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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
56/103

56. グラープ城の旧王宮

 翌日、エメットはケロッとした顔で起きてきた。

 朝食もきっちりと食べている。


「あれだけ呑んだのに大丈夫なんですか」


「あのくらい呑んだうちに入らないですよ。今日もレセプションで呑まないと……」


 どれだけ呑むつもりなのだろう。

 いかに吸血鬼の膂力が優れているとは言え、今日もまた背負って帰るのは御免だ。


「内覧会は10時からだ。早めに出よう」


 王国の独立記念日が近いこともあって、外には人間の観光客も多くいる。

 今日は昨日訪れた旧市街広場からカルロヴァ橋へと続くカルロヴァ通りを進む。


 途中には国立図書館がある。

 元は人間の改革派教会に対抗するために、チェーヒ国王が460年前に建てさせた教会が始まりで、グラープではグラープ城に次ぐ巨大な複合建築物になっている。


 敷地内には3つの教会、礼拝堂、図書館、天文塔があり、中でも図書館は555万冊もの蔵書数を誇る。

 天文塔からの眺めも絶景であり、館内のガイドツアーだけでは物足りないほどだ。


 国立図書館を通過すると、カロルヴァ橋が見えてくる。

 ここがグラープ最古の橋。


 魔王カレル4世の命によって660年前から50年弱かけて建設されたもので、全長約520m、幅約10mの巨大な橋だ。

 両側の欄干にはグラープに縁のある聖人の像が並んでいる。


 車両は通行止めで、観光客が河の流れのように止めどなく橋を渡る。

 その流れを出店とストリート・パフォーマーが緩やかに遮っている。


「早く歩かないと間に合わないぞ」


「そんなこと言われても、皆さんよりも足が短いんですよ、あたしは」


 私たちは昨晩同様にエメットを担いで早足で橋を渡りきった。

 聖人の像が何体あったかも覚えていない。


 橋から北西に進むと市街を見下ろすグラープ城の聖ヴェンゼスラス大聖堂が目に入った。

 正面(ファサード)に建つ2本の塔の高さは実に96m。


 グラープ城は坂を登りきった丘の上にある。

 坂道の途中にはお土産屋やレストランがあり、観光客で賑わっていた。


 エルヴェツィア大陸で最大、そして最古のグラープ城の全敷地は東西430mにも及ぶ。

 城壁に囲まれた広大な敷地の中には旧王宮、宮殿、教会、そして博物館や美術館が建ち並んでいる。


 城の建造は1150年も昔から始まり、魔王カレル4世の時代にその威容を完成させた。

 何度も戦火に見舞われ、収蔵していた美術品は劫奪にあったが、城自体は今も健在である。


「なんとか間に合いそうだな」


「いや、中も広いですよ」


 第1の中庭のマーチャーシュ門、第2の中庭の礼拝堂を通過して第3の中庭に到達すると、聖ヴェンゼスラス大聖堂の迫力ある正面(ファサード)が現れる。

 が、今日の目的地はここではない。


 内覧会が行われるのは、大聖堂の先にある旧王宮のヴラジスロウ・ホールだった。

 騎士の馬上競技や戴冠式などの行事に使われてきた由緒あるホールで、これほど相応しい場所はないだろう。


 ホールの中は既に魔族や人間でいっぱいだった。

 新たな遺構の公開を見るため、芸術家やジャーナリストが集まっている。


「あれ? どっかで見た顔だと思ったんだけど」


 ホールの人混みで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにはトラベルライターのイセザキとシオバラが立っていた。


「イセザキさん、シオバラさん。お二人も内覧会に?」


「そうなんだよ。ここで再会するなんて奇遇だね」


「皆さんもお元気そうで何よりです。今日の内覧会で一足早く情報を掴めれば、観光ガイドとしての面目躍如でしょうね」


「はい! それに、知り合いがいなくてレセプションで寂しい思いをするかと思ってたんですが、そうならずに済みそうです!」


 既にエメットはレセプションのことしか頭にないようだった。

 しかし、今回の目的は新たな遺構の展示なのだ。


 私たちは開会式の時を待った。

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