聖女と野良ビースト達
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「おっし!『桃結界陣』完成だ! これで観客に被害はでない!」
我が国の聖女、エルティナ・ランフォーリ・エティルが、何かの結界を張り終えた。
俺がこの子と初めて会ったのは、ヒーラー協会に立ち寄った時だ。
エレノアと一緒にいた聖女エルティナは、背丈が同世代の子供より低く
女性としては長身のエレノアが、少し腰を屈めて手を繋いでいた。
しばらくはエレノアと立ち話をしていたが、突如「ぐぅ~」と音が鳴る。
聖女エルティナの腹の音だった。
そこで、会話を打ち切って別れたのが最初の出会い。
それ以来、ちょくちょくと顔を合わせるようになった。
親友であるタカアキと、出会ったのもこの頃だったな。
幼いながらも抜群の治癒魔法の使い手で
戦争で傷ついた俺達を癒し、支え続けた彼女には、今も頭が上がらない。
その聖女エルティナだが……実は治癒魔法以外の素質が壊滅的である。
一部の親しい者しか知らないのであるが。
よって彼女は、常に守られ保護される立場にあった。
だが……今、彼女は自分以外の人を守るために能力を使っている。
成長したものだ。背丈以外は。
「こ、これは『桃結界陣』か!? おのれぃ……これくらいで勝ったと思うな!?
貴様さえ殺してしまえば、この結界が消えることは、わかっているのだ!」
「殺せればの話だろ? そんなことさせねぇよ!」
ギュンターと呼ばれた、気味の悪い少女の前に立ちふさがる少年達。
彼女は気付いているのか……いないのか。これも立派な能力だ。
人を惹きつけ、認め合い、共に歩いて行ける。
それが彼女の最も強力な能力だろう。そう確信している。
ま、すこし変な子だけどな。……それも愛嬌か。
「ふん……我は体を失う以前に、貴様ら『桃使い』と何度も戦ってきたのだ。
見習い! 貴様程度……我の敵ではないわっ!」
その言葉と共に増殖……いや分裂だな。どんどんと数を増やす、黒いホビーゴーレム。
その数……およそ三百といったところか?
その異様な光景にも眉を動かさずに、堂々と結界を維持し続ける聖女エルティナ。
大した度胸だ。この歳で、ここまで肝が据わっているものは、そうそういないだろう。
この戦い……俺こと、フウタ・エルタニア・ユウギは
聖女エルティナの勝利で終わると感じていた。
◆◆◆
ちょっと増え過ぎじゃないですかねぇ?
ムセル達の前には、およそ三百体の黒いゴーレム達の群れができあがっていた。
いくらなんでも多過ぎるし、ルール無視にもほどがある。(呆れ顔)
ギュンターは、そんなものガン無視といったところだ。……当然か。
あいつはゴーレムマスターズをしていない。あいつがやっているのは『狩り』だ。
獲物を『狩り』で仕留め……食らう。そしてデカくなる。
その狩り方がまた、最悪の方法ってだけだ。
相手を痛めつけ苦しめてから仕留める。そして目的のためなら手段を選ばない。
徹底しているな。感心する。で……あるので。
こっちも遠慮しないで『ぶちのめせる』わけだ!
「数が多いから何だ! ムセル! やっちまえっ!!」
「待ちなよ、食いしん坊! いくらなんでも無茶だよ!?」
プルルがムセル達を止める。でも、やってみないとわかんないぞ?
ムセル一人で無双するかもしれない。
とあるアニメの終盤で、鬼の強さを発揮した青いロボットがいてな?
ムセルも真似できるかもしれないってな?
とか考えてたら、ちっさいみどりちゃん達が攻撃してきた!
いっちょ前に『憎しみの光』をぶっ放してきやがった!
『いかん!「桃の加護」を全員に施せ!
今は「陰の力」を結界外に出さないようにしている!
結界内にいるものは「陰の力」を防げない!』
『何ですと!? ふ……ふおぉぉぉぉぉっ!? 間に合えぇぇぇぇぇ!!』
桃先輩! 言うのが遅いです! 俺は慌てて皆に『桃の加護』を施そうとするが……
間に合わない!? 皆に当たっちまう!? 何発か俺で防げるか?
体を張って皆を守ろうと、前に出ようとした時……何ものかが、皆の前にあらわれた。
「おまえら! 何を……!?」
野良ビースト達であった。次々と『憎しみの光』が野良ビースト達に迫る!
危ない! 避けろ、おまえら! あ~! あたっちゃ~~~う!?
しかし彼等が「わん! わん!」「にゃーーーんっ!」「チュチュッ!!」
と、吠えたり鳴いたりした途端……彼等から桃色の光が溢れだした。
それは命中するはずの『憎しみの光』を霧散させた。スゲェ! どうなってんだ!?
『あの動物達からも「桃の加護」を感じた。いったいどうなっているんだ?』
……あ! そういえば『桃の聖域』にいたのは、俺達やムセル達の他にも
野良ビースト達がいたんだった! それで『桃の加護』が付加されていたのか。
『たぶん……祝福した時の余波が、かかってたんだと思う』
『おまえ達は何をやっていたんだ? まあいい、思わぬ良い結果につながった。
この隙に「桃の加護」を施すんだ!』
よし! まかせとけ~! このチャンスは逃さないぜっ!
野良ビースト達を見れば……全員ドヤ顔をしてこっちを見ていた。
なので俺は親指を立て、グッと突き出した。
言葉は通じないが……意思は通じた。
野良ビースト達は、再び吠えたり鳴いたりして攻撃を防いでくれている。
「ようしっ! 『桃の加護』発動! 皆に力を!!」
俺は『桃の加護』を『全員』に施した。その直後、襲いかかる倦怠感と脱力感!
ぐおっ!? これは……かなりキッツイ!! 油断したら気を失いそうだ!!
『しっかりしろっ! まだ倒れるわけにはイカンぞ!?』
『わ……わかってるよ! 桃先輩! こんなところで倒れるかよっ!?』
俺は腹に力をいれて、踏みとどまった。……ちょっと、オナラが漏れたかも。
でもこれで、皆の安全は確保できた。ひとまず安心だ。
「ありがとう! 野良ビースト達! もう大丈夫だ!」
『いいってことよ!』『いくらでもまもってあげる!』『ちゅちゅ!』
……また、鳴き声が言葉に聞こえた。更に珍獣化が進んでいるもよう。ビクンビクン。
まあ、困ることではないのだが。むしろ、喜ばしい。
「これは? いったいどうなっているんだ?」
マフティが聞いてきたので、簡単に説明してあげた。
「これであいつ等と戦える」(超簡潔)
「オーケー、やられっぱなしじゃ……性に合わねぇ!
テスタロッサ! 乱入だ! やっちまえ!!」
「うん……わかった。ま……」
……!? 何か聞こえた。聞き間違いかしらん?
てっちゃは、ささやくようにしゃべるからなぁ……たぶん、聞き間違いだろう。
てっちゃが突っ込んだのを見て、わららとダイブルトンも突撃した。
更にはアークとエイン、ジュエルも参戦した。
「及ばずながら、我等『ホーリー』も加勢いたします!」
「ミカエル! 助かる! ムセル達の邪魔をするやつを抑えてくれ!」
そして、俺の横を猛スピードで駆け抜ける黒い影!
その数は三つ! 当然その正体は……
「もちろん私達も参加するよ! 早くあいつ等に勝って……
きちんと優勝しちゃいなよ!?」
「おう! まかせとけ!」
『ブラックスターズ』のリック、ドゥ、ムゥもムセルに力を貸してくれる。
かつてのライバル達が、その身を惜しまず力を貸してくれるなんて。
ムセル達は幸せ者だ! そして俺達も!
「うっは! おもしろいことになってきたなぁ?
ハンジョウ! おまえも行ってこい! 今回ドカ盛りはなしだ!」
「クック! 手伝ってこい!」
「ぽんぽ! お手伝いしておいで!」
ダナン達のゴーレムも手伝ってくれた! ぽんぽは無理すんな!?
ここに、敵味方入り混じった超大乱闘が勃発した!
相手は三百! こちらは十五体! 圧倒的な物量差だが負ける気がしない!
こちらは、激戦を戦い抜いた猛者達がそろっているからだ!
……ぽんぽは見逃してやって!
行け! ムセル達よ!! みどりちゃん達に勝って、きちんと優勝するぞ!




