陽と陰の力
◆◆◆
「ギュンター! 決着つけるぞ!」
俺はそうギュンターに言い放った。
「小賢しいマネを……! 見習いごときが!!」
憎々しげに、俺を睨み付けるギュンター。
ムセル達は、みどりちゃん達の元に辿り着き、睨み合っている。
待っているのだ。……戦いの合図を!
「ギュンター! おまえが臆病者でないのなら……ムセルと戦え!
それとも……怖いのかっ!?」
俺はギュンターを挑発する! これに乗らなければ男じゃねぇっ!
あ……女だったらどうしよう? ま、いっか。気にしない、気にしない。
「言わせておけば……いい気になりおって!
貴様の大切なゴーレムを、ズタズタに引き裂いてくれるわっ!」
乗った! よし! いくぞ!!
「ならばっ! ゴォォォォォォォレムゥ、ファイトォッ!!」
俺は裂帛の気合を込めて叫ぶ!
「レディッ!!」
ギュンターが合わせてきた!
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
俺達……四人の声が重なった! 最後の戦いが始まったのだ!
みどりちゃんに突撃するムセル! 最早作戦などない!
持てる力を全て使い……撃破するのみっ!!
「いけっ! ムセル!!
おまえの全ての力をもってみどりちゃんを倒すんだ!」
それに続くツツオウ!
「ここまで来たら、最早……言うことはない!
勝ってこい! シシオウ!!」
「にゃーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
殿にイシヅカだ!
「さぁ! 最後の戦いだよっ!
悔いのない戦いをしておいでっ! イシヅカッ!!」
のっしのっしと、勇ましく走るイシヅカ。
ここまで、一人も欠けることなく来れたのも
道を切り開いてくれた皆のおかげだ。
……絶対に負けられないぞ!
「ふん……! 我が肉体よ! やつ等を潰して、完全体となるのだ!
その時こそ……我の復活の時!
その暁には、ここにいる全ての命を、食らってくれるわ!!」
ギュンターの言葉を合図に、前に進みだすみどりちゃん。
その体からは……黒いオーラのようなものが溢れだしていた。
いったい何だ!? あれは!?
『あれは……陰の力が、極限にまで高まった時にあらわれる『黄泉の光』だ。
触れるだけで肉体は朽ち果て、魂も腐り果てる。絶対に触れるな!』
『うげっ!? えんがちょ!?』
なんじゃそりゃ!? どうやって戦えってんだ!!
『対抗策は一つ! こちらも陽の力である桃力を
極限まで高め『桃源光』を生み出すのだ!』
『と……とうげんこう? どうやって、生み出すんだ? 桃先輩!!
もう俺……結構いっぱい、いっぱいなんですがねぇ?』
暫しの沈黙。そして……
『い、今考えるっ!』
『はやくっ、はやくっ』
対抗策はあったが、方法はなかった。
『おまえの「桃力」の保有量を、知ってるが故に対策を誤った。すまん!
本来「桃源光」は、見習いであるおまえが、使えるわけもないのだった。
加えて「桃結界陣」を、発動中だったのもマズイ。
どうする? 考えろ……考えろ……!』
とりあえず、どうするかは桃先輩に任せよう。
それよりもムセル達だ!
「ムセル! イシヅカ! ツツオウ! その黒いオーラに触れるな!」
俺の言葉を理解したムセル達は、遠距離攻撃でみどりちゃんを攻めるが……
全て、みどりちゃんに当たる前に……腐り果てた。
弾丸が、ミサイルが、光線ですら腐り果てた。
「これはひどい」
チートってレベルじゃない!
突然「ぼくのかんがえた、さいきょうロボ」が、出現したようなものだ。
「くかかか! 何だ? 少し本気を出しただけで、その有様とは……
口ほどにもないなぁ? そぅら、触れれば腐り果てるぞ?」
「離れろっ! ムセル!!」
近付いてきた、みどりちゃんから離れるムセル。
足場のリングですら腐り始めている。
「何だい! あれは!? 攻撃も防御もできないのかい!?」
プルルが冷や汗を流して聞いてきた。……顔色も悪い。
どうやら『黄泉の光』は触れなくても、体や精神に悪影響があるようだ。
ライオットも汗を流している。だが戦意を失っていないのは流石だ。
「あれは『黄泉の光』っていうらしい。触れたらアウトだ。
絶対に触れるな?」
「言われなくても触れないよ! あんなもの!!」
しかし……どうしたものか? 攻撃できなければ、勝てるものも勝てん。
桃先輩も考えてはくれているが……
「このままじゃ、ムセル達が!」
手に持った武器で応戦しているが……全く効果はない!
ムセル達がやられるのは時間の問題だ!
「どうした、どうした!? 我が肉体が完全になれば……『黄泉の光』で
この国を覆うこともできるのだぞ!? くかかか!!
恐れろ! 怯えろ! そして……死んでいけ!!」
くっそ~~~~~!! 言いたい放題言ってくれる!
『しかし……はい、それでは……はい、はい。……了解いたしました』
脳内で、誰かと連絡するの……やめてくれませんかねぇ?
めっちゃ、気になるぅ!
『エルティナ。今より言うことを……よく聞くんだ。いいな?』
『え……? わ、わかったぜ。桃先輩』
何時も以上に、真剣な声の桃先輩……いったい何があったのだろうか?
『ギュンターに勝つには、やはり……おまえが「桃源光」を発動して
「黄泉の光」を、打ち消すしか方法はない』
『でも、それには……ま、まさか!?』
凍るような声で……桃先輩は言った。
『そうだ「桃結界陣」を解除する。当然、観客に被害が出るだろう』
『被害が出る……じゃねぇよ! 何のための「桃結界陣」だよ!?
皆を守るためにあるんだろう!?』
俺は桃先輩に怒鳴ってしまった。
わかっているのに我慢できず言ってしまった。
『そうだ……! 皆を守るのが「桃使い」の使命であり……存在意義だ!!
で、あるならば……切り捨てなければならない命も出てくるのだ!!
今ここで、おまえが倒れたら……この世界に「鬼」に対抗できる者はいなくなる!
やつを倒さねば……この世界の命が、全て食われてしまうのだぞっ!?』
『な……何だよそれ? 俺しか対抗できないって!?』
俺は血の気が引くのを感じた。
確かこの世界にいる『桃使い』は俺のみって言ってた気はするが……
それでも何人かは『鬼』? 余裕っすよ!?
とか言って、ボコボコにする勇者がいると思ってた。
『陽の力と陰の力は、本来一つの力なのだ。
そのバランスが崩れ「陰」に傾いたのが「鬼」だ。
その逆が我々「桃使い」だ。
故に……普通の存在では「陽と陰の力」は使えん。
何故なら「陽と陰の力」
互いに、相殺し合って生まれるエネルギーで存在しているのが
植物、動物、精霊、そして……人だからだ』
『普通の人が「桃力」を使ったら……どうなるんだ?』
少し、間を置いて桃先輩が答えた。
『使ったあと「鬼」になる。「陰の力」に飲み込まれるからだ』
『!!』
そんな! いや……でも! こんなことって!!
『わかったか? 「桃使い」である……おまえの存在が、いかに特別であるかを。
「陽の力」を使っても「鬼」にならない、我等にしか「鬼」を倒せないことを!』
『う……ぐぐ…………』
理解はできた。納得はできていないが。
ようは、大のために小を捨てろっ……て、ことだろう?
『こんな……こんなことって!』
『すまん……だが、今「鬼」を倒せるのは我等のみだ。
決断はエルティナ。おまえが決めるんだ俺は……いや、我々はそれに従う』
俺の鼓動が速まる。心臓がバクバクいってきた!
息が荒くなっていく。苦しい! どうする? どうする!?
決断の時は迫っていた……




