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マハラカ国の王都に行こう

◆ マハラカ国 港町タハラージャ ◆


 相変わらずの人の多さだけど、一つだけ違った点がある。あの一際目立つ巨大帆船は元幽霊船だ。あれについてはどうしようか迷ったけど、最終的にはこの街の商船ギルドに寄付した。私のものじゃないから売り飛ばすのは筋違いだし、何よりセイントフェザー号に失礼だ。


「あれが幽霊船ですの? 古い型だけど、今でも通用すると一目でわかりますわ……」

「本人もやる気だからね」

「本人?」


――現代において、まだ私の役目は終わってない


 私が一度触れたから、縦横無尽に大海原を駆けることが出来る。しかも200年もの間、海を彷徨っていただけあってちょっとやそっとじゃ沈まない。船が危険を自動回避してくれるから、世界一安全な船に生まれ変わった。

 普通なら化け物扱いされそうなものだけど、幸いこの国は物霊使い信仰があるからそこはクリア。我が身のことのように誇らしげに眺めていると、商船ギルドの人が駆け寄ってくる。


「モノネちゃん! もう来たのかい?!」

「時が経つのも早いものですね」

「そうか? それよりあの船、ありがとな! 元幽霊船だけあって、この辺の海じゃ無敵だよ!」

「問題は他の船に幽霊船と見間違われないかですね」

「それは避けられないかもしれんなぁ」


 課題はないこともないけど、概ねうまくいってるようだ。一つ心配なのは亡霊はいなくなっても元幽霊船という曰くつきなのは確かだから、乗客が集まるかどうか。まぁそこまでは私が知るところじゃないけど。


「でも、怖いもの見たさっていうかさ。そういうの好きな奴もいるからな! 宣伝になるかもな!」

「そのポジティブさが実社会で生きる秘訣なんですね」

「かもな……おっと、忘れてた。こいつを飲まないと……ぐびっ」


 船乗りがおもむろに手の平サイズのビンを取り出して、ガブ飲みを始めた。どこかで見たことある。


「ぷはーっ! これでまた魔力が上がったかな?」

「それ、もしかしてエルフの秘薬ですか」

「エルフィンVだよ。5つの生薬がどうとか……とにかく、こいつを毎日飲めば魔法が使えるようになるのさ」

「使えるんですか?」

「少しな」


 あのグリディさんが販促してたやつで間違いない。この人にまで行き渡るほど、出回ってるのか。よく見たら他の船乗りもちびちびと飲んでる。皆、そんなに魔法が使いたいのか。


「隣に住むオヤジがな、これを飲み続けて魔法が使えるようになってたんだ。俺も負けてられねぇからな」

「それ結構流行ってるんですか?」

「今や、ちょっとしたブームだよ。こりゃ魔法が先天的なものじゃない時代がくるかもな」


「はー、そんなうまい話があるのかー?」


 ナナーミちゃんが接近して船乗りが持ってるビンを、胡散臭そうに一瞥する。あの子が疑ってるなら、怪しいかもしれない。だけど今はそんなものどうでもいい。


「じゃ、仕事に戻るからよ! ゆっくりしていってくれや!」


 船乗りのおじさんが、軽快な足運びで走り去る。さて、こっちはゴーレムの業者を当たらなきゃいけない。だけどこの国には結構な数のゴーレム業者が立ち上がってるらしく、競走が激化しているとか。この国の事情に詳しくない私達が、行き当たりばったりでアタックするなんて、途方もない。


◆ 警備隊 詰め所 ◆


 だから結局、王様に会ってあわよくばコネを作ることに賭ける。今になって頼るのも虫がいいかなとは思うけど、気にしない。まずはここから、王様に行きつこう。いきなり王都のお城に行ったところで門前払いが関の山だ。だから事情を知る末端から当たる。


「何! 王様に会ってくれるのか!」

「はい。そこで下心満載なんですけど、いいゴーレム業者を斡旋してくれたらなーなんて」

「君が本物の物霊使いだとわかれば、王様もすぐに首を縦に振るだろう」


「いいのかよ。大丈夫なのか、この国」


 ナナーミちゃんの疑問はもっともだけど、こっちにとっては好都合でしかない。ここで私は気づいてしまう。私が物霊使いだと知らない子が一人だけいます。さて、誰でしょう。


「な、なんですの? 物霊使いって……」

「ごめんね。隠してたけど実はね」


 私が簡潔に説明すると、ジェシリカちゃんは一歩も二歩も下がる。そりゃそうだ。今までの戦いが全部、ウサギスウェットだの剣のおかげだったと知ったんだから。今にも「まぁー!」とか言い出しそうだ。


「まぁー! そうでしたのぉ!」

「ね、だからジェシリカちゃんも私を意識する必要は」

「そっちのほうがよっぽどすごいですわ! ありえませんわぁ!」

「えー?」


 鼻息を荒くして私の腕や脇、足に至るまで隅々を触りまくってくる。ちょっとくすぐったい。便乗して負けじと触ってくる子もいる。やめろ、アスセーナちゃん。どこ触ってる。


「確かにこれは納得ですわ。鍛えた形跡もありませんし……アビリティだけで帝王イカまで討伐したなんて……まずいかも」

「大丈夫だって。アビリティ頼りに比べてジェシリカちゃんは」

「そ、そうではなくて。まぁそれはいいですわ。考えてみたら布団が浮く時点で怪しむべきでしたわね」

「そりゃそうだ」


「物霊使いはこの国の救世主ですから!」


 アスセーナちゃんが誇ってくれている。私としては自分のことじゃないのに、むず痒いというか。むしろほっといてほしいんだけど。


「そ、それでだな。王都へ出立するなら、魔導車に乗るといい」

「変なノリですみません」

「私はここを離れられないから、こゆりに案内させよう」

「承知したでござるです!」

「ひっ!」


 いきなり天井が開いて降ってきやがった。今まで忍んでたのか。私でさえ驚いたんだから、初見の二人はもっと。


「なんだこれかぁいいー!」

「可愛らしいですわね。何歳ですの?」

「じゅ、じゅっさいでござるです」


 一瞬で適応するな。これだから強者どもは。ジェシリカちゃんは、下の兄妹と似たものを感じたのかもしれない。私にはなかなか見せてくれない微笑みを惜しんでなかった。


「じ、時刻表を見たらちょうど1時間後に発つ便がござるです」

「ござるなー。ところで魔物は平気なのかー?」

「バリアウォールで囲われてるから、平気なはずでござるです……」

「うっし! じゃあ、行くかー!」


「あ、あのぉ」


 抱えられたコユリちゃんのリアクションが限界だ。降ろしてやりなさい。


◆ 魔導車内 王都行き ◆


 細長い車体に車輪が左右に4つずつ、車内には二人掛けの長椅子が数列にわたって取り付けられている。ソファーみたいな座り心地で、意外にも快適だ。トイレも完備されていているのはさすがに驚いた。広々としていて、布団君も丸めて縦に置ける。こんなのが何十台も国内を走っているなんて、ユクリット国とは違いすぎる。


「えー、次はミハール農村ですー」


 停留所がいくつかあって、小さな村や王都を繋いでいる。いちいち冒険者を雇って長い時間をかけて、移動する必要もないわけだ。そうなると、この国における冒険者の需要が気になる。


「この辺りに魔物とかいないの?」

「バリアウォールの向こうには、いるはずでござるです」

「こちら側に入ってこないように、冒険者達が討伐しているんですよね」

「なるほど、一応の仕事はあるわけだ」


 私が心配するようなことじゃないか。前の座席に座っているジェシリカちゃんは、窓の外をずっと眺めている。ナナーミちゃんはござるちゃんの隣で寝てるし、私も寝ようか。そうなると、寄りかかってくるアスセーナちゃんをどうするのかが課題だ。布団君で巻いてしまおうか。


「あ、昼の分を忘れてた……ぐびっ」

「なぁ、それホントに効くのか?」

「魔法だけじゃなくて美容にもいいらしいのよ」

「確かに魔術師にブスはいないっていうけどよ」


 斜め前に座ってるカップルの何気ないやり取りが気になってしまう。あの女の人が飲んでるのはエルフィンVかな。魔術師にブスはいないというのは初耳だ。つまり魔法が使えない私は。


「ちょっといいかな?」

「な、なによ?」


 カップルの後ろに座っていた男が、声をかけてる。いかつい風貌に反してあのフードはひょっとして魔術師かな。そんな角刈りの男に話しかけられた女の人は、不信感を隠そうともしてない。


「それはお勧めしない。増強していると話す人間もいるが、ほとんどが一時的なものだ。副作用などは見られないが、一度の増強が癖になって常用するようになれば危険だぞ」

「いきなり何なのよ。副作用がないならいいでしょ」

「それがだな、個人差があるのが問題なのだ。元来、魔力は先天的なものでな。それを左右させてしまうというところが怖い。何故、差があるのか? そこを無視するのは危険だ」

「そんなのどうでもいいでしょ……」


 これ以上はよせばいいのに、魔術師の角刈り男が執拗に絡んでる。最終的には運転手に警告されたところで、男のほうが折れた。

 見た感じ、魔術協会の人かな。だとしたら、あんなものに普及されて面白いはずがない。魔術至上主義さんも何かと大変だ。

 終点の王都まではまだ時間がかかるだろうから、ひと眠りしよう。


◆ ティカ 記録 ◆


セイントフェザー号 救われて よかっタ

何より 自らの運命を 選択してくれたことが 嬉しイ

僕が マスターに仕えているように あの船も

末永く 人々の 役に 立ってほしイ


それとは 裏腹に エルフィンV きな臭イ

これは よく調べる必要があるが

マスターの 平穏を 乱すわけには いかなイ

あの魔術師の男 魔術協会出身であれば 警戒が 必要ダ

連中が信用ならないのは すでに実証済ミ


引き続き 記録を 継続

「ジェシリカちゃんの髪って、毎朝きちんとセットしてるの?」

「当たり前ですわ。身だしなみは淑女の基本ですの」

「そのたつ……個性的な髪型ってジェシリカちゃんが考えたの?」

「これこそがわたくしの理想ですのよ」

「ふーん。たつま……まぁいいと思うよ」

「さっきから何を言いかけてますの」

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