これからもマイペースに生きよう
◆ ネオヴァンダール城 皇帝の寝室 ◆
「だ、誰だ! どこから入った!」
豪華な室内にて、皇帝らしき人物が起き上がろうとしていた。だけど、皇帝が被っている布団君がそれを許さない。探し物の最中だから、大人しくしてほしい。完全に強盗だけど、神宝珠相手となれば手加減は命取りだ。それに加えて時間をかけている間にも、帝国内は疲弊していく。
アーリアさんの言う通り、今の帝国は危険極まりない。ざっくり分けると「皇帝陛下万歳派」と「連合やメタリカ側に迎合しよう派」に分断されてる。拘束されてるグリディを除いて、七魔天も綺麗に3:3に分かれた。後者は、今の帝政に不満を持っていた民衆や反乱分子が一堂に介して構成されている。各地域で暴れに暴れて、街がことごとく制圧されているらしい。状況だけ見れば、皇帝陛下万歳派が劣勢だった。
「起きちゃったか。ね、皇帝陛下。神宝珠ってどこにあるの?」
「賊め! それが目的か! えぇい! 者ども!」
「無駄だよ。親衛隊は全員、黙らせた」
「な、何だと……!」
「モノネさん。皇帝の私物に聞いてみればいいのでは?」
そうだ、私としたことがうっかりしてた。その辺にある皇帝の私物に語りかけてみよう。
――ここ……ベッドの下だ
「俗なところに隠してあるんだね」
ベッド君本人が教えてくれた。覗いてみると、確かにそれらしき物が転がっている。もう少し大切にしろ。無事、神宝珠を手に取ると私に反発するかのごとくブレ始める。
「大人しくしなさい」
――私は神であるぞ! 無礼者が!
「あなたはただの魔石だよ。人間に煽てられて勘違いしてるだけ」
――ならば見せてくれよう! 我が力を!
「ダメ」
なんか光り出したけど、私によって封じられる。今の私の力は、アーリアさんをも凌ぐと本人からのお墨付きだ。触れなくても声を聴けるし、物も操れる。親衛隊だろうが、装着している装備に『一切動くな』と命じれば簡単に無力化できた。
今の私と戦うなら、素っ裸にでもならないと不可能だとアスセーナちゃんは言う。その直後に服を脱ぎだしたから、封じてやった。何がしたかった。
「皇帝陛下、これ貰っていくね。それとアバンガルド連合とメタリカ国は悪いようにはしないってさ」
「このままだと、国内が立ち行かなくなりますよ。各地の反乱のせいで、一番苦しんでいるのは一般の人達ですから」
「この私に意見をするか。だが、心配はいらん。何せこちら側には、国内最強のあの男がいるのだからな」
「ロプロス提督か」
皇帝派が劣勢に見えるけど、迎合派が攻めきれない理由の一つだ。情報を集めた限りだと、あの人も自分の力のせいで苦労していた系の人だった。
そこへ前皇帝が目をつけたみたいで、拾ってもらった恩を強く感じている。愛国心は人一倍強く、たとえ相手が連合だろうと引かないと思う。私も正直、あの人とは戦いたくない。
「瞬撃少女じゃあるまいし、戦って勝つだけがすべてじゃない」
「今のモノネさんなら、いい勝負になると思いますけどね」
「いい勝負程度なら、死ぬ可能性大だから嫌だ」
「そういう打算的なところが大好きなんですよ」
「話の脈を無視するのやめてくれる?」
神宝珠を持って、皇帝の寝室を後にする。これで目的は達成したし、内乱でも何でも好きにすればいい。すでに世界各国からの印象は最悪みたいだし、ここで迎合しなかったら本気で孤立して滅亡だ。あの若き皇帝ジャゲル14世はどう判断するか。そこだけは少し興味がある。
◆ ネオヴァンダール帝国 上空 ◆
「アトラスが来ましたよ!」
「はぁ……アスセーナちゃんが夜の帝都を見下ろしたいとか意味不明な事を言うから……」
巨大空中要塞みたいなのが、侵入者である私達を追ってくる。帝国第七部隊は空軍でもあり、国内最強と名高い。あの要塞の小さい窓みたいな口から、次々と飛行可能な兵隊が出てくる。はずだった。
「アトラス君、何もするな。そこから動くな」
アトラスが空中で制止して、第七部隊を完封だ。いや、あのロプロスがいるならそんなに甘くないか。予想通り、要塞から何かが飛んでくる。仁王立ちの姿勢を維持したまま水平に飛ぶ様は、凄まじく異様だった。
「君達! よもや私から逃げ切れるとでも?」
「逃げるよ。じゃあね」
ツクモちゃんの街に退避して終了。さようなら、帝国最強軍人。もし違った未来があるとしたら、あの人が最強の敵として立ちはだかっていたかもしれない。なんてね。
◆ ランフィルド ◆
神宝珠を帝国から持ち出して数日。神宝珠君はだいぶ落ち着いた。まず神でも何でもない事。その上でツクモちゃんの街で馴染ませる事。物霊仲間が出来れば、きっと変わるはず。
完成した駅にごった返す人達を見て、勝手に満足してた。駅前にはいろんな店が立ち並び、物霊関連の商品が目立つ。
中でもツクモちゃんの人形が飛ぶように売れてるのが意外だった。今やマスコット的存在として人気を呼んでいて、遠方から遥々やってくる人が多い。まさか街そのものよりも、あの子が呼び水になるとは。
「生ツクモちゃんを見れると聞いたのだが?」
「ツクモちゃんを出せー!」
「んん! 真のファンならば、座して待つ以外はありえませんぞ!」
なんか特殊な人達まで集まってるし、これはいい傾向なのかどうか。そしてツクモちゃんの心配ばかりもしていられない。このウサギファイターも恰好の的だ。
「あなたはもしやモノネちゃんでは?」
「あ、あ、あああ握手しゅしゅを」
「ウサギ娘だぁぁ! ひゃああぁはあぁ!」
「指一本でも触れたら大変なことになりますよ」
アスセーナちゃんが殺意ありきで牽制してくれる。これマジな奴だから、本当に近寄らないほうがいい。
それに近頃は物騒な連中もうろついている。マッハキング率いるギャングどもと、ザイード一派とかいう忘れかけてたチンピラ集団が睨み合ってた。
「くぉらぁぁ! てめぇらモノネの姉御に何の用だぁ!」
「はぁん? 轢き殺すぞ」
「上等じゃボケェッ!」
「はいストップね」
ブロンズの称号すらないチンピラのボス、ザイードがゴールドクラスにケンカを売る事態だ。街中にカトリーヌを持ち込むなとあれほど言ってたのに、座席から挑発するのがマッハキングだった。鼻をほじりながら、もう片方の手で中指を立てている。
「よう、来てやったぜ。それにしても治安はよくねぇみてぇだな。こんなチンピラがうろついてんだからな」
「それに助力しないようにしてもらえると助かる」
「姉御ォ! こいつらマジスーパーマッハでボコしてオオサラマンダーの餌にしてやりましょうか?!」
「マッハキングにマッハとか冗談が好きだね、ザイード君」
うるさいから街の警備も始めたダバルさんに、ザイード一派を連行してもらった。マッハキングも渋々カトリーヌを降りてくれたし、これで一安心だ。
その助手席から降りたのは、マッハキングに恋人を殺された女性だった。これは意外すぎて、アスセーナちゃんもテンション爆上がりだ。
「あの! マッハキングさんとお付き合いされてるんですか?!」
「他に行く当てもないし、守ってやるっていうから付き合ってるだけよ」
「まぁぁぁ!」
「突然、登場しないでジェシリカちゃん」
色恋沙汰に歓喜する二人を置いておく。
ここではイルシャちゃんが出張して露店を出している。あれからレパートリーを増やしたみたいで串焼きから焼き飯、焼きメン、豚スープと幅広い。過労死するんじゃないかと思うけど、イルシャちゃんだから問題なかった。ほぼ一人で回してる。もはやアビリティ。
「モノネさん、何か食べてく?」
「串焼きを貰おうかな」
「せっかくゴールドの称号を貰ったんだから、どーんと買いなさいよ。こっちもサービスするから」
「ありがと」
アスセーナちゃんも私も、ゴールドの称号を貰ったのも順当か。帝王イカやソリテア国の南部での活躍、そしてレクアさん救出に一役買ったのが評価されてしまった。
すでにプラチナ推薦の話もあると、隣で串焼きを両手に持って頬張ってるシャンナ様から聞いた。その周囲に浮く料理が載った皿の数々。これは。
「プラチナ、プラチナーいっちゃうよー?」
「その怪奇現象は何なの」
「これは精霊さんだねー」
「シャンナは精霊使いさ。そこら中にいる大小の精霊を操れるんだ」
「ムードリーさん、いつの間に」
つまり風や大気の精霊をもってすれば、このくらいの芸当は可能との事。物霊使いの地位を脅かしかねない存在だ。むしろ脅かしてくれたら楽が出来るんだけど、本人はせいぜい浮いて遊ぶ程度だった。
その気になれば真空状態を作り上げて、生物を即死させられるらしい。なんでこの強さで裏方に徹しているのか。
「しばらく見ないうちに華やかな街になったもんだな」
「あれ、フレッドさん? いつ帰ってきたの?」
「つい昨日な」
七法守二人に気を取られていると、なつかしのフレッド夫妻が駅前を物珍しそうに見渡していた。元々年上だったけど、しばらく見ないうちにより大人っぽく見える。
話を聞けば、アズマで狐の神様と協力してお祭りを手伝ったりと奇想天外な冒険をしてきたみたいだった。その甲斐があってか、今はアイアンの称号だ。
「オレ達も成長したと思ったけど、お前はゴールドか。すごいよなぁ」
「モ、モノネ!」
割り込んできたのはこっちもなつかしのクルティラちゃんだ。あれから魔剣と仲良くやってるのかな。私とアスセーナちゃんを見比べて、何かを察したみたいだ。そういえばこの子、前から様子がおかしかった。当時はさっぱり理由がわからなかったけど、そういう事だとわかる。
「……お似合いだ。私なんかが敵うわけがなかった」
「いや、なんていうか。私も気づかなくてごめん」
「いいんだ。これも人生経験……それに相手がアスセーナさんならば、納得できる」
「クルティラさん……」
この三角関係の中、私は生きてきたのか。そもそもここまで人に好かれるような人間だとも思ってなかった。精一杯の笑顔を作って、私達に気を使ってくれてるのがわかるだけに少し心苦しい。
「クルティラさんにもいい人が見つかりますよ」
「そうだな……」
「クルティラさん! ようやく見つけました!」
落ち込みかけたクルティラちゃんに寄ってきた女の子がいた。誰だか思い出せなかったけど、そうだ。
ユクリッド王都で、いつか告白を見守ったルチカという女の子だ。クルティラちゃんに告白して振られたんだっけ。そう、クルティラちゃんが私を好きだったから。
「君は確か……」
「ルチカです。あれからどうしてもあなたが忘れられなくて……。それにようやく突き止めたんです。クルティラさんが思いを寄せている相手を」
「じゃ、クルティラちゃん。お幸せに」
アスセーナちゃんを引っ張って布団に乗せて、その場から離れる。何故ならルチカちゃんの視線の先に私がいたからだ。あの子は危険だ。自宅を特定される前に逃げる。
そもそも突き止めてる時点で尋常じゃない。今の今まで、ずっと探していたと考えるとゾッとする。仮にクルティラちゃんと付き合う事になっても、苦労しそうだ。
「ここまで来れば安心かな」
「あのルチカという子、危ないですね。思い込みが強くて、周囲を振り回しそうな印象があります」
「初見でそこまで分析するとは」
ランフィルド上空で、しばし待機する。思えば私は当初、この風景すら知らなかった。ゴブリン人形でしょうもない事を思いつかなければ、今も引きこもってたままだ。
それからティカと出会って、盗賊を退治して、アスセーナちゃんと出会って。まさかこんな関係になるなんて。
「綺麗ですね。駅も出来ましたし、これからもっと栄えると思いますよ」
「辺境伯から名誉国民に認定されてしまったね。有名になると、ろくな事にならないからなぁ」
「あれからネオヴァンダール帝国には連合が介入して、内乱を沈めつつあるらしいですね。ベルイゼフもメタリカ国に連行されましたし……」
「ロプロスさんは? あの人なら、普通に壊滅できそうだけど」
「連合やメタリカ国にも、強い人達はいますからね」
「世界は広すぎる」
私達が倒した完全人間レクアさんも、強い人達の一部でしかない。
中でも印象に残っているのは魔術協会の過激派の壊滅だ。本部を構えていた場所が跡形もなく消えていて、生き残った魔術師の証言によれば悪魔の仕業らしい。
「過激派を壊滅させたのって実は本物だったりして」
「拳一つで戦う悪魔なんて、本物のアボロみたいですね。魔術協会が調査してるみたいですけど、魔力の痕跡もなかったみたいです」
「本物だとしたら、世界が危ない」
「そうだとしても、私達がいるじゃないですか」
「私を化け物枠に入れないで」
「私も化け物なんですかぁ!」
口を滑らせた。すごい体を揺さぶられてる。実力でいえばその枠だけど、これ以上の言及は控えよう。
布団君に寝っ転がると、遠くの空から何かが飛んでくる。まさかアトラスが逆襲しに来たのかと身構えたけど、明らかにあれよりは小さい。シルエットが近づくにつれて、それがドラゴンだとわかった。しかも人が乗っている。
それが私達の前まで来ると、女の子だとわかった。青空みたいな透き通る短い髪に、ラフな格好。私はこの人を見た事がある。
「聞きたい事があるんだけど、いい?」
「何でしょうか」
「神宝珠を持ってる?」
「え……」
単刀直入すぎて返答に困る。しかもこの人があまりにあの人物に似すぎているから、私も整理が出来ない。
アスセーナちゃんですら、言葉が出ない事態だもの。何より恐ろしいのが、ティカの生体感知ですら引っかからない。
「何の事かわからない」
「神宝珠はモノネさんが救出しましたよ。だから安心して下さい」
「やっぱりそうなんだ。じゃあ、ボク達は何もしなくてもいいかな」
「下の街にお店がいっぱいあるよ! 早く!」
「もう……」
なんと金色のドラゴンが喋りました。この人達は限りなくあの二人に酷似している。だけど大昔の人間が生きているわけがない。
嬉しそうにランフィルドに降下していく姿を見て、ようやく一息。正直、あそこでしらばっくれなくてよかった。アスセーナちゃんのおかげだ。
「ね、アスセーナちゃん。あれってさ……」
「世の中には私達の常識では計れない事もあるんですよ」
「まぁ私が言えたクチでもないか」
深く考えないのが楽しく生きるコツだ。こんな布団に乗って浮いて戦ってる人間もいるんだから、何百年も生きる人間がいても不思議じゃない。しかもゴールドの称号まで貰っちゃって、ホントよく出来たアビリティだと思う。
「ほとぼりも冷めたみたいですし、私達も戻りましょうか」
「凶器の女の子ストーカーの幸せを願いたい」
私のアビリティで戦闘なんか出来るとも思ってなかった。最近、それをより強く感じる。
「こんなアビリティで無双可能だなんて知らなかった」
どこにともなく呟き、私達もランフィルドへ降りていった。
◆ ティカ 記録 ◆
ランフィルド マスターのおかげで よりいい街になっタ
いろいろな人が 訪れているが 中には マスターと繋がった者達も多イ
何より この大陸では 間違いなく 守りが硬い街になっタ
ゴールドクラスに 七法守 物霊 ここで悪さを出来るものとなれば
災厄クラスくらいの ものだろウ
だが あの少女とドラゴン あれは 無理ダ
生体とすら 認識されてなイ
僕の身ながら 恐怖を知ったが マスターの受け売りで
深く考えない事にすル
これからも マスターと共に 末永く 暮らしていこウ
これからも 記録を 継続
「終わっちゃいましたね」
「もう臆面もなくそういう発言するよね」
「次の主役も女の子らしいですよ。でもモノネさんとは違うタイプですね。私ですら怖いと感じました……」
「何にせよ頑張ってほしいものだね」
「ところでお見せする物語はこれで終わりですね。つまり、これから先は誰にも見られないという事です」
「うん? 何が言いたいの?」
「要するにお見せ出来ない事がたくさんできるんですよ」
「え、いやいや。ちょっと、なんで触ってくるの。待って、ストップ! やーん!」
約一年と五ヵ月もの間、ご愛読ありがとうございました!
これにて終了です!
新作も投稿しているので、引き続きこちらも読んでいただければ嬉しいです!
物霊使いも新作も、もし面白いと思っていただけたのならばブックマーク、評価pt、感想をお願いします!
大変、執筆の励みになります!
評価ptに関しては最新話の下にスクロールしていただければ、おわかりいただけると思います!
こちらが新作になります。
霊魔術師の怪異無双~魔力なしだけど魔術を使い放題なので強く生きたい
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