100. 手掛かり
ヨルゲンの日記には重大な事実がいくつも綴られている。
その中で最大の衝撃は、伝説の魔王が私の館にあるダンジョンにいるということだ。
君主の寿命と飢餓耐性は、他の魔族とは比べ物にならない。
未だダンジョンの中で生きている可能性は十分にある。
「でも、どうすればいいんじゃろう?」
「そりゃ当然、探しに行きましょうよ。あたしたちが魔王の発見者になるんです! 歴史が変わりますよ!」
エメットが好奇に満ちた眼差しを輝かせる。
魔王を発見したとなれば、私たちは歴史の教科書を書き換えることになるだろう。
「だが、気が早すぎないか。ダンジョンが本当にあるのかも確認していないのに」
それでもリーズ様はあくまでも冷静だった。
確かに、順を追って少しずつ事実を確認するべきだろう。
ヨルゲンが研究を引き継がせたという者も気になる。
ノアクという名前の何者かが、ダンジョンを護っているというのだ。
魔王のために造られた聖域。
私たちの手に負えるものだろうか。
「仮に魔王を見つけたとして、どうするのじゃ? きっと、転生できると思っておるのではないか?」
「それなら、ノアクって方を見つけて聞き出せばいいんですよ。ミュスターに住んでるって書いてあるじゃないですか。ヨルゲンから研究を引き継いでから45年くらい経ってるんですから、転生の秘法だって完成してますよ」
しかし、そこまで言ってエメットは気付いたようだった。
転生の秘法が完成しているなら、私は今の状態で起きていない。
つまり、ノアクは私が起き上がる日まで、転生の秘法を完成させられなかったのだ。
だとすれば、ノアクはミュスターから去ったのかも知れない。
いずれにしても、ノアクを探し、事実を確かめるのが良さそうだった。
その時、リーズ様のスマホが鳴った。
「……イセザキとシオバラからだ。取材した時の記事がガイド本になったそうだ。ミュスターまで献本しに来ると言っている」
「皆の友人とあらば、わらわもその人間たちに会ってみたいのう」
「こんちゃんにも2人を紹介しましょう」
「それじゃ、ついでにイセザキさんとシオバラさんにも手伝ってもらって、ノアクを探しましょうよ。きっと、お二人も魔王について気になるはずです!」
エメットの頭は既に魔王に支配されてしまっている。
気になるのは分かるが、赤の他人まで捜索に駆り出すというのは如何なものだろう。
とはいえ、彼らもトラベルライターなのだから、ダンジョンの存在に興味を示すだろうことは予想できる。
利用するようで悪いが、誘ってみても良いだろう。
かくして、私たちは新たな事実とともにミュスターに帰ることになったのだった。




