相談に乗ろう
◆ エイベール冒険者ギルド ◆
「君にはどれだけ感謝してもし足りない。本当にありがとう」
「いいよ、なんか見過ごせない面白さがあったからね」
この鎧の人が普通にテーブルに座ってるのがなんか面白い。しかも頭を下げてくる。根は真面目な人なのはわかるんだけど、兜のせいで顔はまったくわからない。
「グッディナイトさんは今はこの街で活動をされていたんですね」
「少しずつ誰も私と決闘をしてくれなくなった。知名度が上がりすぎてしまった弊害のようだ」
「しかも強いとくれば、誰でも避けるよねぇ」
「自分より弱い者には何とでも息巻くが、途端に強い相手となれば尻尾を巻いて逃げる……なんとも情けない」
「それでも抑止力にはなってたからこそのアイアンの称号じゃないのかな」
さっきまで正義だと大声で元気だった人が、今はすっかり落ち込んでいる。優秀で実績のある人でも悩みは尽きないんだな。
「あの、カルスです。今回は助かりました……あなたがいなかったら収入がゼロでしたから」
「助けになれたのならばよかった。今後、互いに背中を預け合える者と出会える事を願っている」
助けられたカルスさんはギルドの出口でもう一度、頭を下げてから出ていった。いい人だな。今みたいに感謝されたら、そりゃやりがいがあるよね。
「あの揉めた二人組はギルド支部長に連れていかれたね」
「あの方は温和だが、一度怒らせると長時間のお話が待っている……それだけ相手の事を思っている証拠でもあるのだがな」
「ひぇっ」
船長といい、やっぱりギルド支部長をやるだけはある。私なら絶対寝ちゃうから、ここのギルドに長居はしないほうがいいな。
「君がいなかったら決闘を断られていた。私もまだまだか……」
「グッディナイトさんがそんなに後ろ向きになったらダメですよ。必要としてくれている方はいるんですから」
「騎士たるもの、主君こそいないが弱きを助ける信念を貫いてきたつもりだ。しかし以前から薄々感じていた事だが、自分の活動に限界を感じてな。やはり私では、立派な騎士にはなれないのかもしれん……」
「なんだか深い事情がありそうだけど、そっちは聞かないよ。今みたいなやり方だと、いずれ限界はくるかもね」
「モ、モノネさん。ストレートすぎですよ」
「アスセーナちゃんに言われたくない。だからさ、やり方を変えればいいんだよ」
「やり方を変えるとは?」
いきなり登場して無関係な騎士っぽいのに、私が決闘しようとふっかけてられてもうまくいくわけがない。グッディナイトは真面目だけど、悪く言えば愚直だ。ここはもう少し柔らかくならないと。
「いきなり強い奴が割り込んできて決闘だなんて言っても普通の神経してたら逃げるし、うやむやになるよ。自分で言ってるでしょ、知名度が上がりすぎた弊害だって」
「そうだな。それはどうしようもない」
「だからやり方を変えるの。さっきのカルスさんの場合だったら、彼とパーティを組んで一緒に稼ぐ。あの二人もムカつくけど根本は収入がゼロってところがまずいんだから、それを解消すればいいでしょ」
「ならば、あの不届き者を見逃せと?」
「あの二人よりも弱いカルスさんを守り、共に戦ってあげたほうがよっぽど正義の騎士だよ」
「そ、そういう事か……私は一体、今まで何をしていたのだ」
重そうな兜を両手で抱えているけど、これ普通に頭を抱えているポーズだ。そこまで斬新な気づきだったのか。
「ムカつく奴なんて後回し。そうこうしてるうちにあの二人は嫉妬メラメラにして絡んでくるかもしれない。そうなったら、そこで決闘をして打ち負かせばいいんじゃない?」
「弱きを助ける……。それなのに私は悪を倒す事ばかりを考えていた。助けたつもりになっていただけだった……」
「まぁ今回は結果的に助けられたけどさ」
「モノネ、君のほうが正義の騎士だ。私はやはり未熟、騎士になどなれていなかったのだ……」
「いや、そこまで卑下しなくても。その実績に嘘偽りはないんだからさ」
「困っているものに真摯な姿勢で歩み寄る。一番大切な事だった。うむ、目が覚めた」
いきなり席を立ちあがったグッディナイトに皆、当然ビックリだ。ただでさえ目立ってるし、実は今までもチラ見されてたんだけど。
「諸君! 困っている者がいたら、遠慮なく声をかけたまえ! このグッディナイトが共に戦おう!」
いや、そういうのもちょっと違う。わかっているんだかどうなんだか。でも戦い以外の解決方法をわかってくれたみたいでよかった。かくいう私もストルフの時は最終的に決闘を挑んだし、時と場合によると思う。
「おぉ! いざとなったら当てにするぜ!」
「この前はありがとな! おかげであいつとの決闘をせずに済んだ!」
「あの、グッディナイト様……今度、私と、その……」
普通に人気者じゃん。やっぱり実績は嘘をつかない。女の子の冒険者にまで誘われて、なかなか憎いヤツ。でも何だろうな。不思議とお幸せにという感じがしない。何故かはわからないけど。
「皆……こんな私のために……」
「いや、だからそんなに卑下しないで」
「モノネ、君と出会えてよかった。この出会いは生涯、忘れる事はないだろう」
「そ、そう。嬉しいな」
「約束しよう! 君が困った時、必ず私が力になると!」
マントをなびかせて颯爽とギルドから出ていった。今までは何とか話していたけど、いなくなってようやく冷静になれる。
「はぁぁ……かっこいい」
「マ、マスター?」
「でしょう? サインを貰おうと思ったんですけど、断れたんですよね。『いつか己を誇れるようになった時、改めてそこに刻もう』って」
「それすんごいかっこよくない?」
「マスターのほうがかっこいいデス!」
「ありがと」
まるで小説に出てくる正義の味方だ。これは使える。あの人をモデルにしたキャラを出せば、テニーさんにも大好評間違いなし。そのままだとまずいから、グッドナイトでいいか。
◆ エイベール宿屋 部屋 ◆
「へぇー、そんな冒険者もいるのね。こっちは食材補給も終わったから、いつでも出発できるわ」
「大声を出したくなるお薬出来た」
それぞれ成果はあったみたいでよかった。レリィちゃんは相変わらず、いつどこで使う薬を作ったのかな。
「正義の騎士グッディナイトか。どんな素顔なんだろ」
「きっと美しく素敵な方ですよ。同じ女として憧れちゃいます、ホントに」
「そうそう、同じ女として……え? 女?」
「モノネさん、もしかして男性だと思ってたんですか? わざと声を低くしていますが、あの方は女性ですよ」
「ウソォォォ! ずっと男をイメージしてた!」
「モノネさんったら、男性だとしたらああいう方が好みなんですね」
「違うッッ!」
言われてみれば、ちょっと声が高いような気がした。男にしては小柄だったし、着ている鎧も考えてみれば割と軽装だ。フルプレートならもっとガチャガチャしているだろうし。
「……女だとバレたら舐められるから、隠してるのかな」
「どうなんでしょうねぇ。いずれにしても、かっこいい方なのは変わりありません」
「かっこいいから別に男でも女でもいいや」
「ううん、実物を見てないけど私には理解できないタイプかもしれないわ……」
「料理で人を喜ばせようとしているイルシャさんと、人助けをして喜ばせようとしているグッディナイト。どちらも違いはありませんよ」
「そ、そうよね。道は違っても、根底は同じよね。だとしたら尊敬に値するわ」
正義の形は人それぞれだけど、誰かが喜ぶような事をするのが正義なんだと思う。正義の騎士グッディナイト。いい出会いだった。本当にまたいつか会えるといいな。
◆ ティカ 記録 ◆
アスセーナさんといい グッディナイトといい 優れた方でも 悩みを抱えていル
それを 表に出さずに 信念に基づいて 行動できるのも また強さデス
そんな方に マスターの助言が 役立てるとなれば これほど 嬉しい事は なかなかありませン
女性なのは 生体登録の時点で わかっていましタ
マスターよりも やや年上で その振る舞いからして どことなく 高貴さが 漂いまス
あの方も マスターと 良い関係で いてほしい そう願っていまス
引き続き 記録を 継続
「戦う力がない人は、護衛を雇って街の間を移動してるんだよね」
「ずるい人は護衛を雇った人について行きますよ。もちろん嫌われる行為なので、トラブルに発展する可能性もありますけど」
「ほぇー、それはすごい発想」
「そんな人を守る義務はないのですが見殺しにしたら後味が悪いので、護衛にも嫌われてます」
「護衛依頼って大変そうだね。絶対やりたくない」




