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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
335/800

335食目 最後の攻防

 …………聞こえる……俺を呼ぶ声が。


「エルティナ! 戻って来い、エルティナ!!」


 桃先輩の声だ。

 俺がずっと聞いていた声はやはり桃先輩の声だったのだ。

 あの世界で俺が真っ直ぐ進めたのは、全て桃先輩のお陰だったのだろう。

 俺を想う彼の声が、道標もない道を迷わず歩かせたのだ。


「……ただいま、桃先輩」


「……! エルティナ! 意識が戻ったんだな!!」


 桃先輩の声に安堵と多少の怒りが混ざっていた。

 この戦いが終わったら、間違いなくお説教まったなしである(白目痙攣)。


「あぁ、心配かけてごめんな。でも……」


 俺の眼前には、魂の輝きを放つ光の剣を構えるシグルドの姿。

 今の俺には、彼の強さが、信念が、シグルドを支えている者達が視える。

 桃先輩のマイクだけじゃない、

 彼に己を託した者が全力でもってシグルドを支えている。


 でも、それはシグルドだけじゃない、

 俺もまた、多くの友の想いを支えを受けている。


 個にして多、多にして個。

 それが……俺達、〈桃使い〉なんだ!


『初代!』


『えぇ、行きましょう、二代目!』


 首にかけていた〈始祖竜の首飾り〉に埋め込まれていた宝石の一つが砕け散り、

 新たに黄金に光り輝く宝石が出現した。

 その輝きは希望の光、明日みらいへと続く道を照らし導く光だ。


「荒ぶる御霊よ、鎮まりたまへ! 我は〈真なる約束の子〉なり!」


「フキュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」


 己の存在をなんとなく〈理解〉した俺に、

〈全てを喰らう者〉の一部である〈闇の枝〉は荒ぶる力を潜め素直に従った。

 桃力で強引に作られたその体は俺の目覚めと共に、

 本来あるべき姿へと変わってゆく。


 その体は闇よりも濃い、黒い鱗に覆われ、

 その口に生えた無数の鋭い牙は、月夜に照らされ異様に白く輝いていた。

 これが、こいつの本来あるべき姿、全てを喰らう者の一柱、〈闇の枝〉だ。


 そして俺は〈全てを喰らう者〉を制御し従える〈巫女〉であるらしい。

 全てを理解したわけではない、でも、力の使い方は理解できた。

 だがこの力は消耗が激し過ぎて、実戦には耐えられそうにない。


 結局は制御できていないのと同じじゃないですかやだー(白目痙攣)。


「こ、これは!? どういうことだ!」


「詳しいことは、戦いが終わったら説明するんだぜ。

 桃先輩、これが最後の攻撃だ、俺の作戦を聞いてくれ」


 俺は桃先輩に最後の作戦を説明した。

 彼は猛烈に呆れていたが、熱意を持って説き伏せる。


『きゅーん、きゅーん! ふっきゅん! とやってな?

 きゅんきゅんきゅん、で、ふっきゅんふっきゅんとやって、 

 だから、ここでな、ふきゅんとな!! な!?』


『ええい、会話の途中で鳴くな。というか鳴いてしかいない。

 だが、言いたいことはわかった。俺も全力で事に当たろう。

 これは本当に博打だ、失敗すれば命はない……覚悟はいいんだな?』


『あぁ、覚悟は完了している! それでは……ユクゾッ!』


 遂にシグルドと決着を付ける時が来た。

 既にお互い限界に達しようとしている。

 この攻撃が最後の攻防になるだろう。

 必ず勝って、フィリミシアに帰るんだ!




 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


 エルティナの雰囲気が変わった。

 欲望を曝け出していた姿から一変し、

 何かを悟った様子で落ち着きをとりもど……急に手足をバタバタさせ始めた。


「アレは何かの誘いか?」


「あの嬢ちゃんのすることは、GODでもわかんねぇよ」


 マイクは我の残っている桃力を管理するので手一杯のようだ。


『ファック! 足りねぇ、桃力が足りねぇ!

 もう限界をゆうに超えている、もう〈暴虐の音玉〉は使えねぇ!

 桃力で攻撃を固定させるのも、もって十秒だ!』


『マイク、その十秒はおまえに託す。頼むぞ……兄弟』


『……!! あぁ! 任せてくれ、ブラザー!!」


 エルティナが構えを取った。

 桃力で作られている大蛇はその姿を変貌させていた。

 巨大な体に生える、闇よりも深い黒き鱗。それは黒竜の鱗よりも濃い闇。

 そして、何よりもその態度だ。

 今の大蛇は完全に彼女に服従している。

 エルティナの傍で控える大蛇は、まるで守護者のようでもあったのだ。


 一番変化しているのはエルティナ本人であった。

 赤く輝いていた瞳は澄んだ青水晶の輝きを取り戻し、

 その黄金の髪は桃色に染まっている。

 彼女を囲うように回っている陰と陽の輪は輝きを増し重なり合い、

 やがて一つの輪となりエルティナの中へと入っていった。


『も、桃力の限界突破!?

 まさか……あの状態で〈真・身魂融合〉をしたっていうのか!?

 でも、誰と!? そんなヤツは、いなかったはずだぜ!!』


 確かに姿は見えなかった。だが、我にはわかる。

 そして、シグルドも理解しているはずだ。

 彼女が誰と〈真・身魂融合〉を果たしたのかを。


『我としては、まだ彼女と

〈真・身魂融合〉を果たしていなかったことが驚きだがな。

 いずれにしても、これで役者は揃い決着の時がきたということだ。

 行くぞ、マイク、シグルド!』


 我はシグルドの剣を構え、エルティナ目掛けて最後の突撃を試みた。

 泣いても笑っても、これが最後の攻防になる。

 残った全ての力をこの攻撃に注ぎ込む!


「待たせたな、シグルド! これが最後の戦いだ!」


 エルティナが右腕に持っていた木の枝を振り上げ、そして振り下ろした。

 闇の大蛇がその動きに合わせ、とてつもない速度で我らに向かってきた。


 もう、我には攻撃を避けるつもりは毛頭ない。

 ただ、ただ……渾身の一撃を叩き込むのみ!


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 口に咥えたシグルドの剣が激しく輝き、

 闇よりも深い大蛇を切り伏せんと振り上げた瞬間、

 突っ込んできた闇の大蛇が桃色の光の粒となって弾け飛んだ。

 その中から出てきたのは、光り輝く〈鞘〉を持ったエルティナだった。


「な!? 嬢ちゃんはあそこに……!?」


 確かにエルティナは一歩も動いておらず、その場に佇んでいる。

 だが、その姿が桃色の光の粒となって崩れ去ってゆく! こ、これは!?


「桃力特性〈幻〉。

 エルティナの切り札は使い果たしたが、

 俺の切り札はまだ残しておいたのでな……ここで切らせていただいた」


 エルティナに憑いた桃先輩の桃力の特性による幻。

 なんという幻なのだろうか、

 あたかも本物がそこにいるようにしか感じられなかったのだ。


 しかも、エルティナは己の切り札を『囮』として使った。

 これでは、あそこにいた幻を見破るのは至難の業だ。


 なんという大胆な戦法であろうか。


「初代!」


 彼女はその鞘をシグルドの剣に投げ付けた。

 すると、まるで吸い寄せられるかのごとく、

 その鞘はシグルドの剣に収まってしまったではないか!


「私が彼を抑えます! 後はあなた次第よ、二代目!」


 鞘が喋った!? まさか、この鞘はシグルドと同じく……!?


「やはり、きみか! 相棒、俺を手放せ! 攻撃の妨げになる!」


 我はシグルドの声に即座に反応し剣を手放す。

 シグルドの剣は天高く放り投げられた。

 すかさず迎撃に移ろうとするも動揺してしまった結果、

 僅かに反応が遅れ、エルティナに懐に入られてしまう。


「シグルド、これが俺の最後の攻撃だ!

 これに耐えられれば、おまえの勝ち!

 耐えられなければ……俺の勝ちだ!!」


「エルティナ!!」


 その青く輝く瞳に強き決意を秘めて彼女は叫んだ。


「〈多重連結発動術式〉起動! 

 喰らえ、禁呪……〈イフリートボム〉!!


 その瞬間、巨大な十個の火球が出現し爆ぜ、

 闇夜の世界を赤く染めあげた。

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