24 ほこりちゃん
波止場の先のまた少し先、アプスを背負ってスーの後をついて歩き暫くすると、道の両脇に小さな明かりが点々と輝き始めた。
進めば進むだけ順番に足元で点灯していく仕組みらしい。スーの歩みに合わせて、一つ一つ点いていくランプのような明かりを近くでみると、それには愛らしい丸い目とこれまた丸くて小さな手足がついていた。
「それね、ほこりちゃん」
「ほこり?」
「そう。誇り高い精霊みたいな生き物なんだって。夜は暗いから学校の近くに呼んで照らしてもらってるんだってさ」
言われてみれば部屋の隅に溜まるあのわたぼこりを連想させられる形ではあるかもしれない。
不定形で風が通るとぴょこんと跳ねて飛ばされそうになるほど軽量そうな発光体は、黙って俺を見つめ笑っていた。
スーのそれは駄洒落のつもりだったのだろうか。俺は興味本意で、ほこりちゃんと呼ばれたそれに触った。
「へぇ……こんなのが精霊なのか」
「あっ、先生だめだよ! ほこりちゃんは誇り高いから気安く触ったら……!」
同じ洒落を二回も言うなんて、そんなに突っ込みが欲しいのか。生憎今日一日突っ込み担当をしてくれたアプスは後ろで寝転けてしまっているし、仕方ないな。俺が、と思ったその時だった。
「えっ? へ? うわっ……?!」
「だから言ったのに!」
ぷぷっ。と音のような声にならない短い鳴き声をあげながら、俺の手が触れたほこりちゃんが腕に体当たりをしてきた。スーのいうとおり、誇り高いこの精霊を怒らせてしまったのだろうか。
おとなしそうに笑っていた精霊の攻撃に驚いて仰け反りそうになるが、
「あ、あれ……?」
ほこりちゃんは俺に浴びせた一撃とともに木端微塵に飛び散り霧散してしまった。
少し粉っぽいものが光輝いて舞い落ちるそれは、俺に飛び掛かってくるまではまあるくかわいい生き物だったようなものの成れの果てだとすぐにわかった。
「あーあ……ほこりちゃんか弱いから、触ると消えちゃうんだよ……」
唖然としている俺にスーが近付き、今まで発光体が居た場所に手を合わせて言う。
眉をひそめる彼女の側で俺も思わず合掌すると、周りで道を照らしていた残りの発光体達がざわつきはじめた。
小さな手足を動かして耳のない耳へ耳打ちをする仕種の個体や、俺のそばに向かってきて見上げている個体、逃げ帰るように海に飛び込みそのまま消えてしまう個体など、俺が一匹を消し飛ばしてしまったのを見たのか他のほこりちゃんたちの様子がおかしい。
彼らに言葉が通じるのなら、それは濡れ衣だと弁明したい。
(少し触っただけで怒って俺に衝突し消えてしまったほこりちゃんがこんなに脆い物だとは思わなく……、なんて、どうにも駄目そうだ。俺の話を聞くどころか、耳なんて一個たりとも存在しないのだから。だったらその耳打ちみたいな動作はなんだ?)
「う、うわっ! ま、まずい……! 待ってくれ違うんだ……!」
一斉に集ってきた発光体に身動きをとらえられる。否、俺が一歩でも動いて彼らに触れたら、最初に自身の命をもって実証してくれたほこりちゃんのように跡形もなく消えてしまうから、俺は身動きがとれなくなると言った方が正しいか。
「ぷぅ!」と怒った素振りで頬を膨らませる個体に囲まれる。彼らの誤解を解きたいが、彼らに言葉はやっぱり通じそうになかった。
「はわわわ、先生……!」
スーが俺に向かって手を伸ばそうとするが、その風にさえ何匹かのほこりちゃんがふわふわと弾き飛ばされる。彼らは俺からターゲットを拡げて、スーのほうにも纏わり付いてしまった。




