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オオサラマンダーを討伐しよう

◆ 冒険者ギルド 1階 ◆


「オオサラマンダー討伐、引き受けます」


「マジか……!」


 私の一挙一動が見られている中、こんな発言をすれば更にざわつく。そんなに私が依頼を引き受けたのが意外だったのか。この前、ゴブリン討伐したのに。


「やってくれるんですね! かしこまりました!」

「なんでそんなに元気なんですか」

「いえ、実はですね。この依頼を引き受けたパーティがまだ帰ってきてないんですよ」

「あ、やっぱりキャンセルで」

「ダメです、もう受け付け完了しました。詳細を説明しますね」


 早すぎるよ。この手腕こそがルーカさんをベテラン受け付けたらしめてるのかも。こうして何人の冒険者を死地に送ったのか。


「二人の戦闘Lvは8なので、6のオオサラマンダーならばさほど心配はないはずでした。ところがこの人達が発った後で妙な目撃情報が入ったんですよ」

「聞きたくない」

「通常よりも遥かに大きな個体を見た、と」

「キャンセルキャンセル」

「無理です」

「戦闘Lv6って書いてあるのに詐欺だ」

「その大きな個体の戦闘Lvは未知数ですし、あくまでメインは戦闘Lv6のオオサラマンダー討伐なんですよ」

「やっぱり詐欺だ」


 私達のやりとりがおかしかったのか、冒険者達が和やかに笑ってる。暇そうにしているそこのあなた達、オオサラマンダー討伐はいかがですか。

 誰かとパーティを組んだほうがいいかなとは思った。だけど今日に限ってフレッドさんとシーラさんがいないし、知らない人とパーティを組むのはジャンとチャックの件もあって抵抗がある。

 大きい個体はティカの生体感知でスルーできるだろうし、残りは戦闘Lv6だからゴボウ以下。ここは一人が無難かな? いや、一応呼びかけてみるか。


「みなさーん、これから楽しくないオオサラマンダー討伐に行くんですけど誰かきてくれます?」


「俺はたった今、仕事を終えて帰ってきたところだからな」

「依頼主とここで待ち合わせている」

「怪我がなかなか治らなくてな」

「すまない、俺の戦闘Lvじゃ役に立てそうにもない。それに、これから清掃依頼があるんでな」


 はい、皆さんきちんとお忙しいようで。最後の人は子守りばっかりやってるとかいってた冒険者だ。冒険者から転職したほうが幸せになれそう。子守りに清掃、冒険者とは一体。


「場所は盗賊団のアジトがあったところに近いね」

「ゴボウはオオサラマンダーを捕獲して食べていたそうですね。しかし大きな個体がいるとすれば、ゴボウの手には負えない強さかもしれません」

「下手したら戦闘Lv10以上かぁ」


 身の危険を感じると火を吐くという情報を目にしてしまったところで、準備を済ませよう。オオサラマンダーも素材として重宝するらしいから、今回も大きな荷台車を何台か借りようかな。


◆ ギンビラ盗賊団アジト近くの森 ◆


 火を吐く生物がいちゃいけない場所だと思うけど、そんな生態系は私には関係ない。それよりも街からそんなに場所が遠くないのに討伐にいった冒険者達の行方が気になる。

最悪の事態の可能性はあえて除外しよう。


「生体反応あり、バーストボアですネ」

「ボアちゃんか。イルシャ喜ぶかな」

「彼女の店でなくとも、価値はあるようなので素材調達をするもいいかもしれませン」


 ティカの生体感知頼りにさくさく進んでいくと、バーストボアを発見。まだこっちに気づいていないし、奇襲も気が引けるな。まぁいいか。放っておいたら人を襲うかもしれないし。

 背後から襲ってざっくりと一撃で仕留め、ティカの高速解体処理で一仕事終わり。こうやって素材を集めて売ればお金になる。物によっては大金に変わるようだし、危険を冒してでも冒険者をやりたがる人達の気持ちがちょっとだけわかった。


「なんか落ちてる。なにかな、この布切れ」

「衣類とは違うようですネ」

「スカーフっぽい」


 地面に落ちていた赤いスカーフは土まみれだけど、古びてもいない。さて、誰の持ち物かな。


――ご主人様がトカゲと戦って逃げて、森の奥へ逃げた


「これ、帰ってきてない冒険者の持ち物かもしれない」

「まだ新しいようにも見えますネ。声を頼りにして辿りましょウ」


 嫌な結果になってなければいいなと願いつつ、スカーフ君の想いを汲んで奥へと進む。方角さえわかれば、後はティカの生態感知に引っかかってくれると信じてる。


「足場、これもしかしてハマると危ないやつかな」

「底なし沼になっている可能性がありまス。僕達は飛んでいてよかったですネ」


布団に乗っていると気づきにくいけど、所々がドロ沼になっている。まさかこの沼地に沈んだなんて事は。


「まだ生体感知に引っかからない?」

「反応ありましタ! 北東デス! 急ぎましょウ!」

「いいけど、なんかピンチなの?」

「3つの小さな反応に対して、非常に大きな反応が迫っていまス!」


 半ば、湿地帯になっている森を突き抜けて飛ぶ。まともに歩いて進むのはかなり危ないと素人の私にでもわかった。

 きっと何とか進んだはいいけど、戻るに戻れなくて迷ってるんだ。その大きな反応とかいうやつが、でかいオオサラマンダーだとしても勝てるかな。この足場じゃ自慢の素早さも役に立ちそうにない。

 いや、ギロチンバニーを信じて挑もう。こうしてみてわかったけど、私は誰かを見捨てられない性格なんだな。気が焦ってしょうがない。


「あの人達かな?」

「男女3人、一人は子どものようデス」

「って、あっちから来てるやばそうなのは……」

「オオサラマンダー、生体登録完了。情報よりもかなり大きな個体ですネ」


 肥え太ったような図体の緑色のトカゲ。ナマズみたいなヒゲを揺らして、沼地を物ともせずに前進していた。

 その先には筋骨隆々のおじさんと、銀色に輝く軽装の鎧をまとった女の人。そして肩からカバンみたいなのを下げている幼い女の子。木陰に隠れていたみたいだけど、ついに見つかった感じだ。


「そこの人達、逃げて下さいー!」

「救援か?! すまん、逃げ道があの化け物に塞がれちまった! 周囲は沼地で身動きとれやしねぇ!」


「なら注意を引くしかないか……てえぇぇりゃっ!」


 布団の上からオオサラマンダーの横っ面に飛び蹴りをかます。大きな頭が揺さぶられはしたけど、あまりダメージにはなっていない。だけどこれで十分だ。蹴った反動で空中にいる私をロックオンしてくれた。さて、ここからどうしてくれるのかな。


「おっし、布団君!」


 着地地点に布団が必ず来てくれる。私が何となくやってほしい事を確実に実行してくれるからかわいい。布団とバニースウェット、そしてこの謎の達人の剣と一体になってあのオオサラマンダーを倒そう。


「マスター、魔導砲を撃ちますカ?」

「この距離だと、魔導砲であの人達を巻き込んじゃいそうだなー。ま、なるようになるさ」


 後はバニースウェット次第だ。布団から跳んでまたオオサラマンダーに真正面から斬りかかり、顔面から大量に出血させる。

 つんざくような雄叫びが苦痛と怒りに満ちていた。次の瞬間――


「マスター! 逃げて下さイ! 炎を吐きまス!」


 至近距離だから、かわせるかどうかわからない。口からすごい熱が漏れ出て、やばいと思った時には私のほうが先に左方向に跳んでいた。その度に布団君は着地する地点に移動してくれる。

 炎が沼地を蒸発させる勢いで放たれて、わずかに生えていた木なんかは一瞬で消し炭になる。


「こ、こわ! 絶対戦闘Lv6じゃきかない!」


 この沼地じゃゴボウの突進も役に立たないし、今の炎で焼き殺されていただろうな。あの3人じゃなくて盗賊を襲えばよかったのに。

 そんなしょうもない妄想を思い浮かべるくらいには余裕があった。ここからだと、ちょうど側面をとれる。跳んで一刀。横の首筋からも血が噴き出し、今度こそ決着に近づく。


「とどめぇ!」


 私が止めにしたいからとどめ。オオサラマンダーの背中に乗り、剣を突き刺す。もっと叫ぶかと思ったら、意外と短い悲鳴だけでオオサラマンダーは片足からよろけて沼地に突っ込んだ。

 布団の上に退避した時に私は気づく。あれだけ移動したにも関わらず、布団が汚れてない。この剣もそうだ。初めて見た時は古びて使い物になりそうもなかったのに今は新品同様。これは何なのかな。


「マスター、お疲れ様デス。魔導砲を撃つまでもないと、よく見抜きましたね」

「うーん、なんとなくね。もしかしたらこのスウェットのおかげかもしれない」


 戦いに関して頭が冴えわたっている気がする。ただし本当になんとなくなので、実際に自分で動いて戦うとなると無理だ。

 この布団といい剣といい、どうも本来のポテンシャル以上の力を発揮している。それも最初に戦った時よりも、それを実感できた。もしや私のアビリティ、成長しているのでは。


「思った以上に大きいなぁ。どうやって運ぼう」


「おい、嬢ちゃん! 助かったぞ! ありがてぇ!」


 オオサラマンダーの運搬について考えていると、3人のうちの一人が声をかけてくる。あの筋肉おじさん、よく見たら怪我していて包帯を巻いていた。ひとまずはあの3人か。


「お前、すげぇな。怪我も忘れて見とれちまったよ」

「あなた、冒険者? 見ない顔だけど……」

「はい、ピカピカの新参ですね」

「新参があのオオサラマンダーを……」


 よっぽど手に負えなかったんだと思う。あの大きい死体を呆けたように見ている。筋肉おじさんの武器が壊れているし、女の人の武器は弓。どれも致命傷を与えられなかったのかな。

 そしてこのさっきから一言も喋らない女の子だけが私から目を離さずに見上げていた。栗色の髪にややウェーブがかかっていて、十字架の飾りがついた帽子を被っている。なんでしょう、この風体は。


「あのオオサラマンダー、思ったより強すぎてな。逃げているうちにこんなところにハマっちまってよ」

「通常の個体ならなんとか倒せたのにね……戦闘Lvだけで判断して思い上がっていたわ」

「積もりそうな話は後にして、ここを離れましょう。ティカ、生体感知で何か反応ある?」

「遠い位置に反応あり。不明ですが魔物に違いありませン」

「面倒な事にならないうちにずらかりましょう」

「お、おぉ」


 どういう関係なのかは大体想像がつくけど、今はオオサラマンダーを解体して必要な部位だけを運ぶ。おじさんのアドバイスがありがたい。布団に載せて何往復かして荷台に乗せたところでくたびれた。

 今度からはこういう荷台車が入れない場所での素材運搬も課題かな。気がつけば、がんばって冒険者をやろうとしている自分がいた。


「あ、小さいオオサラマンダーを討伐しないとダメなんだっけ」

「その辺りは俺が口きいて、融通利かせてやるよ」

「ありがとうございます」


 おじさん達を助けたんだし、十分だよね。これで依頼不達成だったら、ふてくされてやる。あれ、ところで二人の冒険者といっていたけど、あの子どもを入れると三人だ。どういうことさ。


◆ ティカ 記録 ◆


結果的に 人助けまで出来て また一つ 実績を積んだマスター

キャンセルされなくて よかったデス

マスターは やはり 人の役に立てるほどの お方

これほどの人材 ブロンズの称号では 生ぬるイ

ゴールド いや プラチナの称号を 獲得しなければ おかしイ

僕自身も 少々 力の高まりを 感じまス

魔導砲だけではない 攻撃手段を 思い出せそうデス

僕の予想だと マスターのアビリティは もっと大きなものに なるはズ

あのオオサラマンダー 戦闘Lv14程度と予測

冒険者ギルドの基準を 洗い出して算出した結果 これが妥当でしょウ


引き続き 記録を 継続

「戦闘Lv14かー。戦った感じ、まだまだいけそうかな」

「魔物の急所を的確に見抜いてましたし、その剣の所有者の知識も並み大抵ではありませン」

「ホント、何者なんだろ……ちょっと気になるな」

「少なくともアスセーナさんと同等かそれ以上、いえ……遥かに上の予感さえしまス」

「それにバニーちゃんの身体能力もあるからね。自信ついてきた」

「ではブラッディレオに挑戦しましょウ」

「14から20は上がりすぎでしょ。15くらいで」

「はぁ……」

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