135 堂々としていればいい
大体、出しはしない前提で言ってみるが俺が調子に乗って万が一、こちらからいやらしい気を抱いて彼女たちに手を出そうものならどうなるか解ったものでは無い。
この女性らのバックには警察の権利を持ったウルトラハイパーヤクザ紛いがついている。
なんならその暴力団体の長二人がリアルですぐ俺たちの真後ろの席に座って目を光らせている。
いや、目は光ってないけど。
全然、片方は酔っぱらってるし片方はまだ飯食ってるしこっちを見てもいないけれども。だ。
俺が何もしないにしても彼女たちが酔いに任せて何か間違いを起こしたりするかもしれない。
そうされたらタダじゃ済まなそうだ。と、手を握って指を絡めてくる化粧の厚い彼女から必死に目を逸らす。
早速子供たちに土産話として持ち帰れない案件か。
下心を試される怪しいお店に迷い込んでしまったような状態になり固まっている俺への助け舟は、
「わわぁ! 先生さぁんすみません! あなたたち! し、失礼ですよ! 先生さんは背丈はちょっとちっちゃめですけど、こう見えても普通にすごいんですからね! 普通に!」
「それ、普通を繰り返してるだけだよ。フィーブル」
「ほわっ?! そ、そうですか……? えっと、じゃあ、ええっと……」
偶然フルーツの盛り合わせ(このタイミングでこのメニューチョイスもどうかと思う。雰囲気がある)を持って戻ってきたフィーブルだった。
ちょっと小さくて悪かったな。
2メートル近い彼女の背丈からしてみれば比べるでもなく誰だって大抵は小さく見えてしまうだろうに。
「と、とにかくっ! 先生さんを困らせないでくださいっ! 二人とも~~……」
彼女は俺を両脇から攻めていた二人組を説得してくれた。
「折角来て頂いたのに申し訳ないです。わ、悪気は無いと思うんです。みなさん、先生さんに興味津々でして……」
「わかってるよ。俺なら大丈夫」
「うぅぅ……本当に楽しんで頂けていますでしょうか……? うちの部隊ってどうしてもこう、気品がないというか、穏やかじゃないといいますか……」
「うん……それも今のでなんとなくわかったよ」
「ひぇぇっ! すみませ~んっ! 忘れてください~!」
フィーブルは仲間たちを相手に普通に振る舞っていても少し神経質な挙動でいる。
どうやらそれが彼女のデフォルトらしく、大きな体に些細なナーバスが染みついてしまっているようだ。
誰に対しても過敏で常時そわそわしすぎているともいえる彼女の個性は、逆を返せば感受性や警戒心が強いとも受け取れるし他人を忖度せず誰にでも一定の気遣いができると言い換えれば良いようにも聞こえる。
慎重過ぎるあまり石橋を叩いて砕いて粉々にしかねない性格だけれど、俺を庇って体を張ってくれたことだって幾度もあった。
発揮できる場面が限られているだけで、彼女だってやるときはやる行動力を持ってはいるのだろう。
フィーブルに面と向かってこんな事を告げたら、きっと歓喜と怯えをまぜこぜにして泣き出してしまうだろうけれど。
「気配り上手だよね、フィーブルって」
「へ、へぁっ?! そそ、そうですかぁ……?」
「うん。俺はそう思うよ」
言い回しを変えてさりげなく伝える。
実際、個性派揃いの面々に合わせて上手い具合に立ち回っているとは思うし、常に怯えているように見えて実は芯があるのではないだろうか。
しっかりしているとはお世辞にも言い難いが、ジンガやイレクトリアの部下だけあってある意味フィーブルも良い具合にちゃっかりしているのかもしれない。
今だって俺が困っているところを見て二人組に話をつけてくれたのだし。
「うえへへぇ…褒めてくださってありがとうございますぅ……」
でも、少し褒めただけでこんなにまで表情をだらしなく緩めてしまうのはちょっとどうかなとも思う。
普段相当褒められる機会に恵まれていないのか、褒められたとしてもその回数以上に叱られてばかりいるのか。
それもそれで可哀相だし、リアクションはうっとうしいところもあるけれどもっと積極的に褒めてあげてもいいかもしれない。
照れながら笑うフィーブルを見ていると気付かないうちに優しい気持ちになっていた。




