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寄生商人を懲らしめよう

◆ 村の入口 ◆


「これで村も安泰です。ディニッシュ様、お力添え感謝します」

「王都へ帰ったら、早速手配しよう。では達者でな」


 村人全員が並んで見送ってくれてる。レリィちゃんのお香でこの辺りの魔物は近寄れないし、家や道具も新しくなった。この村、たった一晩でかなりパワーアップしたな。そもそも王都が近いんだから、もっといろいろやってもらえてもいいはずなんだけど。


「ありがとよー!」

「またいつでも来てくれ!」

「豚味噌スープうまかったぞー!」

「腰痛が治った!」


 感謝の言葉を浴びながら、王都を目指す。街道に沿って歩けば、夕方前には着くそうだから張り切って歩こう。私以外は。おっと、早朝すぎてレリィちゃんがまだ寝てた。


◆ 王都への街道 ◆


 順調に歩き出した時、異変は起こった。右の分かれ道から馬車が来る。護衛が一人いるだけで、商人が馬車を操ってる小規模な一行だ。別の場所から王都を目指してきたっぽい。


「護衛一人だけでここまで来たのか。あちらは幾分か凶暴な魔物がいるはずだが」

「ディニッシュ様、あの男との合流は避けましょう」

「そう言うな。知らん顔だが、ケチケチする事もあるまい」

「しかし……」


 ディニッシュさんの護衛の一人が、あの商人に対して渋い顔をした。他の冒険者や旅人も不満そうに、あの商人を見ている。

 そして皆の予想が的中したのか、私達が通り過ぎるのを待ってから商人の馬車が後ろにつく。あっちのほうがだいぶ先にいたのに、わざと待ったな。ははぁ、そういう事か。


「……ほらな。やっぱりこれだよ」

「あいつ、これ何度もやってるよ。すました顔が憎たらしいぜ」

「"寄生"は取り締まられてないからなぁ」


 護衛を雇う費用を浮かせて、他の団体様にくっついて移動する行為をあの商人がやっている。寄生と呼ばれていて、もちろん嫌われる行為だからそりゃ非難もされるよ。

 魔物が襲ってきたらまとめて守らなきゃ、最悪の事態になったら後味が悪すぎる。そんな後ろめたさを巧みに突いた卑劣な行為、それが寄生。ああいうのは一度、痛い目を見ないとわからないかもしれない。といっても、魔物に襲わせるだとかバイオレンスなのは何も生まないな。そもそも、そう都合よく魔物が襲ってくるはずがない。


「こんにちわ」

「うぉっ! な、なんだ、ビックリした……」

「おじさん、商人? どこから来たの?」

「り、隣国から遥々と……」

「すごいね、危ない目にあわなかった?」

「ないな」

「ホントにー?」

「ない」


「そっか……おじさん、いいなぁ」


 俯いて、悲しそうに声を絞り出す。予想してなかった反応に、おじさんは何事かと目を開いた。


「ど、どうしたんだ?」

「いえ、私達はここまで来るのに苦労して……。洞窟の事故のせいで、危険な山を通ったんだけどね。魔物に仲間や護衛の人達が次々と殺されて……この団体も、もっとたくさんの人がいたんだ」

「そうなのか……それは大変だったな」

「私を守ってくれた人……ワイバーンに食いちぎられた姿が……目に焼き付いて……」

「ワ、ワイバーンだって……」


 さりげなくこの人の私物に触れて予め確認しておいた。この人、前に寄生した時にワイバーンに襲われている。もちろん寄生先の人達が倒したから、この人には何の被害もなし。そっちが後ろめたさを利用してくるなら、こっちも同じ事をしてやるまでだ。


「大変だったんだな……」

「うっ、ううっ……ごめんなさい。少し思い出しちゃって……」

「お嬢ちゃんは魔術師じゃないのか?」

「こう見えても、攻撃魔法なんて使えませんし……ワイバーンの時だって何も……」

「そ、そうかそうか。本当に苦労したんだなぁ」

「おじさん、儲かってそうですね。いいなぁ」

「そ、そんなことは」


 おじさんが気まずそうに視線を泳がせ始めた。一緒にいる護衛の人も、しんみりと耳を傾けてくれてる。


「コラコラ、あまりおじさんを困らせるんじゃありません」

「ごめんなさい、セーナお姉ちゃん……」

「姉妹なのか?」

「はい。これから王都に行って商売をするつもりなんです。人がたくさんいる王都なら、物が売れて生活も楽になると思って……」

「そうかぁ、でも商売はそう甘くないぞ。人がいる分、競争も激しいからな」

「や、やっぱりダメなんだ……」

「いやいやいや! そうと決まったわけじゃない!」


 セーナお姉ちゃんことアスセーナちゃんがフォローに来てくれたけど知名度がある分、リスクが高い。シルバーの称号持ちだし、この人が顔を知っていても不思議じゃないだろうに。半分以上、面白がって参加してるだけだろうけどさ。


「フフフ、お前達。泣こうが喚こうが、借金を返さねばどうなるかわかるな?」


 またなんか参加してきた。ディニッシュさんが悪徳貴族を演じてやがる。あなた、そんな事をして顔が割れていたら評判がた落ちどころじゃないですよ。すごい悪そうに笑ってるし、楽しみすぎでしょ。しかもさっきはケチケチするなとか言っておいて、なんて手の平返し。


「クククッ! 高く売れそうだぜ!」

「子どもは人気だからなぁ」

「お願いです。奴隷だけは勘弁して下さい……」

「うるせぇ! キリキリ歩けや!」


 こら待て。ディニッシュさんの護衛達も冒険者諸君も商人も、何を演じているんだ。明らかに最初の設定と矛盾が生じてるんだけど。イルシャちゃん達が奴隷として参加してきて、商人が奴隷商人になってる。もうムチャクチャだ。どうしてくれる。


「魔物に仲間が殺されたのも、お前らがトロ臭いせいだ! お前ら奴隷が殺されたのはどうでもいいがな!」

「ご、ごめんなさい……ひっく……」


 イルシャちゃん、泣き真似うまいな。そしてディニッシュさんの護衛が、うまくフォローしてきたぞ。冷静に観察したらそんな集団じゃないってわかりそうなものだけど、おじさんには効果ありだ。オロオロして、成り行きを見ている。


「な、なぁ。お嬢ちゃん、借金はどのくらいなんだ?」

「たくさん……」

「何を売って商売するつもりなんだ?」

「お香……焚くと魔物がこないの」

「なに、それは本当か?」

「でも強い魔物には効かないから売れない……」


「その通りだ! クソの役にも立たないお香なんざ、ワイバーンすら退けられねぇよ! そりゃ死人も出るわな!」


 ワイバーンという単語で揺さぶりをかけたのは、ディニッシュさんの護衛だ。私が意図してワイバーンをあげたのをわかっていたのかな。どいつもこいつも楽しみやがって。


「わ、わかった! おじさんがそのお香を買おう!」

「え!? でも……」

「いいんだ! 気にするな!」

「結構たくさんあるけど……」

「気にするな、一つこのくらいで買い取ろう。どうだ?」


「ハハハハハッ! そんな値じゃ、何の足しにもならんぜ!」


 吊り上げ作戦発動か。もういい、どこまでも行こう。


「こっちの商品も売らにゃならんだろう? ガキども!」

「あ、あぅ……」


「そっちもか……」


 商人さん。あなた、奴隷商人になりきってませんでしたか。どさくさに紛れて、商売しないでほしい。もういいけど。本当に。


「ひ、一つ買おう。はい、これでいいか?」

「は、はい」

「ハハハッ! これじゃ死ぬまで返済だな!」

「わかった、このくらい出そう!」


 調子よく物が売れていく。私はというと、笑いを堪えるので精一杯だった。アスセーナちゃんもイルシャちゃんも、顔を伏せてはいるけど肩が震えてる。このムードだと、おじさんからしたら泣いているようにしか見えないけど実際は笑ってるんだろうな。


「おい、この布団なら少しは借金返済の足しになるんじゃねえか?」

「これだけは本当に無理です」


 奴隷商人が調子に乗ってきた。よっぽどこの布団が気に入ったんだな。こんなやり取りを見せつけられた寄生おじさんは、せっかく護衛費用を浮かせたのに多分台無しになってる。一通り売りさばいた後は皆、ひたすら無言だった。

 笑いそうになってる一部の人達にはハラハラするけど、すっかり騙された寄生おじさんは気が気がじゃない。奴隷商人やら悪徳貴族の集団と行動を共にしていると思い込んでるから、死んだような目で馬車を操っていた。誰もが勝手に楽しんだかなと思った矢先、一人だけリスみたいに頬を膨らませている子がいる。


「ご、ごめんね。レリィちゃんのお香はすこぶる役立ってるから」

「いいもん。もっとすごいの作るから」


 膨れつつも、声のボリュームを最大限に下げてくれたからいい子だ。いろいろやりすぎたかなと少し反省しつつ、ようやく巨大な街が見えてくる。説明不要、あれが王都だ。


◆ ティカ 記録 ◆


僕は マスターが かわいがっている お人形

喋らず 動かず マスターが いたいけな 少女に見えるように しっかりと 演じタ

マスターの 商才の片鱗が 垣間見えタ


あの寄生商人に 少しでも良心があって よかっタ

これに懲りて これからはきちんと 声をかけるべきデス

ご一緒してよろしいですか や 護衛費用の相談など コミュニケーションをとらないから

誤解が 生じル

仮にも 商人ならば 日頃から 人に信用されるよう 心がけるべきデス


引き続き 記録を 継続

「寄生ってそんなに多いの?」

「護衛を雇っても殺されちゃうケースもあります。だから、完全に安心できない点も寄生増加に拍車をかけてますね」

「難しい問題だね。強い人と仲良くなるのが一番いいかも」

「そうなんですよ。だから商人がすごく媚びを売ってきたリして大変でして……」

「アスセーナちゃんは特に苦労したんだね」

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