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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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129 天秤は傾かない


「マグ先生の仲間……ですか。うん……それじゃあ私の見間違い……ううん。人違いかも、しれないです」


「ああ。そんなことをするような人たちじゃないと思う。あれでも俺らの世界でいう警察官の立場だしね。悪意のない市民に手は上げない」


「悪意……そう……」


そう返事をしていたがユーレカは一片も納得していなかった。

俺が見てわかる……いや……誰から見ても一目瞭然に。

俺のことを信じるならば自分自身を疑うしかないと渋々受け入れ、この場を冷静に収めるためだけに彼女はうつむいて話を終わらせたようだった。


「……きっと、そうですよね」


「何か思うところが?」


「いいえ。平気です」


自身を落ち着けるよう笑って閉口するユーレカを見る。

きっぱり否定したはずなのに、もやもやした感情はどうして俺の中に残るのか。

互いに全くもって腑に落ちないまま。疑心暗鬼も不安も余裕ぶって隠せるような俺たちではなかった。


俺たち異世界の外からやってきた人間には、まだまだ知らないことが多すぎる。

そして、俺とユーレカは知らないという不安を共有し支え合えることで、互いを励まし合える存在にもなっている。

この世界では誰よりも信用できる人間であってほしいと切に願っているのは本心だ。

しかし、共に戦った仲間だって信用したい。


疑いは誰にでも平等に向けられる。俺からのものだけではない厳しい視線を、異世界でユーレカは受けてきたのだろう。


だからこそ、俺は彼女を守りたい。彼女も俺を必要として側に着いてきているのだ。それだけは揺るがせない。

例え誰が敵であろうとも、怯えた目をしたこの少女は俺を頼りにしてくれている。


「俺も君の言葉を気に留めておくよ。もし何か他にも思い出したり、何かされそうになったらすぐに言って」


「はい……」


同じ世界に居たと告げる彼女をとるか、異世界での艱難を越えた仲間を疑わないか。

天秤は平衡にたもたれたまま傾かない。どちらを選ぶか迷ってしまうならば、今はどちらも信じることにする。

俺は彼女の目を見つめ、渦巻く不安を閉じ込めてから逸らした。


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