表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
59/103

59. 静謐なるヴェンゼスラスの間

 何の装備も無しでダンジョンに放り込まれて、生き残れる確率は低い。

 砂浜から遠ざかった陸地側には森林が広がっていたが、下手に入り込めば出てこれなくなる可能性があった。


「あそこに何かいる」


 リーズ様が指差した先には、這いずるように動く一匹の巨大な巻き貝がいた。


「あれは多分、シェル・クラブを食ったグリーン・スライムですね。巻き貝の外にシェル・クラブが出てこないで移動しています」


「なんとかしてあれを倒して、有用な武器や防具を得られないだろうか」


「任せてください」


 私は護身用の呪鈴を懐から取り出した。

 ごく簡単な魔法しか使えないが、今はそれでも十分だ。


「【KATINOカティノ】!」


 白い霞みが巻き貝を覆う。

 グリーン・スライムは魔法によって眠りに落ち、そして動かなくなった。


 さらに、こういう時こそ吸血鬼の腕力が役に立つ時だった。

 私は砂浜の真ん中で寝ているグリーン・スライムに近寄り、素手で巻き貝の殻を叩き割った。


 驚いたグリーン・スライムは一瞬飛び跳ね、殻を捨てて森林へと逃げていった。

 残された殻を漁ると、中にはシェル・クラブが中に隠していたと思しき道具の類が残っている。


「本当に倒したな……本体は逃げたが」


「これくらいは序の口です」


 素手でスライムを相手にすることはできないので、好都合だった。

 さっそく道具を確認する。


「剣……か?」


「こっちは金槌……ですかね?」


 未鑑定の道具を扱えるほど、ダンジョン探索は楽ではない。

 誰かに鑑定してもらわなければ、武器や防具を拾ったところで荷物が増えるだけだ。


「念のために持っておくか。折角拾ったし」


 砂浜を当てもなく歩いていくと、高台の上に見覚えのある尖塔が見えてきた。

 見間違えるわけがない


「グラープの天文時計(オルロイ)……!」


 私とリーズ様は高台へと向かった。

 傾いた尖塔に設置された文字盤は、確かに天文時計(オルロイ)だった。


「どうしてこんなところに」


「わかりません。ダンジョンですから、やっぱり外の影響を受けているのかも。でも……もしかしたら罠かも知れません」


「罠か……」


 好奇心を刺激して、侵入者を陥れる罠はいくらでもある。

 私たちは躊躇い、高台の一角から一歩も進めなかった。


「あの針、なんだかおかしいぞ」


 時計の針を眺めているうちに、リーズ様が言った。


「動いていないわけじゃないが、物凄く遅い」


 よく観察すると、確かに時計の針はごく僅かにしか動いていない。


「まさか、このダンジョンは時間が歪んでいるんじゃ……」


「なんだって」


 この天文時計(オルロイ)が外と連動しているとしたら。

 外の時間と比べて、ダンジョン内では時間の流れが早いということになる。


「そんなことがあるのか」


「少し調べてみたほうがいいですね」


 私たちは意を決して尖塔に歩み寄っていった。


「誰かいる」


 尖塔のたもとに座り込んだ1つの影。

 その横顔は美しい女性のものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ