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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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128 疑念に繋がる

「わかったよ。じゃあ俺が行く」


「よろしくお願いします、マグ先生」


やっぱりそうなるのかよ。と、言いそうになるのを飲み込む。

イレクトリアにはファリーを昇華してもらった借りを尋問の分で帳消ししても、地下でミラから助けてもらった分がある。

借りっぱなしでは何を要求されるか解らなく、飲みの席くらいでまた貸しを増やすのはやめたほうがいいと俺の直感が知らせてはいた。


(こいつ全然替わってくれる気ないじゃん。頼めない俺の嫌そうな顔見て楽しんでるだろ。カナンもなんだか必死そうだし……)


仕方がない。きっと今の溜め息で全て察されているし、最初からその流れは変わらなかったんだろう。この会話に意味はあったのだろうか。

言うだけ言いあって解散した直後、これまで黙っていたユーレカが後ろで俺の背中をトンと突いた。


「マグ先生、ちょっと……」


「うん? どうした?」


会釈して去るイレクトリアの視線を隠れて逃れ、「あ……その……」と、彼女は口を開けるのだが後が続かない。

酸素不足の金魚が水面に上がってくるように上を見ては口をぱくぱくさせ、迷った末に考え込む素振りをする。

そうしてまた数秒悩んだあと思い切り一息吸うと、リュワレのほうを振り返って確認し俺の服を二度つねった。


機械都市へついてこさせるときに決めた、場所を変えて二人だけで話をしたいときの合図だ。カナンやリュワレがこちらを警戒していないか、視線を行き来させながら俺に耳打ちする。


「私、思い出しちゃったんですよマグ先生」


「なにを?」


もっと近くにきて欲しいという手招きに従いかがむと、再び他の女性陣を見て用心し内緒話を続けた。


「今はちょっと、タイミングがよくないんで。あとで詳しく話したいんですけど。私あの男が心底すんごい嫌いです。超嫌いだってだけなので、それだけ覚えといてもらえれば。あとは我慢しますから……」


あの男というのはイレクトリアのことでまず違わないだろう。

ユーレカは部屋を去って既に背中の輪郭もない彼がいたほうを睨んで言った。


「ちゃんと話してくれないとわからないよ、ユーレカ」


「じゃあ、言いますけど」


確かに先程のカナンと俺の会話を聞いていたなら、不安になるだろう。女性の立場からいけ好かないやつだと感じておかしくないし、不誠実でいい加減だとも思う。

既にリュワレと仲が良いユーレカなら、リュワレと打ち解けたあとに彼女が誘拐されてここで人質になった経緯も聞かされたのかもしれない。

加えて薄着で侵入してきたさっきのこともある。イレクトリアのことが「超苦手」と言いたくなるのもわかる。奴はこれからも多くの女子たちの仮想敵となり得るだろう。


だが、ユーレカの次の言葉は想像していた理由のどれもが可愛く思える物だった。

益々荒く早口になるだろうという俺の予想に反してユーレカは急に態度を改め、尖らせた唇を平らに戻し泣きそうな表情をこらえる。


「……あの人、私の『大事な 友達を 傷付けて 殺した』んです」


絞り出すような小声。

たったそれだけの短い台詞を言い切るのにも慎重になり、ゆっくりと伏せたカードを表にするように。一語一語を俺に伝えた。


「……なんだって?」


信じられない内容に俺は耳を疑い聞き返す。

ユーレカが小さく頭を振って、「リュワレたちに聞こえないように話して」と合図をしてくれなければ声をひそめるのを忘れるところだった。


「いや、まさか……? ……確かに時々やり方は乱暴だし、俺も拷問みたいな尋問をされたけど……あいつらはそんなんじゃないよ、ユーレカ」


そして、口は疑いを否定した。

迷いもなく。そんなはずはない。という八文字だけが脳内を巡る。よく考えもせずに。すぐに出た言葉だけを繋ぎ合わせる。


「あのな……イレクトリアもカナンもだし、騎士団の皆は一緒に戦ってきた俺の仲間なんだ。だから……」


そんなことをするはずがない──の言葉が喉の出口で詰まり、入り口が狭まる。

本当にそう言い切れるのだろうか。と、いう疑念がよぎった途端、頭の隅がズンと重くなった。






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