形を成したではないか。それは龍、青い炎の龍であった。
「奥義〈青炎龍〉」
パチンと鞘に刀を収める、既に鬼の大群の中央部分まで到達していた青い炎の龍が咆哮を上げると、迷うことなくその身を爆ぜさせたではないか。
轟音、そしてこちらまで伝わってくる凄まじい熱、鬼の大群は爆心地の地面ごと消滅していた。恐ろしい力だ、フウタはタカアキに劣るどころか、本当は彼よりも……そう思わせるほどの強さを確かに持っている。
「タカアキ、撤退しよう!」
フウタがタカアキにそう告げる、対するタカアキはにっこりと微笑みそれを了承した。
「はい、そういたしましょう。エレノア、尻尾を巻いて逃げますよ」
「分かりました、タカアキさん。行きましょう」
いとも容易く撤退を決断、苦労して守ってきた場所ではなかったのだろうか? と考えたところで自分が戦いに染まってしまっていることに愕然とする。
こんな場所を死守するよりも人命の方が大事ではないか。これは自分を戒めなくてはならない事案だ。
「ところで、バッハ爺さんと筋肉兄貴は?」
ヘビィマシンガンの連射による牽制をおこないながら俺はフウタの下に辿り着き、気になることを訊ねた。先ほどから、どこを探しても白エルフの二人が見当たらないのだ。
「彼らなら、最後の仕上げに取り掛かっているはずです。心配はいらないかと」
飛びかかってきた異形種を一太刀の下に両断するフウタ。そして、なんてことはない、というように微笑みを返してきた。
なるほど、この笑顔にロリエッタさんたちはノックアウトされてしまったのだろう。
「ふきゅん、そっか。なら、邪魔にならないように撤退するか」
ヘビィマシンガンを単発モードへ移行、強力な閃光が魔導装甲兵を貫き、一瞬にして退治せしめる。その光景を目の当たりにしたフウタは少しばかり驚いた顔をしたが、すぐさま穏やかな微笑みを湛えた。
「ふきゅん、どうかしたか?」
「いえ、強くなられたな……と」
彼は俺がフィリミシアに辿り着いた初期の頃からの友人だ。確かに、あの当時は触れられただけでも死ぬ自信があった。それに比べれば相当に強くなっている、とうぬぼれることができる。でも、まだまだだ。
「これは本当の強さじゃない、借り物の強さだよ」
GDに桃先輩、ムセル輝夜のサポート。俺自身の強さではない、彼らがあってこその強さ。真に己の力であると言えるには程遠い。
「えぇ、分かっています。それでも、ですよ」
それでも彼は俺の強さであると言ってくれた。そのことに照れ臭くなった俺は、迫り来る鬼に向かい合うことを選択、ヘビィマシンガンを構えたのである。
倒しても倒しても鬼たちは山の向こう側から押し寄せてくる、それはまるで海の波のごとし。引いては押し寄せ、引いては押し寄せの繰り返し。フウタたちは、こんな絶望を前にして戦い抜いてきたのか。
援軍といっても、辿り着いたのは俺とライオット、プルルにヒュリティアだ。戦力としては十分とは言えない……そう思っていた時期が俺にもありました。
「……補給完了、これで動けるわ」
「ありがたい! これでラングスは戦える!」
早速、ヒュリティアの補給装置が役に立っていたのである。魔力不足による行動不能に陥っていたGDラングスたちが息を吹き返し、鬼たちに一転攻勢を仕掛けたのだ。
「あの子は、ヒュリティアちゃん? それにあれは……そうか、彼女たちがやってくれたのか」
フウタは一人納得している様子を見せる、このことで俺はティンときた。恐らくはGDの弱点を見抜いていた彼の考案によって、かなり前から魔力補給装置の企画が上がっていたのだろうと。
恐るべき先見の眼だ。やはりチート転生者は伊達ではないということか。
「さぁ、GD隊が援護してくれている内に撤退しましょう」
フウタは今が好機と見て、俺に撤退を促してきた。断る理由もない、無駄な犠牲が出る前に、すたこらさっさだぜ。
「あぁ、いもいもベースが待機しているからそこまで……」
いもいもいもいもいもいもいも……。
「ふ、ふきゅん!? この足音はぁ……!」
聞き慣れた足音、まるで己をアピールするかのごとし音に振り向けば、そこには俺たちの帰るべき家が迫って来ていたのだ。
ずももももももも! いもぉ。
戦場に現れた超巨大芋虫の姿に、敵味方入り乱れる戦場は混乱をきたす。主に混乱したのは鬼たちだけであるが。
「なんだありゃ!? おい、チグサ! ベルカスの野郎はどうした!?」
「撤退したようです」
あれは確かカリスクとチグサと呼ばれていた鬼だ。どうやら、この鬼たちを率いているのが彼らのようである。そして彼らには終了のお知らせを伝えなくてはならない。
いもいもベースの頭頂部に、あの御方が目をギラギラさせて仁王立ちしているからだ。
「クスクスクス、わざわざ私の前に舞い戻ってくるとは見上げた心掛けね」
「げぇっ、茨木童子!? なんで、てめぇが、こんなところにいるんだよ!」
「……撤退しましょうか」
まるで見てはならない物を見てしまった感のあるカリスクと、最初から諦めて逃げの一択を提示するチグサ。
「ば、バカ野郎! 男が尻尾巻いて逃げれるかっての! やってやる!」
「分かりました、撤退します」
「おまっ!? 人の話を……」
カリスクが話し終える前に、彼女は鬼力の特性を発動し戦場から離れる。その僅か後にユウユウが彼らの場所に向かって飛び降りていたのである。それは攻撃と同じであった。
着地と同時に衝撃で大地は砕け散り、周囲にいた魔導装甲兵や変異種たちを粉々に砕く。それを免れた者であっても大きく吹き飛ばされ、ある者は深い谷に、またある者は坂を転げ落ちていった。
「ふん、あの女狐め。良い性格しているわ」
ユウユウが言うとおり、一瞬でも判断を誤れば肉塊になっていたであろう。カリスクよりも彼女の特性、そして判断力の方が厄介なのかもしれない。
チグサがいる限り、易々と彼らを退治することはできなさそうだ。
「ふきゅん、カリスク……あいつ絶対にチグサの尻に敷かれているぞ」
「チグサ……黒髪の女性のことですね? きっと、そうでしょうねぇ……」
俺とフウタはカリスクに対し、哀悼の意を捧げていた。いつの時代も男は女に弱いんだなぁ。
「ところで、アルアはどうなったんだ?」
俺はカリスクで遊べなくて『ぷんぷん』とむくれていたユウユウに訊ねる。すると、腕を組みボリュームのある胸を強調するかのような姿勢を取ると、彼女は不機嫌ながらも答えてくれた。
「アルアなら『おかゆっゆ』って叫んで、シーマと一緒に黒い風に乗って、どこかへ飛んでいったわ。その内、帰ってくるでしょ」
「自由過ぎるだろ」
いやぁな予感が『ぷぃんぷぃん』するが何事もないことを祈るしかない。非力な珍獣をどうか許してほしい。シーマ、きみの犠牲はたぶん無駄にはしない。
「エル、鬼たちの攻撃が止んだぞ!」
「今がいもいもベースに乗り込むチャンスだよ! 負傷している人たちを優先させて!」
ライオットとプルルがいもいもベースの乗船を援護する。それと入れ替わりで数名の騎士がいもいもベースの発射口から飛び出してきた。聖光騎兵団のミカエル、メルト、サンフォの三騎士だ。どうやら無事に撤退してきた友軍を護ることができたらしい。
「援護します! 乗船、急いで!」
そして彼らは地上に着地……することなく空に浮いていた。どういうこと?
だが、その疑問はすぐに解けた。彼らの背中から生える大きな翼を目にしたからだ。
三人の少年は天使だった……?
「あっ! あの翼、どこかで見たことがあると思ったら、アークの翼じゃないか!」
プルルがミカエルから生えている翼を見て驚くの声を上げた。そう、ミカエルのホビーゴーレム、アークの翼と同じだったのだ。ということは、彼が何らかの力を発揮しているのであろうか? 憶測の域は出ないが。
彼らは上空から魔法光弾を放ち鬼たちを一方的に攻撃した。魔導装甲兵たちも魔導キャノンで反撃するものの掠りもしない。これによって、空を制する者は地上にいる者に対し圧倒的であることが証明されてしまった。
「よし、ライオット! プルル! ヒーちゃん! 俺たちも空を飛ぶぞ!」
この流れに乗じるしかない、と決断した俺は彼らに空を飛ぶことを提案する。
「いやいや、無理だよ、食いしん坊」
「ジャンプならできるぞ?」
「……」
呆れるプルル、そして話を理解できていないライオット。ヒュリティアに至っては無言であった。いったい何がいけなかったというのだ。教えてくれ、ムセルは答えてくれない。
『レディ」
あっ、うん、そうだな。おバカなお母ちゃんを許しておくれ、ムセル。
『バカなことを言っていないで、さっさと撤退するんだ』
そして、桃先輩のとどめのお言葉を頂戴する始末。
おぉん! 味方はいないのかっ!? 誰でもいいから援護をっ!
「そんなに飛びたいのなら飛ばしてあげるわよ?」
「謹んで辞退させていただきますユウユウ閣下」
これ以上ないほどの笑顔でおっしゃったのは、優雅に構えるユウユウだ。無論、これを二秒で辞退、事無きを得る。
もういい、さっさと帰ろう。俺は疲れましたよぉん!
「皆~、いもいもベースに乗り込め~」
「わぁい!」
全友軍がいもいもベースに乗り込んだことを確認した後に、俺たちも乗船する。後はアクライア山を後にするだけだ。
艦橋に向かうと、そこには固定された椅子やテーブルなどにロープでぐるぐる巻きにされたクラスメイトたちの姿があった。いったいなんのプレイであろうか? 一人だけ違う縛り方になっているのはメルシェ委員長だ。
それって、きっこうしば……。
「おっと、戻ってきたな。さっさとロープで身体を固定してくれ。山から高速で離脱するから」
ダナンは椅子のシートベルトをしっかりと締めている。普段は付けない主義の彼だが、撤退劇は相当なものになると判断したのであろう。
彼の指示に従いロープで身体を固定する。固定はララァが手伝ってくれた。その間、メルシェ委員長の喘ぎ声が気になって仕方がない。誰だよ、あんな縛り方をしたヤツは。
「……ききき……我ながら傑作……」
おまえか、ララァ。
「よし、固定できたな? って、ユウユウはそれでいいのか?」
確認を取るダナンはユウユウが体を固定していないことに気付き、それでいいのかと問うた。
「えぇ、私は縛られるよりも縛る方がいいの。うふふ、私って罪な女だから」
「さいですか」
ユウユウはロープに頼らずにテーブルの端を手で掴んでいるだけであった。まぁ、彼女の握力なら多少の揺れでも転倒することはないだろう。
そのことを理解したダナンは、それ以上の事は何も言わなかった。
「あんっ! はぁはぁ……なんか、変な、気分。んふぅ」
だから喘ぐな、そして変な属性に目覚めるんじゃない。
メルシェ委員長のアレな開花を心配しつつも、いもいもベースは発進した。だが、その撤退の仕方は俺の想像を遥かに超えたものであったのだ。
「いもいもベース、トランスフォーム!」
「……了解……変形シークエンス……起動……」
な、なにぃ……!? いもいもベースが変形だとぉ!?
俺はダナンの言葉にときめきを隠せなかった。戦艦の変形、もしかすると人型に変形できるように改造が施されていたのであろうか?
く~! やってくれるなドクター・モモ! 流石はロマンを追い求めし科学者!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……! いもぉ。
「……変形完了……だんごフォームに……移行しました……」
……え? 今なんて?
「よぉし、じゃあ、転がるぞ~?」
ダナンの非情なる一言に、縛り上げられていたクラスメイト達は一斉に顔を青くした。
「ちょ、待てよ! ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ごろごろごろごろごろごろごろ……!
ぐるんぐるんと回る視界、そして振動。重力に逆らって上へ下へと動く胃。これは耐性があるといっても油断すれば即座に『ゲロリアン』待ったなしだ。
「皆、落ち着いて聞いてくれ」
それは、きりっとした表情をしたキュウトちゃんであった。彼女は現在、乗り物酔いを抑制する魔法で保護されている。そんな彼女はこの状況下であっても眉一つ動かさなかった。
「心を穏やかにし、振動と同化するんだ。そうすれば恐れることはない」
何かを悟った修行僧のような言葉を語りながら、キュウトちゃんは穏やかに微笑む。流石は俺たちが開発した乗り物酔いを抑制する魔法だ、なんともないぜ!
そして、これ以上ないほど笑顔を見せた後、彼女は言った。
「みんな、ごめんな! やっぱ、無理! おぼろろろろろろろろろろろ……」
なんということだ、苦心して作り上げた乗り物酔いを抑制する魔法も、この酷い状況下では効果を発揮できなかったようだ。美少女の口から放たれる『それ』が少年少女たちを絶望の淵へと追い込む。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
艦橋は阿鼻叫喚の地獄と化した。キュウトちゃんから放たれる『ゲロリアン』は規制によってキラキラと輝く宝石のごとき物体と化していた。それが空中に舞う様子はなるほど幻想的である。だが『ゲロリアン』だ。
身体を固定されて動けない俺たちは、まるで刑を待つ死刑囚である。
べちゃっ。
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「あぁっ!? オフォールがやられた! メーデー、メーデー!」
キュウトちゃんの『ゲロリアン』の直撃を受けた鷲の鳥人オフォールはキラキラと輝くデコレーションを施されて戦死した。きみの死は無駄にはしない。
だが安心はできない、キュウトちゃんの弾薬はまだ残っているのだ。恐れていた第二波が放たれた。まさにロシアンルーレット、誰に当たるかは予想もできない。
べちゃぁ。
「ひほぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「双子の妹の方がやられたぞ! 衛生兵! 衛生兵!」
「ラ、ランフェイぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
絶叫する兄、そして息絶える妹。この世は残酷である。
「あひぃ! んぎもぢいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
そして何かに目覚めたメルシェ委員長。
あぁもう、滅茶苦茶だよ。誰だ、こんな撤退方法を考えたヤツはぁ!? 出てこいっ!
『すまん』
「申し訳ありません」
「桃先輩、ルドルフさん、あんたらかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
まさかの桃先輩とルドルフさんであった。この状況は山を下るまで続き、大量の犠牲者が発生することになる。
ちなみに、ユウユウ閣下は全ての『ゲロリアン』の回避に成功している。片手で身体を持ち上げるとかマジぱねぇっスよぉ。
そして、小柄なスライムのゲルロイドとフェアリーのケイオックはそれぞれクラスメイトの懐へと退避、被害を免れている。ゲルロイドはララァへ、ケイオックはグリシーヌの下へ逃げ込んだ。けしからん連中だ、後で感想文を三十ページで纏めて提出してもらおう。
ちなみに、俺は『ゲロリアン』の直撃を二発いただいた。誰か助けてっ!
「うげぇ」
もらいゲロ現象、それは悲劇の連鎖。リンダが堪えきれなくなって、新たな『ゲロリアン』を生み出してしまった。
しかもあろうことか、それは俺に狙いを定め迫ってきたではないか。
極限まで高まる集中力、それによって生まれるスローモーション現象。迫り来るは七色に輝く『ゲロリアン』。回避する術はない、防御もできはしない。ゆえに……。
「く、くるなぁぁぁぁっ!」
べちゃ。
「あびゅべ!?」
もう俺はキラキラと輝いて直視できないほどだ。もうなんて言ったらいいか分からない。取り敢えずは生きて風呂に入れればそれでいい。
「ここは……地獄だ……がくっ」
「御屋形様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
三度目の直撃を顔面に受けた俺は、ついに力尽きた。
度し難い臭いが立ち込める艦橋に響く悲鳴、それは下山が終わるまで続くのであった。




