133 和解の乾杯
「まァとにかく、だ。テメーは良くやった。俺が奢ってやっから好きなだけ飲んでけよ。んで、その顔、うちの隊員どもにもよく見せてってやってくれや」
「そうですね。お疲れさまでした、教諭」
正直、酒場へ呼び出された時は一体何をされるのか、ヒヤッとした。
心の隅の方ではまだ俺はジンガとイレクトリアの二人に怯えていた。
何しろファリーやスーのためにしたこととはいえ、俺はあの戦いの場に立っていた彼らの行動を制止し、最後は指揮……もしくは、命令に近しい発言までしてしまったのだから。
結果がどうなったとしても、あの時の態度が気に入らないと理由を付けて殴られでもするのかと思ったが、そんなものは俺の思い込みでしかなかった。
散々な目にあったからといって、彼らが俺にリンチをしてくると想像していた俺も酷い偏見を抱いていたものだ。
本当のジンガやイレクトリアは俺を認めてくれていて、親睦を深める酒の席へ迎えてくれた。
思いがけず暖かな言葉を受け取った耳がなんだかむず痒くなってしまう。
「なんだか勘違いしてたよ。呼んでくれてありがとう。ジンガもイレクトリアも」
「バーカ。さんを付けろつってんだろ。敬語はまぁ、今更か……」
「手荒なこともしましたからね」
恥ずかしさを紛らわせ照れを拭い去るように彼らと乾杯を交わす。
三つの杯がぶつかり合ってカチンと音を鳴らした。
よく冷えた金色麦酒が俺の喉を潤す。今度はちょうどいい苦みと甘み。
二人に対して抱いていた恐怖心が薄らぎ気持ちが変わったせいだろうか、ありきたりな一杯のはずなのにさっきの超高級蒸留酒の何倍も何十倍も美味かった。
「……ところで、ファリーのことはあれからどう報告したんだ?」
「かーーっ! 今それ言うかよ! 空気読めやチンカス!」
「心配には及びませんよ。あの竜自体、既にこの世には居ないものでしたから。初めから物証などは出なかったとみて我々は報告書だけであとは発現元を上部が調査していくそうです」
ジョッキを置いて疑問に思っていた話を提供した途端、頭をかきむしって不納得そうにイラつくジンガと八杯目になるおかわりを注文しながら答えるイレクトリア。
「どーだっていいだろ。酒飲んでるときによォ……」
「調査って、物証が無いのにどうやって?」
「さあ? どうするんでしょうね。物証がなくとも被害のあとが残っていますし。疑問が残ったところで我々の仕事はここまでですので、あとは上に任せています」
ジンガは公私を混同される話題が地雷だったらしい。わかりやすく機嫌を損ね、面倒な話は完全にイレクトリアに任せて、フォークをくわえつっぱねている。
一方で嫌な顔をせずきちんと話をしてくれるイレクトリアも見掛け通りしっかりしているが、返事を聞く限りはかなりちゃっかりもしているようだ。
ようは、港街の街や住民らを守ることだけが彼らの任務であり、この先ファリーが現れた理由や事件の発端についてを深く調べることは彼らでは行わないらしい。
ファリーに関する情報が欲しかった俺としてはなんともな解答だったが、彼らが知っていて隠しているようには思えなかったしこれ以上問うても無駄なようだ。




