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22/201

警備隊に恩を売ろう

◆ 冒険者ギルド 食堂 ◆


「き、君! ぜひ頼みたい事があるんだがね」

「ギルドに依頼として登録して下さい」


 いつものように食堂で皆に餌付けされながら食事を楽しんでいると、警備隊の人達が駆け込んでくる。大体想像がつくけど、私も冒険者をやっている以上はきちんと手続きを踏んでほしい。


「そうだよな、すまなかった……」

「小説の推敲作業もあるんで、時間がかかるのは無理ですね」

「そ、そうか」


 すごすごと引き下がっていく警備隊の人達。私だって別に好きで突っ返したわけじゃない。ここ最近、ずっとこんな感じでさすがに疲れる。

 うろつく番獣を倒して私の戦闘Lvが23になった事で皆の対応が変わってきた。そのおかげで、最初は怖かった警備隊も今や私に頭が上がらない。むしろ今みたいに頭を下げて頼み事をしてくる。


「あの化け物牛を倒したなんてな。素材も商人ギルドで引っ張りだこだったみたいじゃないか」

「フレッドさんはああいうの倒しにいかないの?」

「どうも優先順位がな。それに俺でもあれは楽に倒せんぞ」

「フレッドさんの戦闘Lvっていくつ?」

「二人とも22よ」


 シーラさんがドリンクを飲み干してから答えてくれた。ちょっと待って。本当に私がいなくてもゴボウなんか片手で捻れてんじゃ。恰好つけてたフレッドさんに任せておけばよかった。


「私、二人を超えちゃったんだ」

「負けてられないな。でも戦闘Lvが絶対でもないぞ」

「それアスセーナちゃんにも言われたっけ」

「現に盗賊戦の時はティカの一言がなかったら、矢に射られていたからな。格下でも地の利を活かされちゃ怖い」

「それでも一つの威厳にはなるのよ。実際、さっきの警備隊はモノネちゃんに下手に出ていたでしょ?」

「今じゃ頼られてる感じさえする」

「恩を売っておけば、冒険者の仕事もやりやすくなるわ」

「ふーん、それじゃ売りまくろうかな」


 受け付けにいって、警備隊の人達が出した依頼をチェックした。さてさて、ゴブリン退治かな。それとも、ついにブラッディレオが大暴れかな。


・深夜の切り裂き魔の討伐 戦闘Lv測定不能


 何それやだ怖い。


◆ 警備隊 詰め所 ◆


「奴は深夜に女性だけを狙う卑劣な行為を繰り返してる。絶対に捕まえなくてはならん」

「事態が事態だからな。場合によっては殺しても構わん」

「本当に警備隊総がかりでも手に負えない案件なんですか」


 思ったことを吐き出してみる。ただ純粋にそんなに手強い相手なのかなと思っただけ。なんたって測定不能なんて表記を見て、びびらないわけがない。


「深夜の警備を強化しているし、女性に一人で出歩かないように告知しているんだがな。どうにも死角をつかれているようで、後手に回ってるんだ」

「女性である私のところにそんな告知は来ませんでしたけど」

「だから今回からは少し作戦を練ろうと思ってな。強い女性冒険者となると、フリーなのは君しかいなかったのだ」

「それはつまり、あわよくば私が襲われて撃退してもらえればラッキーって事ですか最低ですね」

「そ、そうは言ってない」


 この人達を困らせてもしょうがない。からかうのはこの辺にして、真剣に取り組もう。この先の作戦は聞かなくてもわかってる。女である私が囮になって、その切り裂き魔をおびき寄せようというんだ。きっとそうに決まってる。いや、もしかしたら否定してくれるかな。


「君が囮になって奴をおびき寄せてくれ」

「警備隊としてのプライドはないんですか」

「あ、あるに決まってる。そもそも引き受けたのは君だろう」

「ですよね。すみません」


 私のパパと同じくらいの隊長さんに真顔で囮になれだなんて言われる日がくるとは。頼られて悪い気はしない。でも、これで私が解決しちゃったら警備隊の名折れだと思うんだけど。


「君が疑問に思うのも無理はない。だがこれ以上、犠牲者を出さない最善の方法を考えるのもまた警備隊の仕事だと思っている」

「中には歯がゆい思いをしている奴もいるがな。でも俺も隊長の判断は正しいと思う」


 驚異的な見透かし。さすがは大人というべきだった。私が考えている疑問くらい、この人達が抱かないわけがない。確かにプライドで街が守れたら苦労しない。結果を優先したこの人達の決断を、まずは敬おう。


「わかりました。私が囮になればいいんですね」

「そうだ。ただし、そのスウェットは脱ぐんだな。それと剣を携帯していたら、奴も警戒するだろう」

「丸腰で勝てるわけないし!」

「普通ならそうだな。だからこそ君に依頼したんだ。ボボロルを痛めつけたその身体能力なら、戦えると考えたのだ」

「あ、そ、そう、ですね」


 このスウェットも剣もなかったら、ただの引きこもりなんですけど。多分、戦闘Lv1以下。ボボロルにも劣る。いやはや、まさか今更アレがここで尾を引くことになるとは。

 ゴブリンフィギュアは私の能力で動かしましたとは喋ったけど、あれは紛れもない私の実力という設定になってる。私が自分で宣言したから、当然だ。


「どうした? 顔色が悪そうだが?」

「武者震いを抑えてるんですよ。何せ相手は戦闘Lv測定不能ですからね」

「そうか。まぁ実力は本当に未知数なのだよ。誰も奴と戦ってないからな」

「何の情報もないんですか? どんな格好をしていたとか、武器や性別とか」

「我々が駆けつけた時にはすでに……だからな。情けない限りだが、君に頼るしかないのだ」

「わかりました。そこまで頼ってくれるなら、スウェットも脱ぎません」

「そうか、やってくれ……脱がない?」

「はい、囮もしません。私のやり方で犯人を見つけます」


 このスウェットと剣を手放すわけにはいかない。布団もいつも一緒だ。要するに犯人を見つけ出せばいい話なんだから、尚更脱ぐ必要なんかない。


◆ ランフィルド 住宅街 路地 ◆


 最後の被害者が襲われた場所がここだと、警備隊の隊長さんに聞いた。夜になると人通りが少なくなりそうな気配が漂ってる。こんな場所をか弱い女の子が一人で歩くのは危なそう。

 といっても人には生活というものがあるから、それ自体はしょうがない。そもそも悪いのは切り裂き魔だ。


「ティカ、この辺りって抜け道多そうだよね」

「そうですね、土地勘があればどこにでも行方をくらませるでしょウ」

「んー、土地勘もそうだけどさ。小説とかで誰も犯人を見ていないパターンって、大体決まってるんだよね」

「ほう、それは興味深いデス」

「警備隊の人達もバカじゃないし、この辺りなんか特に徹底して警備に当たってるはず。そんな中、誰にも見られずに逃走……すごいよね」

「はい、何らかのアビリティやスキルの可能性もありまス」

「だったらまずいけど、私の勘では違う気がする」


 ティカの生態感知なら、範囲内の人の強さがわかるから切り裂き魔らしき人物も当てられるかなと思った。だけどこの街には警備兵や冒険者を含めると強い人達がたくさんいるから、大した判断材料にはならない。

 そもそも切り裂き魔が強いとも限らない。戦えない女の子を襲うだけなら、その辺の人でも出来そうだし。


「さて、私の雑な頭で犯人の行動パターンやらトリックを暴くなんて出来やしないわけで」


 まずはこの子に聞いてみよう。民家の植木鉢君。


――恐ろしい複数の刃で女性を斬りつけた。そいつは右へ逃げていった


 右というのは植木鉢君から見た方向かな。恐ろしい複数の刃って何だろう。武器なのかスキルなのか。右へ進んで、花壇に置いてあるジョウロ君。


――剣を持った男が直進してから左に曲がった。そこには集団がいた


「性別判明、犯人は男だね。でも複数の刃に剣? 集団がいた?」

「もう少し進んで聞いてみましょウ」


 ここが集団とかいうのがいた場所。だけど、この辺りには手頃な物がない。いや、ブロック塀でも何でもあるはず。塀に手をつけて、対話を試みる。


――悲鳴が聴こえた。集団がそちらへ向かった


「悲鳴が聴こえた、集団がそちらへ向かった。ははぁ、なるほど。やっぱり私が思った通りだ」

「マスター、犯人がわかったのですカ?」

「誰かまではわからないけど、なんで犯人を誰も見ていないのかはわかったよ」


 ここまでくれば私じゃなくてもわかる。だけどまだ喜ぶのは早い。犯人が誰かまで特定するには、もう少し歩かないと。これ、小説の推敲作業できないな。


◆ ティカ 記録 ◆


警備隊に恩を売るためとはいえ なかなかの 大仕事デス

僕もマスターと一緒に考えて 何故 犯人が 見つからないのかが わかりましタ

思い込みというのは 恐ろしイ

そして これが真相ならば あまりに残酷

そして 人というものの 本性の深さを 思い知ル

ふむ やはり マスターは 暖かイ


引き続き 記録を 継続

「私以外にもアビリティを持っている人がいるんだよね、多分」

「そのうち、出会うかもしれませン」

「ちょっと気になるなー。片手からお金が出るアビリティとかありそう」

「そんなものがあったとしても、マスターのアビリティに勝るものはないでしょウ」

「嬉しいけど、さすがに自分をそこまで過大評価できないよ」

「そのアビリティのおかげでマスターと出会たのですかラ」

「かわいくポジティブだね」

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