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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
90/103

90. ビショップベルク教会

 夫妻は気が合わないわけではなさそうだった。

 しかし、特別、親密な関係にも見えない。


 淡々と写真を撮りながら、夫妻は教会堂の奥へと進んでいく。

 エルフが魔力の源と考えている、結晶石で象られた巨大な呪鈴が、天井から吊り下げられている。


「結晶の呪鈴は、最も魔力が高い触媒と考えられています」


「彼女も持っていますよ。結晶の呪鈴」


 上永谷氏は振り返らずに答える。

 彼の視線の先には上階に備えられたパイプオルガンへと続く階段があった。


「書類を、準備したんです」


 奥さんが不意に口を開いた。

 その口ぶりは毅然として、確固たる意志が感じられる。


「皆さんの分も許可を取ってあります。どうか、ついて来てください。何も聞かないで」


 奥さんは手元に呪鈴を持っていた。

 魔力が結晶化した呪鈴。


 彼女の手元で呪鈴が振られると、床から私たちの影が消えた。


「ついていくって……」


「一体どこに?」


 私たちが狼狽えていると、上永谷氏が階段の上から振り返った。


「この教会には、ダンジョンがある」


 そんなことは知らされていない。

 どういうことだ。


「君たちも入場できる。これも……観光案内だと思ってほしい」


 他の観光客や参拝者たちは、誰も私たちに気付いていない。

 呪鈴の魔法で、私たちの姿は透明化しているようだ。


「ダンジョン案内なんて聞いてないのじゃ! 何の準備も無いまま入ったら危険なのじゃ!」


「心配ない。さあ、今は黙って付いてきて」


 上永谷氏は階段の先にある扉に手をかけた。

 扉の隙間から淀んだ空気が流れ出す。


 本当に良いのか?

 私も知らないダンジョンに入ってしまって、良いのだろうか。


 だが、このまま何もしないままというわけにもいかない。

 上永谷夫妻が、黙って私たちを見過ごすとは思えない。


 彼らには秘密がある。

 それが、私たちをダンジョン以上の危険に陥らせる可能性もある。


 私は階段に足をかけた。


「い、行くんですか? 大丈夫なんですか?」


「私たちが行かなければ、上永谷さんたちだけになってしまいます。そのほうが危険です。案内を続けるんです」


 不安気なエメットに、私は意見を述べた。


「しかし、私たちは何も持ってきていない」


「君たちの分の装備も持ってきている。そこは安心してくれ」


 上永谷氏は自分たちのリュックサックを示した。

 彼らは荷物の中に装備を隠し持っていたのだ。


 つまり、上永谷氏は最初からダンジョンに入るためにビショップベルク教会への案内を希望したということだ。

 その目的は分からないが、少なくとも彼らは単なる観光客ではない。


「もし危険があれば、すぐに引き返します。よろしいですね?」


「問題ない。早くこちらへ」


 奥さんに背中を押され、私たちは階段を登り、そしてダンジョンへの扉を開いた。

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