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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
163/800

163食目 飲んでも飲まれるな!

 ◆◆◆


「そろそろ白状したらどうだ?」


 俺は目の前の中年男性に尋問をしていた。

 男性は中年の男性で、歳の頃は三十代後半といったところだ。

 彼はオークであり土木作業員が着る作業着を身に纏っている。


 この世界のオークの特徴である隆々の筋肉が、

 作業着に悲鳴を上げさせていた。


「し……知らねぇなぁ……」


 そっぽを向いて、知らぬ存ぜぬを決め込もうとする。

 顔からは滝のように汗が流れ、顔は青ざめていた。

 彼はその丸太のような太い腕を組み、落ち着かない様子で

 俺をちらちらと覗き見ている。

 その太い腕にはかわいらしい天使とハートの刺青が彫ってあった。


「ネタは上がっているんだぞっ!!」


 バンッ! と机を叩き俺はオークの男を睨みつけた。

 しばらくの沈黙の後……オークの男は観念し自白した。


「すんませんっ! 言いつけを破って……飲み過ぎましたっ……うっぷ」


 このオークの男の名はノマンズ・イラレネーと言い、

 通称『酒漬けのノマ』という酷い二つ名を頂戴している筋金入りの酒飲みだ。


 俺は決して飲むなとは言わない。お酒は美味しいのを知っているし、

 飲むと気持ちが良くなって楽しい気分になる。


 ただ……節度を守らないと痛いしっぺ返しが来ることも知っている。


 彼は知っていても、その向こう側に逝ってしまう男だ。

 もし俺がヒーラーでなければ「凄い漢だ」と言って敬礼していたことだろう。

 だが俺はヒーラーなのだ。

 病気やケガで苦しむ人々を救うことを生業にしている者だ。


「ばか野郎っ! 酒は飲んでも飲まれるなって、それ一番言われてっから!」


 ショボンと落ち込み、俺の何倍もある体を小さくするノマンズ。


 あぁ……でも、飲んでしまう理由はわかるのだ。

 あの竜巻の一件を乗り越え、友と支え合い勝ち取った明日を

 喜び分かち合い、酒を酌み交わす。

 壊れた建物や大地を己と仲間で力を合わせ再び蘇らせる喜びと使命感。

 その日の終わりに褒美にと飲む酒の美味いこと美味いこと。

 仲間がいれば尚更だ。


「全く……がんばってくれているから強くは言いたくはないが……

 そのまま飲み続けていたら、何時か大変なことになるんだぞ?」


「すんません……」


 彼は十分に反省しているようなので、

 上級総合異常治癒魔法『クリアランス』を施した。

 こいつにかかれば、二日酔いだろうとアルコール中毒だろうと即回復だ!


「はぁ……助かった」


 彼の青ざめていた顔は元に戻り、

 重労働に従事するたくましい男の表情に戻っていた。


「全く……いったい何をつまみにしていたんだ?」


「いやぁ……自分、普段テキーラなんですが

 居酒屋のコロッケが美味しかったんで、

 芋焼酎のロックでぐいぐいと……」


 ばか野郎……即死コースじゃねぇか。しかも芋尽くしかよ。


 わからんでもない、サックサクの衣を一口かじり歯ごたえと暑さを楽しむ。

 それをかみしめると、次はジャガイモ特有の香りと甘味が口に広がる。

 かみ続けるとジャガイモのねっとりとした食感が、

 舌と歯を楽しませてくれる。

 そして遂に飲み込むのだが、この瞬間が最高に喜ばしい。

 何故なら次に来るのがビールあるいは、先程の芋焼酎等のお酒であるからだ。


 コロッケは油で揚げる料理なので、ビールが最適だと俺は思っている。

 あの爽快感はコロッケの油をぶったぎり、

 次のコロッケを新鮮に味合わせてくれると思うからだ。

 芋焼酎も悪くない手だ。原料はサツマイモだが相性はいいだろう。

 焼酎は何にでも合う万能なお酒だ。


 出来立てのコロッケの熱さでヒリヒリする口を、お酒で冷やしつつ

 尚且つお酒の味を楽しむ。大人に許された至高の一瞬である。


 さて、コロッケだが最初っから

 ウスターソースをかける人が大勢いるが……少し待って欲しい。


 それでは、揚げたての衣がしなっとなってしまうし、ウスターソースの味が

 強烈過ぎてコロッケ本来の繊細な味が壊れてしまう。

 揚げたてでないのなら、最初っからウスターソースをかけてもいいだろう。

 だが、揚げたてのコロッケにそれは勿体ない。


 あの衣とジャガイモの味を十分味わうには、

 まずそのまま一口食べることを進める。

 そうすれば、今まで知らなかったコロッケの魅力に気が付くはずだ。


 次は塩を試して欲しい。

 塩なら衣をフニャフニャにはしないからだ。

 考えてみて欲しい。ポテトチップのことを。


 そう、ポテトには塩が良く合う……で、あるならコロッケも合うはずである。

 大地の味に海の味がドッキングする。

 考えるだけでワクワクするではないかっ!


 ポテトチップにはない感動が、揚げたてコロッケにはあるのだ。

 コロッケには、硬さと柔らかさが同時に存在する素晴らしい料理だ。

 そして、かけるものによって千差万別に変化する。


 ウスターソースにケチャップ、塩も良いし醤油もありだ。

 揚げたてならバターを乗せてもいいし、マヨネーズを纏わせてもいける。

 タバスコをかけてピリ辛に、カレールゥを乗せても受け入れてくれる。

 あぁ……粒マスタードもいいなぁ。

 酢醤油、変わったところで魚醤なんてもいける。


 そう、コロッケには無限の可能性があるのだ……


 あ、塩とハチミツもいけることを伝えておく。ハチミツは少なめにな? 


「コロッケが美味かったんなら仕方がないが……ほどほどにな?」


 全くもって、コロッケは罪深き料理であるな!


 ◆◆◆


 かぽーん!


「ふぃ~極楽極楽」


 俺が今いるのは、フウタが設計建設したヒーラー協会の風呂だ。

 ここも竜巻による被害で損傷していたが、桃先生の木が修復してくれていた。


 ここの苔やキノコは熱に強いらしく、

 普通に生えていたし平気な顔をしていた。

 そのお蔭で風呂に入りつつ素晴らしい光景が堪能できているのだ。


 例えるなら……露天風呂に入りながら見る満天の星空だ。

 天井に生えているヒカリゴケ達が星のように光り、床に所々生えている

 光るキノコ達が安全を確保してくれている。


「ほぅ……綺麗だぁ」(うっとり)


 問題があるとすれば……見とれてのぼせてしまうことか?


「ん~? エルティナ様、お顔が赤いですよ~?」


 俺を呼ぶ呑気な声、振り向けば豊満な肉体を誇る彼女がいた。


 エミール・エフュン、かつての若手ヒーラーで

 過酷な魔族戦争を共に乗り越えた仲間である。


 最初に会った時は、最も能力が低く頼りない存在だったが

 今ではその面影はなく、後輩に慕われる良き先輩に成長していた。

 心を鬼にして指導した甲斐があったというものだ。


「エミール姉……一段とエロイ体になってるんだぜ」


「んもぅ! これでも少し痩せたんですよっ!?」


 ……えっ!? 全然わかりませんのですが……


 俺はじっくりとエミール姉の肉体を観察した。


 エメラルドグリーンの癖のある髪、まん丸の目に納まっている紫の瞳。

 ぽっちゃりしているせいで、かわいい系の顔になっている。

 胸は勿論大きい。ん~ペペローナさんより小さく、ディレ姉より大きいか?

 お尻はでっかいぞ~! ミランダさんも大きいがそれに匹敵する!

 お腹は……一番出てる。ぷにっぷにだぞ!!

 彼女、実は足が長い。

 痩せれば、素晴らしいスタイルになるのは明白だが……無理そう。


「……全くわかんないんだぜ」


「えう~」


 不満そうな顔をしているエミール姉。だって……わからないんだもの。


 エミール姉は体を洗い浴槽に入ってきた。 

 大きな乳房が、お湯にぷかぷかと浮いている。


「は~……良いお湯ですねぇ……景色もいいし、言うことなしですね」


「それについては、同意せざるをえない」


 お互いに「は~」と、言ってうっとりする。

 前世の時も俺は風呂が好きだった。日本人だから仕方がないね?


 ガラッと、戸が開く音がする……また、だれか入ってきたようだった。


「おんっ」


 ……入ってきたのは、とんぺーであった。


「あら? わんちゃんですね?」


 とんぺーは俺達が入っている浴槽の隣にある

 桃先生の木の根が、絡まり合ってできた窪みに溜まっているお湯に浸かった。


 なるほど……そこはとんぺー達、ビーストのお風呂だったのか。

 しばらくすると、もっちゅ達もやって来てお湯に浸かった。

 浸かったのは俺のいる浴槽だったが。

 もっちゅの場合浸かる……と、言うより浮いているだけだ。


「あはは、賑やかで楽しいですね?」


「ふきゅん、まったくだぜ」


 俺は桃先生の木が演出する露天風呂を、心行くまで堪能するのであった。

 ……のぼせるまで浸かっていたのは内緒な!?

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