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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
317/800

317食目 吸血鬼二人

◆◆◆ブランナ◆◆◆


「お父様、来ましたわ」


「うむ、わかっている。

 我が種族を衰退せしめた宿敵が、遂にやって来たな」


 眼前には手負いの黄金の竜が、ギラつく眼光をわたくし達に向けている。

 彼ら竜は我々ヴァンパイアにとって忌々しき存在。

 ただでさえ忌々しいというのに、

 よりにもよってエル様を付け狙うとは言語道断!

 理由など聞くまでもない、肉片も残さずこの世から消えてもらう!


「そこを通してもらう」


 驚くことに、知能の欠片もなさそうな黄金のトカゲが人の言葉を操った。

 よくよく見れば、その瞳には知性の輝きが見て取れる。

 他の低脳トカゲ供とは違うようだ。


「お断りいたしますわ」


「そのとおりだ。

 エル様に害をなす者は、このブラドー・クイン・ハーツが許さぬ」


 お父様のいうとおり、いかなる理由があろうとも、

 エル様に害をなす者は許すわけにはいかない。

 主人を守るのが臣下である我らハーツ家の使命であるのだ。


 加えてこの月夜での活躍を逃せば、もう出番がなくなるかもしれない。

 わたくし達もいろいろと崖っぷちなのだ。

 この絶好のチャンス、必ずやものにしてみせる!


「やはり、話し合いでは済まぬようだな。

 ならば⋯⋯押し通る!!」


 黄金の竜より放たれたのは凄まじいまでの闘気。

 それは今まで感じたことのないものであった。

 これほどまでに強い決意と覚悟を持った闘気など、

 わたくしは知り得ない。


「ブランナ⋯⋯パパ、チビりそう」


「しっかりしてくださいまし!

 誕生パーティーを寝坊して遅れた分をここで取り戻さないと、

 エル様に合わせる顔がございませんことよ!」


 そう、我が父ブラドーはエル様の誕生パーティー前日に、

 着て行く衣装を吟味し過ぎ、朝遅くまで起きていたのである。

 

 その結果、うっかり寝過ごしたため誕生パーティーに遅刻し、

 慌てて駆け付けた時には大騒動の真っ最中。

 わたくしがお父様に、エル様がデクス山に向かったとの情報を与えると、

 山に到着はしたものの、今度は遭難していまうという醜態を晒してしまった。


 そう、お父様は究極の〈ドジっ子〉スキルを持っているのだ。

 お父様はいつも真剣で真面目で一途であるが、

 このスキルのせいでいつも失敗ばかりだ。

 何も良いことなどない、これは女神マイアスの呪いと言ってもいいだろう。


「う、うむ。そうであったな。

 ここで竜退治を完遂させ、汚名を挽回する!」


「汚名は返上するものですわ! お父様!」


 わたくしがそう指摘すると、お父様は顔を手で覆って塞ぎ込んでしまった。

 あぁもう、お母様が生きていてくれたら、こんなことには……。


「漫才は終わりか? そろそろ仕掛けさせてもらう!」


 そして、場の空気を読まない金色トカゲ。

 場の空気を読んで、ボケてくれるエル様のありがたみを改めて知る形となった。


「来ましたわよ! お父様! ほら、いじけてないで迎撃してくださいまし!」


「うぐぐ、パパ、ショックで立ち直れない」


 だが時間は待ってはくれないのだ。

 お父様を無理やり立たせて格好だけは付けさせる。

 まったく、世話が焼ける人だ。


 でも……わたくしが物心付く前は、

 きっとこれ以上に、お父様達に世話を掛けていたのだろう。

 それならば、これくらいの世話など小さいことだ。


「汝らに時間を掛けている余裕はない。

 小さき強者エルティナが、我を待っていてくれているのだ!

 滅せよ! 不死者共よ!!」


 金色トカゲが、こともあろうに魔法を放ってきた。

 しかも、対アンデッド用に開発された、

 光属性下級攻撃魔法〈シャイニングボール〉である。


 冗談ではない。

 こんなものが直撃したら、わたくし達は体を維持できなくなってしまう。

 なんとしても回避しなくては。


 放たれた光の玉の数は多くはない。

 だが……時間差で放たれている光の玉は非常に回避しにくかった。

 避ける方に、避ける方に光の玉が飛んでくるのだ。

 このままでは、直撃するのも時間の問題である。


「あばばばばばばばばばばばば!?」


「お、お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 避けるどころか全弾命中しているのはお父様だ。 

 しかも避ける方向に光の玉があるので、

 自ら当たりに行っているように見える。


「芸人根性、極まれりってヤツだな」


「そんなものは知らぬ」


 金色トカゲの口から別人の声が発せられた。

 わたくし達はこの現象を知っている。

 ダナンからの報告は本当だったのだ。

 信じたくはないが……この金色トカゲはエル様と同じ桃使い!


「ぐおぉぉぉぉぉぉ……!!」


 お父様の断末魔の叫びが、人気のないデクス山に響いた。

 なんてこと、こんな何も結果を残せず消えてゆく雑魚キャラのように、

 お父様が消滅してしまうなんて!


「ぉぉぉぉぉぉぉ……あれ? 痛くないぞ?」


「へ?」


 強力な〈シャイニングボール〉が全弾命中したにもかかわらず、

 お父様の肉体はまったく損傷していなかった。

 これはいったい、どういうことなのだろうか?


 もしかしたら、デイライトウォーカーになるための訓練が、

 光属性の攻撃魔法の耐性を高めたのであろうか?

 攻撃を放った金色トカゲも驚いた表情を見せた。


「ええい、この異世界の法則も当てにならないぜ。

 楽に勝てると思ったのになぁ。

 ブラザー、桃力で浄化しちまおう!

 桃力は陽の力! 不浄なる者にとっては最悪の力だぜ!」


「わかった、我が咆哮に陽の力を載せて放たん!」


 続けて金色トカゲは咆哮に、ピンク色に光る力を載せて放ってきた。

 それは広範囲であり速度も速く、回避は困難であったのだが……。


「……あら? この力は感じた覚えがありますわ」


「うん、パパもだ。

 あ~わかった、エル様の力に似ているな」


 やはり金色トカゲの攻撃は、わたくし達には通用しなかった。

 この攻撃も不死者にとっては致命的であることは理解できる。

 しかし、どうやらわたくし達は護られているようなのだ。


 偉大なるエル様の血の力によって……!!


「くっくっく……だったらいける!」


「急に強気になりましたわね、お父様」


 吸血鬼の最も苦手とする攻撃が無効化できている。

 加えて月の加護による超再生能力が発動中である。

 満月でもないのに何故、超再生能力が発動しているかはさておき、

 わたくし達に運が味方している、ということだけはわかっている。

 これは間違いなく、エル様を護れと月が言っているのだろう。


 それならば……!


「金色トカゲ! 月に変わって……成敗して差し上げますわ!」


「あー! それ、パパも言いたかった!」


 油断なく身構える黄金の竜。

 さぁ、わたくし達の時間はこれからだ。

 その黄金の身体を赤い、赤ぁい血で染め上げて差し上げますわ。


 神秘的な三日月が我らを照らす中、

 吸血鬼の威厳と、エル様を護るための戦いが始まるのであった。

◆ブラドー・クイン・ハーツ◆〈本格的な登場は238食目から〉


吸血鬼の男性。187歳。ハーツ家当主。

ブランナの父親。

妻のリアンナはブランナが三歳の時に死別している。

黒髪のオールバックにちょび髭が良く似合う中年の紳士。

瞳の色は赤。

基本的におっちょこちょいで、落ち着きがない。

非常に娘想いであり、彼女のためであれば苦労も厭わない。

黙って大人しくしていれば、

威厳ある古き良き時代のヴァンパイアである。

得物は業物のレイピアであったが、金を工面すべく売り払ってしまった。

最近は〈もやし〉を育てているらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 惜しい!
2021/07/29 17:12 思いつかない!(八つ当たり気味)
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