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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
ディヴォウズの最高峰ヴェッスファル山とランドカジノ
25/103

25. 招かれざる客

 予行演習の最中、据え置きのファクシミリ付き電話が鳴った。

 すかさずリーズ様が電話に出る。


「こちらミュスター観光騎士団」


「リーズさん。ウルリカです」


 電話口からウルリカの声が漏れ聞こえる。


「ウルリカか。どうした」


「大変急で申し訳ないんですが、これからそちらに……大切なお客様がお見えになる予定です」


「本当か?!」


 リーズ様が興奮した様子で叫んだ。


「はい。とにかく本当に本当に大切な大切なお客様なんです。くれぐれも丁重なおもてなしをお願いします」


「分かった。善処しよう」


「よろしくお願いしますね。それでは……」


 そこでウルリカからの電話は切れた。


「ようやく出番だ。待ち切れないな。どんな人間が来るのだろう」


 その期待はすぐに現実のものとなった。

 10分と経たずに外が騒がしくなってきた。


 キーキーと何かが鳴き喚く声が聞こえる。

 奴隷化されたホムンクルスの声だった。


 リーズ様とエメットは聞き慣れないホムンクルスの鳴き声に呆然としている。

 ホムンクルスを従えるということは、上位魔族か。


 案内所の扉が開き、サングラスをかけた黒スーツの屈強そうな大男が入ってきた。

 獣人(リカント)だ。


 髪の間から飛び出た犬耳にかなりの強面。

 人間でなければ上位魔族でもないが、威圧感は凄まじい。


「ここがミュスター観光騎士団の観光案内所で間違いないな」


 獣人は周囲を見回し、脅しかけるように尋ねた。

 エメットはリーズ様の後ろに隠れてしまった。


「そうだが、一体何の用だ」


 リーズ様が身構えた。

 武器も魔法もないエルフが、こんな大柄な獣人に勝つ見込みはない。


 いざとなれば私がなんとかしなければ。

 私は手元に護身用の魔道具――闇魔法の呪鈴を忍ばせた。


「そんな大袈裟に構えるな。……カルロフ様、問題ありません。どうぞ中にお入りください」


 獣人が扉を開くと、ホムンクルスの群れとともに恰幅の良い魔族が姿を現した。

 淀んで灰色の靄がかかったような、実体を伴わない灰色の何か(・・)が周囲の空気を押しのけている。


 幽霊(ゴースト)だった。

 現世の理から解き放たれた上位魔族の一人が、こんな辺鄙な観光案内所に現れるとは予想していなかった。


 ウルリカのものと似た意匠の、大主教の長衣に、首にかけたストール。

 人の良さそうな顔に反して抜け目の無い目つき。


「魔族も人間もおらぬとは。真に狭小であるな。これでは客が寄り付かぬのも道理」


 灰色の幽霊の口から時代がかった言葉が飛び出す。

 狭小なのは仕方ない。


 もっと資金が潤沢であれば、こんな空き倉庫ではない場所を使えたのだ。

 貧すれば鈍するとはまさにこのことである。


「それで、吸血鬼はいずこか」


 かくしてミュスター観光騎士団2番目の観光客が現れたのだった。

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