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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
ディヴォウズの最高峰ヴェッスファル山とランドカジノ
30/103

30. 運命の車輪

 まさか議員と勝負させられることになるとは。

 魅惑的な夢魔(サキュバス)のカジノ従業員に案内され、私たちはVIPルームに入った。


 個室を利用できる会員カードはゲームごとに種類がある。

 カードに書かれたゲームの部屋にしか入ることは許されない。


 配られた会員カードにはルーレットの紋章が描かれている。

 果たして案内されたVIPルームでは、緑色の絨毯(タピベール)のテーブルと赤黒に縁取られた運命の車輪(ルーレット)が鎮座していた。


 席に着いてから私は重大な問題に気付いた。


「私たち、賭けるお金が無いんですが……」


「金を賭けろとは言っておらぬ」


「では何を賭けるのですか」


「館だ。おぬしの館を賭けよ」


 エメットが飲んでいたビールを吹き出す。

 飛沫が私の髪を濡らした。やめてほしい。


「ダメですって! 私の館なんですよ?」


「あそこに天文台を誘致し、日本のODAで天文機器を設置する計画がある」


「やめてくださいって! 日本とか、あんなボケ老人大国の島国どうでもいいじゃないですか!」


「しかし、他に賭けうるものはあるまい」


「いやいや、いやいや! それならこの勝負降りますよ!」


「他の者はどうだ」


「……もし私たちが勝ったら、その時はどうする」


 リーズ様が探るような視線をカルロフに向けた。


「おぬしたちのNPO法人に寄付金を与えようではないか。誰か一人でも勝てば、おぬしたちの勝ちでよい。悪い条件ではあるまい」


 フロントで気前良く5億レウも預ける相手だ。

 寄付も多額になるに違いない。


「ルビー。どうする」


 私は覚悟を決めた。


「万が一、館が取られたとしても、観光案内所の運営には問題ありません。ここは勝負を受けましょう」


「勝手に決めないでくださいよ! 今、空気が一瞬ざわ‥ざわ‥ってなりましたよ?」


 鵞鳥のような声で喚くエメットを無視して、ゲームは始まった。

 全員がスタート時に同じ額のチップを持ち、最終的に最もチップを獲得した者の勝利とする。


 全身、メタルコーティングのゴーレムがスピナー(ディーラー)として台についた。


「本日、すぴなーヲ、務メサセテイタダキマス。うぃんぐすデス」


 自己紹介の後、ウィングスはカルロフが立て替えたチップを手早く全員に配った。

 25万レウのチップが山積みになり、私は息を呑んだ。


 ルーレットは単純なルールのゲームだ。

 ホイールに並んだ00と0から36までの数字のうち、どの数字の(ポケット)に球が落ちるか予想する。


「ルーレットなんて、完全に運任せのゲームじゃないですか。ガチャですよ、ガチャ! 無謀です!」


「いえ、ルーレットにも戦術はあります。勿論、絶対に勝てるわけではないですが」


「どんな戦術なんだ」


 まず、ホイールを9つの数字からなる4つのセクションに分ける。

 そして、それぞれのセクションにある数字に単一――ストレートアップで賭ける。


 配当は36倍なので、4回に1回勝てればチップを減らさずに済む。

 これが堅実な戦術だ。


「なるほど」


「でも、しょせんは25%じゃないですか」


「スピナーの手の動きから癖を見て、どのタイミングでどこに球が落ちるか予想します」


 今回のスピナーはゴーレムだ。

 他の魔族のように動きを不規則に振れさせて球をコントロールするということは苦手だろう。


 むしろ、同じ動作の繰り返しのほうが得意なはずだ。

 つまり、癖を見抜けば勝機はある。


 かくしてミュスター観光騎士団の寄付金を賭けた勝負が始まったのだった。

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