35 女王蜂様 下唇を思い切り突き出す
見ると蜂野先生はまだ笑い転げていた。
「先生っ! 先生っ! これじゃどうしょもないでしょ。早く何とかしてください
蜂野先生はむっくりと起き上がると、
「そうねえ。新川君が打ち首になって死なれても、あたしの目的にそぐわないし、そろそろ片付けるか」
「早くして下さいっ! 僕の首が落ちます」
「はいはい。んじゃ行くわよっ!」
◇◇◇
蜂野先生、両腕を左上に上げて、
「女王蜂ーッ」
更に両腕を右上に上げて、
「究極ーッ」
そして、両腕を広げて、
「魔法ーッ」
「先生っ、呑気に踊ってないで、早くなんとかしてくださいっ!」
◇◇◇
「『先生 呑気に踊ってないで 早くなんとかしてください』か。凄い辞世の句を詠むな。五七五をまるっきり無視した自由律中の自由律だ」。吉田が意味不明の事を言って、僕の発言をメモってるし。
小林は磨き上げた青龍偃月刀を高々と掲げ、自分の髪の毛一本抜いて、刃に当てて、真っ二つにしてるし。
「よーし。切れ味抜群。一瞬であの世だ。行くぞ、新川っ!」
「わーっ、先生っ! 早く何とかしてくださーいっ!」
◇◇◇
「むう。仕方ないわね。ポーズ抜きで。『女王蜂究極魔法ッ!」
「ダメだこりゃ」
蜂野先生が下唇を思い切り突き出して、その言葉を言うと……
◇◇◇
♪デーン
たちまち鳴り響くミュージック
♪デンデンデン デンデデデンデン デンデデデンデン デンデデデンデン
♪デンデンデン デンデデデンデン デンデデデンデン デンデデデンデン
修羅場の舞台だった僕の家の玄関がゆっくり右回転に回りだした。
朝日で明るかった僕の家の玄関がどんどん薄暗い世界に入って行く。
「なんだなんだ?」
「何が起こった?」
吉田は僕を、小林は青龍偃月刀を手から離し、呆然とした。
◇◇◇
完全に薄暗い空間に入った僕の家の玄関に、背の高さが僕たちの腰くらいしかなく、「裏方」と書かれた帽子をかぶった女の子たちがたくさん入って来た。よく見ると触覚が生えている。この子たちは?
「私のいた異世界から特別に来てもらった働き蜂の女の子たちよん」
働き蜂の女の子たちは本当に手際よく働いてくれた。まだ、部屋着だった僕は手早く学生服に着替えさせられ、パイプ椅子に座らさせられた。紗季未はもう制服に着替えた後だったので、パイプ椅子に座らせられ、落ち着くように飲み物を渡された。
騒ぎの最大の元凶である吉田と小林もパイプ椅子に座らさせられ、やはり落ち着くように飲み物を渡された。小林の持っていた物騒な青龍偃月刀と砥石はどこかに片付けられた。
一番手間がかかったのは蜂幡ハニーちゃんこと京太朗兄ちゃんで、まだ濡れていた体の水分を丁寧に拭き取られ、用意されたパジャマに着替えさせられた。
「ほっほっほっ、よく働くでしょう。あたしの元部下の働き蜂ちゃんたちは」
得意満面な蜂野先生に元部下の働き蜂ちゃんたちは口々に抗議を申し入れた。
「ご先代様。いきなり呼びつけられても困りますよぉ」
「わたしたち、こっちの世界は怖いから、本当は来たくないんですからね」
「仕事はキッチリやりますけど、特別料金もらいますよぉ」
ちっこい働き蜂ちゃんたちは口々に抗議する姿って可愛いなと思って見ていたら、少し紗季未の視線が鋭い。
いえ、いくら何でもここまでちっこい子は対象外ですから。
蜂野先生は蜂野先生で大見得切ってるし、
「ほっほっほっ。な~に言っての。働き蜂ちゃんたち。あたしはこっちの世界でガッポガッポ儲けてるんだから、謝礼のハチミツなんか何キロリットル単位で払ってやるわ」
また、そんな大言壮語して大丈夫なんですか?




