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皆でゴーレム討伐しよう

◆ 王都 南の街道 ◆


「いたぞ! 奴の出方を待ち、戦闘配備だ!」


 街道をのそのそと歩いてくる巨大岩人間。近づいてくるにつれて、その大きさが割とやばいと気づく。城壁の半分程度の高さに、兜みたいな頭部。事前の情報だとあいつは私達、人間を見つけるとものすごい勢いで襲いかかってくるらしい。そんなやばい奴の目の光が真っすぐ私達に向けられた。


「くるぞッ……ち、散れ!」


 出会いがしら、ゴーレムがジャンプして私達が展開している陣形に落ちてくる。巨岩が落下してきたようなものだよ。かろうじて逃げたものの、衝撃で何人かが倒れたまま態勢を立て直せてない。


「関節の可動部分を狙え! 第一、第二パーティと追撃しろ!」


 いくつかのパーティに分かれて、ゴーレムのターゲットを少しでも逸らす。ゴーレムの周りをぐるぐると数人が回り、各方向から攻撃を叩き込む。だけど、威力が高いスキルの応酬にもゴーレムは何の怯みも見せてない。関節の可動部分とか、何の弱点にもなってなかった。

 ゴーレムは拳を散っているパーティに次々と打ち込む。地面に穴を開けるほどの威力で、みるみると大地が変形していった。


「幸い、動きはそこまで速くない!」

「かわしてばかりじゃ、どうにもならんぞ!」


 案の定、冒険者や騎士の攻撃が何のダメージにもなってない。いくら岩の塊でも、ここまで固いものかな。どうもこのゴーレム、疑問が多い。それが今一つ、攻めるに攻められない原因になっていた。まずこれは野生の魔物なのかな。


「殴って殴って殴ってぇ……拳がいてぇぇ!」

「ザイードさぁぁん!」


 殴れば殴るほど威力が上がってゴーレムをも打ち砕く、とはならなかったみたい。あと千発くらい殴ればいいんじゃないかな。


「やはりダメか……! ならば、私がッ! スパイラルトラストッ!」


 騎士団長の剛槍が回転して、こっちにもその風圧がふわりとかかる。騎士達も団長から離れたところを見ると、相当威力が高いスキルだと思う。その回転槍がゴーレムの首を撃つ。


「ぬ、ぐぅぅ! これでも削れる程度か!」


 岩の破片をまき散らしたものの、ゴーレムの首は繋がったままだ。当然、痛みなんかないから反撃がくる。重い拳をバックステップでかわした騎士団長がまた槍を構え直した。


「これは想像以上に厄介だな……」

「あのさ、あのゴーレムってなんであんなに怒ってるの?」

「お、怒ってるだと? 何故そう思った?」

「なんとなく」


 こうして対峙してるだけでも、ゴーレムの意思みたいなのがわかる気がする。そんなものはないという話だけど、あの暴れっぷりは何かに対して怒っている。そう思った。


「わたくしの鞭では岩肌をわずかに削る程度ですわ。騎士団長、あれは魔術によって生成されたゴーレムではなくって?」

「ま、まさか」

「野生にもこれと似たような魔物はいますわ。でも、ここまで固いのは異常ですのよ。あなた、何か隠してませんこと?」

「……もう黙っているのも限界か。そうだ、あれは魔術協会に依頼して生成していただいた魔法生物だ」


「暴れ狂うゴーレムは私が引きつけておくからジェシリカちゃん、会話の続きを頼むねー」


 何度か剣でこずいたら、ヘイトを向けてくれた。動きが単調で、楽々かわせる。まるで駄々っ子みたいなこの動きだ。そしてジェリシカちゃんが引き出したその情報。なんか合致しそうだぞ。


「おい、それじゃ何か? あいつは王国が生み出したってのかよ!」

「しれっとオレ達に討伐依頼なんかしやがって……!」


「皆さん、落ち着きましょう。ウサギファイターが引きつけてるのをいいことに口論しないで」


 さっきから拳を振り回してばかりのゴーレムだけど、当たったら即死なんだからね。風圧だけで兎耳が、びゅうっとよれるくらいやばい。それにこの暴れっぷりはティカが言う通り、理由がある気がする。


「元々はカロッシ鉱山で資材運搬などの手伝いをさせていたゴーレムなんだが……ある日、暴走してしまってな」

「ゴーレムの暴走事例は各地で起こってるらしいですわね。でも原因の特定に至ってないものがほとんどですわ」

「だからこうなってしまっては処分するしかないのだ……」


「まー、責任云々はこの際どうでもよすぎるので置いておきましょう。団長、このゴーレムは私に任せてもらえません?」


 悠々とかわしている私の姿を見止めた団長が強く頷く。レリィちゃんの家で読んだ本によるとゴーレムには野生、魔法生物、そして魔具によって精製されたものがあるとか。

 そしてティカは、このゴーレムが後者のうち二つのどっちかだと睨んだわけだ。それにゴーレムとなると私の領分でもあるかもしれない。隙を見て後頭部にタッチ。


――役に立っているのに悪口を言われて蹴られた

――作業が終わっても誰も磨かない

――感謝してくれない

――人間は身勝手

――ニンゲンは大切にしてくれない

――ニンゲンは蹴ってきたから敵


「蓋を開けてみればこんなものよね。ゴーレム君、ひとまず落ち着いて」


 腕を振り上げたまま、ゴーレムが動きを止める。そしてゆっくりと腕を降ろした。棒立ちのままゴーレムは動かない。


「と、止まった?!」

「団長さん。このゴーレム君は粗末に扱われた事に対して腹を立てていました。何か心当たりは?」

「……カロッシ鉱山の連中は荒っぽいからな。もしかしたら腹いせにゴーレムに当たっていたかもしれん。だがゴーレムだぞ、感情は……」

「あるんですよね、これが。どんな物にも意思があって、私はこれを物霊って呼んでます」

「ゴーレムが停止したのは君の仕業か?」

「そうです」

「一体君は何者なんだ?」

「そんな事より、この場をどうしてくれましょうか」


「そうだ。説明してもらおうか」


 討伐隊として駆り出された冒険者連中がご立腹だ。あの栄えある騎士団がこんな隠し事をしていたなんて、人によっては幻滅すると思う。団長がゴーレムの出身から生誕まで全部説明した後、冒険者達の怒りが爆発する。


「上からの命令か? オレ達だって命をかけてるんだ!」

「国の尻ぬぐいだと知っていたら、初めから断っていた!」

「冒険者だと思って安く買い叩きやがって……騎士団、見損なったぞ」


「こっちも落ち着いて。ケンカなら後でいくらでもやってよ。私としてはまずゴーレム君をなんとかしたい」


 さすがにウサギファイターの格だ。私が何か言っただけで、ほとんどの人達が黙る。なんとか一派に至っては歓喜してうるさい。


「諸君の言う通りだ。騎士にあるまじき行為だな……責任は私が取る。すまなかった」

「ひとまずこのゴーレムをカロッシ鉱山にまで送り届けますね。後はそっちでやって下さい」

「お、送り返すのか?」

「他に引き取り先なんかありませんし、鉱山の連中にいろいろわからせてやりたいんで。ではっ!」


 ゴーレムの頭を軽く撫でた後、一緒に移動を開始する。呆然とする騎士団と冒険者達をバックに、そういえばカロッシ鉱山ってどこよと焦った。ここで振り返って場所なんて聞けない。皆さん、カロッシ鉱山ってどこですか。いいよ、ゴーレム君に聞くもん。


「あの鉱山に乗り込むのか……」

「でもあっちは方角が違うぞ?」

「まぁウサギファイターの事だ。近道でもあるんだろう」


 こっちは違うみたい。でも近道らしいから、歩みを止めるわけにはいかない。依頼完了なんて後です、後。このかわいそうなゴーレムを放置できるわけがない。こんな健気なゴーレム君をいじめやがって。

 きっと最初の犠牲者が鉱山の連中なんだな。私も怒ってるから、勤務している方々には手荒なことをするかもしれない。


◆ ティカ 記録 ◆


やはり 僕が予想した通りデス

あのゴーレムが 怒っているというのは わかっていタ

感情がないだとか 心がないだとか いろいろ 言われてはいるが

それは 誤りダ

ゴーレムにも 心は あル

ただ 意思疎通の手段が ないだけデス

物にも意思があるというのは マスターもよくわかっていル

マスターが その架け橋になったからこそ 今回の事件は 解決に向かっていル


あのマスターの表情 僕には わかりまス

温厚なマスターが とてつもなく 怒っていル


引き続き 記録を 継続

「探し物をどんなに探していても見つからないってことあるよね?」

「あるわ。定位置に置いたはずの包丁がどこかにいっちゃった時は焦ったもの」

「それでいて、変なところからひょいって見つかることってあるよね?」

「あ、あるかも」

「きちんと物を大切にしようね」

「モノネさん、怖いんだけど……」

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