62 女王蜂様 ペーストとかシャンタンとか野菜とか焙煎とか……
僕の体は白い光に包まれて、周囲は見えない。
そして、僕のお腹の一番強い光は、ゆっくりと空中に上がり、1メートル50cmくらいの高さまで来ると、ポンッと弾けた。
あ……
見ると、身長は30cmくらいだろうか? 蜂野先生のような黄色い服を着た子が懸命に小さな羽を羽ばたかせながら、じっとこっちを見ている。
僕は以前、母さんに言われたことを思い出した。
「きょうちゃんも、こうちゃんもね、生まれたての時、まだ、あまりよく見えないだろう目でじっとあたしのことを見てたのよ……」
そして、顔を見ると、わあっ!
こっ、これはまさに僕の子。顔はアルバムで見た生まれたての僕の顔にそっくりだ。
◇◇◇
周りの白い光はゆっくりと消えていき、生まれたばかりの子は蜂野先生と紗季未の方を向いた。
それを見るなりの紗季未の声。
「キャーッ、かっ、可愛いっ! この子、アルバムで見せてもらったこうちゃんの赤ちゃんの時の顔にそっくりだよっ!」
僕と同じこと考えてるよ。
「おいでっ! こっちにおいでっ! お姉ちゃんがだっこしてあげるからっ!」
紗季未は凄いハイテンション。蜂野先生はいささか苦笑気味。うーん。いつもと逆だなあ。
生まれたばかりの子はゆっくりと羽ばたいたまま、蜂野先生と紗季未の方に向かって、飛んでいった。
そして…… 左肩に座った…… 蜂野先生の……
◇◇◇
ガーンッ
そんな効果音が聞こえてくるんじゃないかと思ったほど、紗季未の落ち込みようは凄かった。
「そう…… そんな冗談でしか生きてないようでも、やっぱりママがいいのね」
蜂野先生は相変わらず苦笑しながら話した。
「ガッカリしないで、北原さん。この子はあなたのことを嫌いな訳じゃないの。ほら、いつも言ってるでしょ。あなたは大器なの。あなたの器の中が十分に満ちてくれば、この子の方からあなたの方へ飛んでいくわ」
「先生っ!」
紗季未は、がばっと顔を上げた。
「その話、本当ですねっ?」
「本当よお」
「私、頑張って、その子をこっちに飛んで来させますっ! つきましては、こうちゃんの子でもあるので、私が命名させていただきますっ! この子は男の子ですか? 女の子ですか?」
僕の子だから、紗季未が命名するというのも凄い理屈なような気もするが、蜂野先生は頷いた。
「いいんじゃないの。それで。ちなみに女の子よお。蜂の子は、ほとんどが女の子だからね」
「では。恒太朗の恒と紗季未の未で『恒未』ちゃん。言っておきますが、『み』は紗季未の未ですからねっ! めきみのみじゃないですからねっ!」
「はいはい。『こうみ』ちゃんね。こうみ、こうみと。ペーストとかシャンタンとか野菜とか焙煎とか……」
次の瞬間、紗季未は血相を変え、蜂野先生に近づくと、
「先生っ! それは『香味』です。うちの子を馬鹿にしないでください」
「はっ、はひっ」
紗季未、うちの子って……
ちなみに恒未は一連の騒動に一向に動ぜず、蜂野先生の左肩に座ったまま、むしろ、キャッキャッと笑って見ている。
この肝の据わりよう、やはり蜂野先生の血か?




