表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
84/103

84. 吟遊詩人

 講習が終わると実戦演習に移る。

 鍵開け師と機工士を除いた戦闘職が集められ、会議室から移動する。


「グルルル……」


 州庁舎の中庭には敵となる凶暴そうなホムンクルスが数匹、準備されていた。

 魂を失った肉体から合成された実験生物。


 召喚士に連れられ、猿轡(さるぐつわ)を噛まされたその口には、異常に発達した牙が見える。

 体長も3mを超え、体重もかなりのようだ。


 演習用とはいえ、かなりの強敵だと私は感じた。

 参加者の中には、ホムンクルスを見ただけで不安そうに目を泳がせる者もいる。


 万が一に備えて回復魔法を強化しておくため、練習用のダンジョンへと下る。

 部屋が分かれていない、一部屋だけの大広間のようなダンジョンが参加者を迎える。


 演習では3名のチームを組んで、ホムンクルスを無力化すればよい。

 私は当然ながらリーズ様とこんちゃんとチームを組んだ。


 リーズ様はここのところ槍を武器に選んでいる。

 一方のこんちゃんは謎の楽器と御札を持っている。


「作戦はどうする」


「3人がかりで殴り倒しますか」


「それは作戦といえるのか……?」


 低級な魔法しか扱えない私は、戦闘に関しては完全に脳筋な戦術しか取れない。

 相手が精神攻撃などの搦手を取らない限り、それで事足りたのだ。


 防御魔法を使う相手であれば、防御の上から殴る。

 回復魔法を使う相手であれば、回復できなくなるまで殴る。


 体力が多い巨大な相手には、眷属を召喚して一緒に殴る。

 攻撃が通らない霊体が相手であれば、武器を祝福して殴る。


 勇者との最後の戦いのように、防御も回復も捨てて、純粋な力でぶつかり合うことこそが戦いなのだ。

 勇者には申し訳なかったが、あの時は私のほうが力で上回っていた。


「ルビーばかり当てにするわけにはいかないだろう。私とこんちゃんにも任せてもらおう」


「こんちゃんさんはどのように戦いますか」


「わらわは僧侶の魔法と楽器で戦うのじゃ」


 こんちゃんはくるりと背を向けて、背負っている数種類の楽器を見せる。

 いわゆる吟遊詩人(バード)


「それなら、楽器で補助して殴り倒しましょう」


「うむ。補助は任せてほしいのじゃ」


 敵を倒すのに他の方法があるのなら、それに越したことはないが、今は上級の魔法を扱える者がいない。

 とりあえず殴り倒す方針のまま、いざ戦闘開始。


 猿轡(さるぐつわ)を外されたホムンクルスが大きく口を開いて襲いかかってくる。

 リーズ様が盾を構えて前に出ると、ホムンクルスは彼女へと向かっていった。


「わらわの調べをとくと聞くのじゃ!」


 こんちゃんは突如、マラカスを取り出し、サンバのリズムで踊り始めた。

 大きな音でホムンクルスの注意を引きつける。


「次はこれじゃ!」


 こんちゃんが角笛(ホルン)を吹き鳴らすと、先端のベルから凄まじい熱量を伴う息吹が放出された。

 息吹は私の横を通り過ぎ、ホムンクルスに向かって一直線に進む。


 ホムンクルスは横に避けようとしたが、避けきれずに息吹を横腹に喰らって転がった。

 致命打ではないが、かなりのダメージを与えたようだ。


「あっつ! あっつ! そんな攻撃するなら先に言ってください!」


「すまないのじゃ。でも、殴り倒すだけじゃ能がないのじゃ。これが吟遊詩人の戦い方なのじゃ」


 こんちゃんが楽器を使う時には、彼女から離れなければ。

 近くにいたら変な効果を浴びかねない。


「来るぞ!」


 ホムンクルスは態勢を立て直し、再び私たちに凶暴な視線を向けてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ