82. 深層への道
Uzの配信後、ミュスター観光騎士団の名は日本全国に知れ渡った。
私たちは一躍、時の人になったというわけだ。
Towitterでも無視できない数のダイレクト・メッセージが来るようになった。
冷やかしもあったが、大半は礼儀正しいメッセージだった。
観光案内を依頼するもの。
寄付したことを伝えるもの。
すべての依頼をこなすだけのキャパシティは私たちには無かった。
それでも、期待に応えられるように私たちは努力した。
こんちゃんはUzと共にトゥーリで暮らすことになり、トゥーリの観光案内所では彼女が常駐してくれることになった。
幸先のよいスタートを切ったわけだ。
新たな情報として判明したのは、こんちゃんの本名が弘明寺ナナということだった。
こんちゃん要素はどこにも無かった。
トゥーリのような都市部では、私たちの案内を期待してか、地元からの寄付も集まり始めた。
寄付を受け取る以上、それを拒むわけにはいかない。
「色々とわちゃわちゃしてきましたね。お金が増えるのは嬉しいですけどね」
お金の管理はエメットが担当していた。
エメットはイセザキやシオバラにも相談して、上手く金銭を処理しているようだった。
お金が増えると、経費も増える。
私たちの業務では必然的に出張費がかさむことになる。
まだ国外には行っていないが、エルヴェツィア共和国内の移動だけでもかなりの距離になった。
東方の砂漠付近から南方の半島付近まで。
かつて私が人間たちと戦い、旅して来た各地だった。
昔の危険な冒険と違って、日時と費用とルートとスケジュールまで記録するのは面倒だが、税務署に怒られるよりはマシだ。
そんなこんなで働きが認められたのか、幽霊議員のカルロフから連絡が来た。
カルロフはディヴォウズの観光以来、私たちを贔屓にしてくれているようだ。
「3等級への推薦。それに加えて、近隣国でも観光案内を行えるように取り計らってもらえるそうだ」
彼の目から見て、私たちは十分な実績を積んだと見做されたようだった。
しかし、あまりにも上手く行き過ぎているようにも思える。
「3等級。つまり、ダンジョンの深層に入る許可が下りるってことですよね! 私の仕事は変わりませんけど、皆さんはこれから強敵にも立ち向かう機会が出てくるわけですね! 羨ましいです!」
「その前に、実戦演習も含む研修を受けないといけないがな。ルビーは心配ないだろう」
飛び跳ねて興奮するエメットに、リーズ様は冷静に答える。
「観光局の支部がある都市まで行かないと。研修費も自費だし。こんちゃんにも来てもらおう」
「もう、そういうケチ臭いことやってるから、観光業が振るわないんですよね! もっと緩くしてもらわないと」
「そんなことして、ダンジョンの深層で死ぬ人間が増えたら、元も子もないですよ」
エメットの言わんとすることも正しいが、規則は規則だ。
私たちの命の価値は、煩雑な事務作業とそれを支える者たちによって、最低限、保障されている。
少なくとも今は、ダンジョン深層に潜るための研修を受けるのが最善のようだった。




