84 おやすみ
俺を挟んで背中にアプス、胸側にスー。
子供が二人とはいえ三人で川の字に並んだシングルベッドはちょっと狭い。
「消灯。寒くはない?」
「平気です」
魔法で点けた天井の明かりを呼び掛けで消す。
これもさっきの日記の鍵とほとんど同じ原理を使っていて同様の動作を要する。
俺の胸に頭を寄せて丸くなっているスーの肩へ優しく掛布を乗せ、背中側のアプスにも呼び掛けた。
「おやすみ、先生」
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
暗闇の中で二人分の熱と二つの心臓の鼓動に包まれながら、ゆっくり、ゆっくりと俺は目を閉じる。
眠りにつければ良かったのだが無意識に脳が日記の内容を反芻させ始めてしまった。
平和な異世界での新しい謎が二つ、三つ。
テーオバルトから得た情報によればファリーの暴走に関わっていた黒い塊の名は黒織結晶といい、ファリーが俺に伝えた記憶の中の魔王をも覆っていた。
それが魔王にとって何を意味するかは不明だ。
以前のマグは治癒団と共に黒織結晶を除去する魔法を開発し、その魔法はマグにのみ備わったという。
この世界で一番目に俺が使った、強い光を発して目眩ましをするだけだと思っていた光の魔法がそれだ。
今思えばそれほど大切な魔法で、そうだからこそ最優先に体が思い出したのかもしれないとも考えられる。
マグは黒織結晶への対抗術をもって魔王討伐の一員に加わったのだ。
そして、その研究の途中で幽閉されたファリーからスーを拾い上げてきた。
スーを魔法学校で育てながら研究を続け、完成させた魔法を来る時携え魔王へ立ち向かった。
……これで夢の中のマグとファリーの一連の関係が判明した。
(それはいいとして、だ……)
過去の時系列とは別に気になったことがある。
テーオバルトとの話中俺は自分の頭に生えた黒織結晶をしきりに気に掛けていたのだが、テーオバルトには角の形をした俺の黒織結晶は見えていないようだった。
思い返してみればそれは至極不自然な事で、始めから今までスー以外に俺の外見に触れて来た者がいない。
トンボだなんだのと言われてきてはいたが、魔法学校でも、あの晩の騎士たちもファリーを狂わせた物体と同じ物が俺にもあることを誰一人として異質な目で見る者はいなかった。
ここにいる、ストランジェットただ一人を除いては。
起きたら彼女とも少しずつ話をしよう。
あの夜から出来ていない話を。
彼女につらい思いもさせてしまうかもしれないと遠慮して言えないでいたが、今になってはスーを知ることも俺にとっては大事な情報源だ。
テーオバルトの見掛けがスーに似ていたのもあってか(実際、スー以外の竜人をみたのははじめてだった)出会ったばかりのことを思い出させられたな。
「……起きてる?」
「え?」
考えていた俺のシャツの胸元をくしゃっと掴んでスーが顔を上げた。




