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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
375/800

375食目 開戦

戦闘が開始された。ラングステン騎士団千名、

及びリマス王子率いる解放軍二百五十名に傭兵が四十名といったところか。

対するティアリ城からは一万の兵が送りだされた。

拠点を守る兵と合流すれば一万三千もの大部隊と化す。

このままいけばラングステン連合軍は壊滅の憂き目に遭うことだろう。


「マイアス様、いくら約束の子達による本丸への電撃作戦だとしても、

 本隊が壊滅してしまっては……」


「それは彼らもわかっていることでしょうね。

 それでも、彼らはそうするしかないのです」


圧倒的な戦力差、それを個々の能力では覆せないことを知っている者が

ラングステン連合には多くいる。


見なさい、彼らの戦いを。


『波状攻撃だ! 深追いはするなよ!』


『各部隊の隊長は損耗が激しくなる前に下がるよう徹底しろ!』


ラングステン連合軍は一部隊を二十名ほどで構成し

隊長の指示を通しやすくしていた。

そして、攻めては引くを繰り返し、

極力兵を失うことのないような戦いをしていたのである。


傍から見れば消極的な戦いであるが、彼らにしてみればこれでいいのであった。


「なるほど……考えましたね。この狭い場所では大軍は意味をなさない」


「確かに、険しい山々に囲まれた土地では戦うスペースが限られています。

 だから関所まで攻め込まなかったんですね」


ラングステン連合軍の総司令ヤッシュ・ランフォーリ・エティルは

なかなかの知恵者の様だ。

しかも、まだ奥の手を残している。


大部隊とは別行動をとる者が二名。

転生者であるフウタさんと、大魔法使いアルフォンス・ゲイロン。

なるほど、頃合いを見て柔らかい横腹を突くつもりですね。

伸びきった戦列では成す術もないでしょう。


「それでも、この戦力差は覆せないでしょうね」


「マイアス様! アレはっ!?」


ミレットが指さした方角から得体のしれない者達が関所に向かって進軍していた。

その数五百ほど。

しかし、私はその異形とも言える存在を見た途端、背筋が凍り付く感覚に陥った。

故に確信することになる。彼らこそ、神々ですら恐れる『悪児』であると。


「出てきましたね……しかも五百匹もいるなんて」


「アレが悪児……!」


ミレットの息を飲む声が聞こえる。

姿を現した悪児は頭に数本の角を生やし、酷く恐ろしい形相をした小男で、

手足は枯れ枝のように細いのに腹だけは異常に膨らんでいる、

という酷くアンバランスな姿をしていた。


その悪児と入れ替わるように城内へと侵入する約束の子達。

彼らは正門からの侵入ではなく、

西側の城壁を破壊して侵入するという大胆な行動に出ていた。


壁を破壊したのはブルトンだ。

己の放った拳に戸惑いを見せているのは、

祝福による能力強化のことを知らないからだろう。


「拳で分厚い城壁を破壊するだなんて」


ミレットが私に向かって呆れた顔を見せた。


「……強化し過ぎたかしら?」


なんせ約束の子に祝福なんて初めておこなうから、

どのくらいが丁度いいだなんてわかりはしない。

命に関わる戦いだから、思いっきり祝福したのだが……

やっぱりやり過ぎただろうか?


き、気にしたら負けよね!? うん、きっとそう!

気にしない、気にしない。私は間違ってないもん!!


そして、悪児の出撃と時を同じくして

フウタさんと大魔法使いアルフォンスが敵部隊の柔らかな横腹に仕掛けた。


『フウタ・エルタニア・ユウギ見参!

 我が剣を恐れぬのであれば……掛かって来い!』


『たった一人できて何ができる!? やってしまえっ!!』


数十名の傭兵達が一斉にフウタさんに襲い掛かるも

彼は余裕の態度を崩すことはなかった。

風を切る音がして、たちまちのうちに襲い掛かった傭兵全てが

フウタさんに切り捨てられてしまったのである。

それを見て顔を青ざめる傭兵達。


『あ、あぁっ!? ラングステンのフウタって言ったら、

 勇者パーティーの一人じゃねぇかっ!!』


『な、なんでこんな場所にそんな大物がいるんだよっ!?』


彼らは気付くのが遅過ぎた。

更なる絶望が襲い掛かってきたのはその直後だったのである。

空を埋め尽くす炎の雨が身動きの取れない兵達に降り注がれたのだ。


『火属性上級攻撃魔法〈ファイアレイン〉だ! こんがり焼けておけよ?』


風の大剣に乗り膨大な量の炎の矢を降り注がせる

青髪の男を見た傭兵の一人が悲鳴に近い声を上げた。


『う、うわぁぁぁぁっ!? まさかあいつは……!?

 ア、アルフォンス!「冷血のアルフォンス」だっ!!』


『おいおい、その悪名で呼ばないでくれよ。好みじゃないんだ』


彼は微笑みを絶やさずに、

自分の通り名を叫んだ男に向かって風の刃を飛ばし、

その首を容赦なく刎ね飛ばした。

見るに堪えない惨状に周りの兵はいよいよパニックに陥る。


『はははははははははっ!

 久しぶりに大暴れできるんだ! ストレスを発散させてくれよっ!』


『ちょっ、アルフォンスさん。はっちゃけ過ぎでしょうが!

 あちちっ! 無差別攻撃にもほどがありますよっ!』


炎の雨を降らせつつ

小瓶に入った液体を飲み干すアルフォンスは二カッと笑った。


『おまえなら、それくらいかわせるだろ?

 しっかし、グリシーヌの「魔力いっぱつ」は効くなぁ。

 もう魔力が回復してらぁ』


『飲み過ぎ注意って、言ってましたよ? 彼女』


『今飲まないで、いつ飲むんだよ?』


それは酔っ払いの定番のセリフである。

そして後ほど後悔するのがお決まりだ。


「彼、後で絶対に後悔しますよね?」


「えぇ、でも人は過ちを繰り返す生き物なのです。それはもう」


彼を見たことで、私が人間だった頃の恥ずかしい記憶が蘇ってきた。

あぁ、お酒を飲み過ぎたばかりに半裸で踊り狂っただなんて……。

いけない、いけない、このことを知っているのはもう私だけ。

この記憶は黒歴史として永遠に封印しなければ。


「マイアス様? お顔が赤いですよ?」


「ふひっ!? な、なんでもありませんっ!」


危ない危ない、ミレットは鋭い子だから悟られないように気を付けなくちゃ。

私がそう思っているところに悪児が遂に関所の兵と合流してしまった。


『な、なんだ、こいつらはっ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!』


『う、うわっ!? こいつら、攻撃が通じて……がぁぁぁぁぁっ!?』


いや、合流ではなく襲い掛かっていた。

彼らにしてみれば同族以外は全て敵……否、食料にしか見えていないのだろう。

幸か不幸か悪児達が関所の兵を貪り食っている僅かな時間が

フウタさんとアルフォンスに悪児の接近を悟らせることとなる。


『フウタっ!! このいやらしい感じっ!』


『えぇ、俺も察知していますよ。

 吐き気を催す邪悪な気配……ヤツらが出てきましたね』


二人が見据える方角には幽鬼のように近付く異形の集団の姿があった。

その手には血に塗れた何かが握られており、

時折、悪児はそれを齧り喰らっていた。


『な、なんだ? あいつら』


『このクソ忙しい時に……え? あいつらの持っている物って?』


『人の手……? あの紋章は、関所の連中のもんじゃねぇかっ!?』


そう、悪児が手にして貪っていたのは関所を守っていた兵の成れの果てであった。

そのあまりの醜悪さに彼らは戦意をことごとく奪われることになる。


『野郎……敵味方関係なしってか?』


『関所にいた連中はやられたと考えていいでしょうね。

 まだあそこに残って防衛しようだなんて考えるヤツは頭がイカれているか、

 鬼に堕ちているかのどちらかでしょう』


『違いねぇな。本隊! 鬼が出てきた! GDゴーレムドレス隊を回してくれ!』


アルフォンスが〈テレパス〉で本隊に悪児が現れたことを通達する。

それにしてもGDとはいったいなんだろうか? 私は初耳なのだけど。


『こちらでも感じていたよ、騎士達もピリピリし始めている。

 皆、鬼の脅威を体験している者ばかりだからな。

 GD隊を回す! きみ達は退避行動に移れ!』


『了解した! やれやれ……大魔法使い様も鬼には敵わないってか?』


『こればかりは仕方がありませんよ。

 それに作戦も大幅に変更になってしまいました。

 もうこの戦場に残って戦おうという敵兵はほぼいませんよ』


『だな……おい、おまえら! 見てのとおりだ!

 死にたくなければ、あいつらから全力で逃げろ!

 俺達も勝てねぇから逃げる!』


そう言ってフウタさんを回収したアルフォンスは

空を飛んで一目散に逃走してしまった。

それを見た兵士や傭兵達は、いよいよ以って迫ってくる化け物達が

自分達の叶う相手ではないことを悟り、

武器を捨ててラングステン連合軍に投降し始めた。


戦場は新たなステージへと移り変わり、

人類と悪児との戦争へと変化したのである。


「いえ、違いますね……これはもう存亡を掛けた決戦と言えましょう」


鬼が通った後には命が残らない。

道端に生えていた草花も枯れ果て、大地も生気を失う有様。

彼らの存在を許してはならないのだ。


「しかし、桃使いであるエルティナは別動隊です。

 このままでは本隊がやられてしまいますよ、マイアス様」


「あなたの言うとおりです、ミレット。ですが……」


その時、私の脳裏に黄金に輝く光が見えた。

これは予感? いや、違う。もっと確かなものだ。

そう、言うなれば……これは未来予知。


「来る……!!」


私の呟きに応えるように、

黄金の輝きを纏う者は荒々しく戦場に舞い降りた。

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