132 マイルドを通過して
「ガキっつーのはなァ、あっちゅうまにデカくなりやがんだ。この馬鹿拾った時も十かそこらだったくせに俺の知らねぇうちに童貞棄ててきやがって……」
「経験は隊長に会う以前からありましたけどね」
「るっせぇわ。こういうクソ生意気なヤリチンクズになったらどうしようもねぇぞ。生徒共はちゃんとお前が面倒見てやれよ? 意外とませてるぜ、最近のガキって」
「はは。言われなくたって解ってるよ。にしてもジンガが子育てしてたとか想像出来ないな」
酔いのせいでやたら饒舌になっているジンガと、彼の絡みを涼しい顔でかわして爆弾発言で返すイレクトリア。
魔法学校での仕事や子供たちとのことを自然と話題にしていた俺の話を二人に聞いてもらい、彼らの武勇伝もそこそこに聞かされていた。
ジンガとイレクトリアは同じ部隊に配属された上司と部下である以前に養子関係、義親子でもあったという。
まだ子供だったイレクトリアを引き取り数年一緒に住んでいた過去を得意の下ネタ混じりに話すジンガに対してイレクトリアも否定せず、嫌な顔もしないで飯を食っているし楽しそうに相槌を打っている。
年齢も離れているし仕事の付き合いだけにしてはどうりで上下関係を感じさせない仲だとは思っていたが、まさか身内だったとは。
「おまけにな、カナンもこいつもいい歳こいて俺の側を離れやしねぇ。騎士なんてろくでもねーもんになっちまってよぅ……」
「ろくでもないって、騎士団って一応王立なんだろ? 騎士学校だってあるくらいなんだし憧れる人も多い職業だと思うけどな」
「ろくでもねーよ。騎士団なんざクソ以下の吹き溜まりみてェなとこだ」
「そうですね。クズばっかのろくでもねぇとこです」
「そうなの?」
くだらない下品もあれば、聞いているうちに勉強になった話題もある。
特に彼らとゆっくり話しをする機会がやっと得られた今、漠然としていたこの世界における騎士団のイメージが俺の中で明確なものになってきていた。
想像していた通り、王国騎士団という組織の中の銀蜂隊の役割は、警察的な仕事が多い。
過去、自身らの飲み代を接待費としていたところ監査が入り、以降本当の接待費用も一切落とせなくなり自腹を切ることになったという自業自得男の愚痴によれば、彼らの給料は国民の税金で賄われているらしい。
国王直下の騎士隊というだけあって騎士は皆紛れもなく皆、特別公務員みたいな立場だ。
銀蜂隊の主な仕事は港街の平和を守ること。
守るといってもかなり広義で、仕事内容は無限多岐に渡るそうで。
港街に狂暴な魔物が入ってこないのは普段から彼らが退治して寄り付かない環境を作っているからであるし、パトロール中に人々の間で諍いがあれば行って鎮め、海上からの搬入物の取り締まりを仲介業者を通じて行い、犯罪が起きれば摘発し根絶することもしているのだそう。
俺が以前されたような訪問での召喚尋問も、防犯活動の一部としての仕事らしかった。
また王国騎士団全体でみていくと、彼らのように街の警察屋さんに配属されている者達だけが騎士ではない。
国王のすぐ側で御身を守りながら政治活動の手助けをする部署もあるらしく、それらの重鎮らを銅獅子。
ストランジェットを狙った金鷹隊の下っ端は、もっとも所属人数が多く、近年部隊長が入れ替わったことで管理問題が頻発しているそう。
大まかに別けると三つの部隊があり、金鷹隊だけは枝分かれして更に細かい小隊が複数存在するらしい。
いずれも銀蜂隊と友好的ではない……というよりもジンガと反りが合わないのだろう。部隊間での接触は会議で顔を見せ合う程度で、それすらも面倒でうっとうしいと酔いどれ男は言った。




