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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
国際金融都市トゥーリ
77/103

77. 結婚式

「参りました」


 わずか2手で勝負は決した(チェックメイト)

 私は一瞬にしてUzを下した。


「"ルールわかってねえじゃん。草。" オートチェスくらいで粋がったら駄目っていう見本ですね。すいません。

 "19640713"さん。ハイパーチャット500円ありがとうございます。"敗北者。" はい、敗北者です。

 "上海幼女カタルシス"さん。ハイパーチャット10000円ありがとうございます! "最後の一撃は、切ない。" 切なさもへったくれもないだろー、この負け方」


 たとえ負けても、撮れ高を稼ぐのがストリーマーというものらしい。

 まんまと利用された気がしてならない。


「周りから見られてますよ、あたしたち。今こそ宣伝のチャンスです」


 エメットはカメラに見切れながら、ミュスター観光騎士団の紋章を上げたり下げたりを繰り返していた。

 宣伝に熱心なのはいいが、この配信を見ている者たちが果たして観光に来るのかは未知数だ。


「スカーディナ王国の首都コブマンハウンに行きたい方、募集中です! バッチリ案内します!」


 こんちゃんが再びカンペを出す。

 "そろそろ次に行くのじゃ。"


「それじゃ、南に行って……聖ペーテル教会に向かいます」


 恐らくUzは教会に興味を示さないだろう。

 それでも、とにかくガイドしていくしかない。


 トゥーリの中ではグロース大聖堂、フラウ教会と並ぶ有名な教会が聖ペーテル教会である。

 ここにはエルヴェツィア共和国最大の文字盤を持つ時計塔が建っている。


 文字盤の大きさは8m以上。

 離れた場所からでもすぐに時間がわかる。


「私、腕時計も買ってないんですよね。スマホで見るか、こんちゃんさんに見せてもらってるから」


 Uzは時計塔の意義すら否定していく。

 日本では八百万の神を奉るというが、一神教に対する信仰心は欠片もなさそうだ。


「ここでは結婚式も挙げられるんですが、限られた上位魔族だけしか挙式できないんです」


「うーん。私は縁がないかな。こんちゃんさんはもしかしたら結婚するかも知れないけど」


「そ、そんなことはないのじゃ!」


 狐の獣人(リカント)の中でも九尾を持つ獣人は上位魔族に数えられる。

 しかし、こんちゃんが九尾であるようには見えなかった。


 どうやら教会では、ちょうど結婚式が行われていたようだ。

 歓声が上がり、教会堂の扉が開くと、正装の魔族たちが出てきた。


 若い竜人(ドレイク)(と言っても40歳くらい)の夫妻が、親戚縁者の囲まれながら現れる。

 幸せな一幕だ。


 しかし、視聴者たちはそれすらも単なる背景としか見ていないようだった。

 浅はかなコメントが垂れ流され続けている。


「あんまり撮るとアレなんで」


 Uzはそう言うが、一言くらい祝福の言葉をかけてあげても良いと思う。

 エメットは小さくジャンプしながら大きく手を振って祝福の言葉を投げかけていた。


 エメットに気付いた結婚式の参加者は皆々、手を振ってくれる。

 Uzは渋々といった調子で、小さく手を振る。


「"陽キャ"の気にあてられたわ。(つら)……」


 その顔はぎこちなく、口元を歪めるような笑みしか浮かんでいなかった。

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