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皆の様子を見にいこう

◆ 王都 冒険者ギルド ◆


「ネズミの鳴き声がまったく聴こえない……。壊滅は本当だったようだな」

「今も念のため、調査は行っているが一匹たりとも見当たらん」


 下水道のネズミがきちんと退治されたか確認するために、王国の兵隊が下水道に行ってきてくれた。一晩明けた朝、冒険者ギルドに衝撃が走る。なんてね。


「冗談だろ? どれだけいたと思ってるんだよ」

「たった二人の女の子が? いや、一匹変なのいるが……」

「ウサギファイターと陥落姫とはいえ、そこまでやれるのかよ」


 衝撃が走ってた。変なのってティカのことかね。自覚した本人が恐らく生体反応登録を行っていることでしょう。でもこっそり私に耳打ちして、戦闘Lvを教えてもらってもどうしろと。別に警戒する必要はないんだけど。


「私としてはそこの3人にケジメをつけてもらいたいな」

「う……オ、オレ達か?」

「そう。ジェシリカちゃんを置き去りにしたくせに、何食わぬ顔で報酬を貰おうとしたその根性についてね」

「すまなかった……」

「私じゃなくてジェシリカちゃんに謝って」


「「「すまなかったッ!」」」


 平身低頭、3人がジェシリカちゃんに謝る。そんな3人をジェシリカちゃんはゴミでも見るかのようだった。あ、これまったく許してない。


「他人に言われて謝るような方々の謝罪なんてどうでもいいですわ。これに懲りたら、分相応の行動を心掛けることですのよ」

「そ、そうだな……」

「ジェシリカちゃん。他人に言われて本気で目が覚めたかもしれないから、あまりツンツンするのもどうかと思うよ」

「誰がツンツンですって!」

「これ多分ツンツンの意味をわかってない気がする」


 この子じゃなかったら、普通に死んでたかもしれないからね。もっと怒ってもいい案件なだけに、これはこれで優しいほうか。ジェシリカちゃんはもうこれ以上、3人に対して何も言ってない。謝ったから許さなきゃいけないなんて決まりはないし、3人は猛省するべき。


「職員さん。今回の依頼なんだけどさ、ジェシリカちゃんの功績が大きいんだよね」

「それは聞き及んでいます」

「だから、彼女に称号を授与する方向には動かないのかな」

「それはもう少し時間を使って精査しますので、現時点ではお答えできません」

「シャンナ様はどう思ってんだろ」

「ジェシリカちゃんはねー、まだ実績が足りてないかなー」

「うわぉっ!」


 いつの間にか横でシャンナ様が、ローブの袖をひらひらさせていた。超適当に決めてるかと思ったら、ちゃんと考えてたのね。


「陥落姫と呼ばれるくらいには実績はあるんじゃ?」

「それは周りが勝手に言ってるだけだしー。ジェシリカちゃんはまだ全然、お仕事してないしー」

「……わたくしも忙しいんですの」

「でも今回の活躍でだいぶ称号には近づいたよね?」

「モノネちゃんって案外、他人を気づかうんだねー。私には関係ないしーとか言いそうなのにー」

「だってすごい真剣に冒険者をやってるからさ」


 私はどうも薄情に思われる節がある。そんな事ないよというつもりもないけどさ。


「認められないのなら、認めさせるまでですわ。それでは皆さん、ごきげんよう」

「ばいばーい」


 清算を終えるとジェシリカちゃんは足早にギルドから出ていった。あの称号に対する執着は何なんだろう。やっぱり、この報酬額が魅力なのかな。ネズミ全滅の功績が大きすぎてすでにホテルの代金を半分以上、支払えてしまう。何度も数え直したくなるくらいの額だ。そんな私を兵士の人が満足気に見ていた。


「ゴブリン討伐に続き、君の活躍は王国の上層部にも届いていてな。その報酬には国からの礼も含んでいる」

「それって普通にある事なんですか?」

「特例だな。難色を示す方がいらっしゃったようだ」

「なんだかすごいことになってきちゃった」


「これはアイアンの称号も検討しなきゃねー」


 出来れば私よりもジェシリカちゃんを優先してほしい。とは思うけど、これ以上の報酬が入るのかと思うとアイアンにも惹かれる。


「ザイード他、只今到着しましたッ!」

「そう、さようなら」


 報酬に見とれている場合じゃない。チンピラ集団が登場したところで、一度引き上げよう。少しでもホテルに代金を払っておかないとね。


◆ ホテル"スイートクイーン" ◆


「お支払い、確認しました」

「残りはもう少し待って下さい。それとイルシャちゃんは元気ですか?」


「302号室のお客様にルームサービス! これは508号室ね!」


 はい、元気に従業員をこき使ってました。たった数日でリーダーに出世するとか、どうなってるの。本気でここに永久就職しそう。でもいくらあの子が優れていても、すぐに部屋代なんか支払えないはず。だから、ここは私が頑張るしかない。


「イルシャ君、本当に助かってるよ。宿泊費のほとんどが君の働きによって、帳消しになりつつある」

「本当ですか?! 気合い入れるぞぉ!」


 いや、なんでよ。ここの数日の稼ぎでも、そこまでの金額にならないでしょ。あの支配人、イルシャちゃんを手に入れたいからって特別待遇しまくりなんじゃないの。他の従業員に示しつけろ。


「おや。君のお友達が来ているよ」

「モノネさん! 支払いどうですか?」

「順調だったけど今の光景を見て、急にモチベーションが落ちてきた」

「もしかして私に働かせて、自分だけ楽できると考えたんじゃ?!」

「そんな目で私を見ていたのか」


 傷ついたから、レリィちゃんの様子を見に行こう。あっちはあっちで別の意味で心配だ。


◆ 王都学園 薬学部研究室 ◆


「す、すすすす、すううばらしいいいぃ!」

「これなら灰死病を完治できるかもしれない! 医学界に……いや、世界が震撼するぞ!」


 こっちは世界を震撼させてた。私も打ち震えてる。こっちこそ永久就職するんじゃないの。むしろ今更、帰してくれるのかすら怪しい。研究室の皆でレリィちゃんを胴上げしてる。


「あ、あ、あの。レリィちゃんがやらかしたんでしょうか?」

「やらかしたよ! これで多くの人が救われるかもしれない!」

「灰死病は未だに苦しんでいる人も多い難病だからな。だが問題はこれを発表すれば、この子の身に危険が及ぶかもしれん……」

「出来ればレリィちゃんの素性は明かさないで貰えるとありがたいです」

「それは約束する!」


 力強く約束してくれたけど、これ本当にどうするの。当の本人は胴上げされた後で疲れたのか、机に突っ伏して寝てる。こっちは酷使されちゃったのかな。こんなに小さい子を大の大人が持ち上げて、と義憤に駆られるにはまだ早い。レリィちゃんが望んだ事だったはず。これ以上、置いておくと偉業を成し遂げまくりそうだからあまりゆっくりしてられない。


◆ 王都 冒険者ギルド ◆


 さてと、私当ての依頼はというとゴーレム退治とかいうのがあったっけ。一応、チェックしておくかな。


・ゴーレムの討伐 50以上

・失踪事件の捜査 戦闘Lv不問

・わたしを強くして下さい


 なんか一際、異彩を放っている依頼がある。わたしを強くして下さいって、どれどれ。冒険者になって稼いで家族を楽させたいから強くなりたいって。詳細がアバウトすぎる。いや、事情はわかったけどさ。報酬額が大した事ないし、スルーでいいかな。失踪事件がまだ消えてない。誰か解決してあげなさい。


「あとは通常の依頼しかないし、こっちの稼ぎも微妙だなぁ」

「この失踪事件というのが気になりまス。詳細を読む限り、奇妙な事件ですヨ」

「そんなもんに関わって私が失踪したら元も子もない」


「子どもに関わってる時間なんかないんだよ。家に帰りな」


 おっと、トラブルの火種が。冒険者の一人が女の子に辛辣に当たってる。女の子はツギハギだらけの服にボサボサの髪だ。髪も伸び放題だし、言っちゃ何だけど清潔感があまりない。これはもしかしてこじ、いやそこまででもないか。


「お願いです。強くなって冒険者にならないと家族が食べていけないんです」

「冒険者なんかやらなくても、他に働く場所はあるだろ」

「子どもだから雇ってくれないし……雇ってくれてもパン一つも買えないくらいに賃金がすごく低くされて……」

「かわいそうだけど、オレ達も遊びでやってるんじゃないんでな」


 正論を突きつけられて、女の子が涙目で立ち尽くしている。いわゆる貧困層かな。働く意思があるのに職もなく、お金もない。働く意思はないけど、生活していける奴もいる。心が痛くなってきたぞ。冒険者になろうとしてるってことは年齢は12歳くらいか。


「これこれ、君達。あまり幼気な女の子をいじめるでないぞ」

「ウ、ウサギファイター……いや、別にいじめてはいない」

「そんなに怯えないで。あんた達はあんた達の生活があるもんね。で、そこの女の子ちゃん。話だけでも聞いてあげるよ」

「は、はい!」


 希望に目を輝かせてる。もしかしてさっきの強くなりたいという依頼を出した子かな。お金がない割にあそこまでの報酬を出せるってことは、貯金をかけたのかもしれない。私がこんなにお人好しだったなんて知らなかったなぁ。いや、話だけでも聞いてあげるだけだし?


◆ ティカ 記録 ◆


ジェシリカさんと 少しは 打ち解けたようデス

相変わらず 他者を 寄せ付けない雰囲気は ありますガ

あの緊張感は 本当に 気になル


二人とも 元気にやっているようで 何より

イルシャさんも レリィさんも 将来安泰デス

マスターは いやいや マスターの場合は 非凡故に 一目で その才覚がわかりにくいだけデス

例えるなら 目の前に壁がある だけど それは壁ではなくて 大きな山だったと うむ わかりやすイ

そんな山のようなマスターが 一人の少女を 救おうと 声をかけましたカ

マスターに 強くなるような指導が いやいや マスターだからこそ うむ


引き続き 記録を 継続

「マスター、布団の中にアスセーナさんの書置きがありまス」

「人の布団にそんなもんいつの間に忍ばせたのさ。どれ……『少しはお仕事をして冒険者アピールしないとまずいので行ってきます』だって」

「……確かにここ最近は僕達と過ごしてましたからネ」

「誰にアピールするんだか」

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