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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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126 歓談

思ったことは口から出るまま、話し始めたら止まらない。

直接的な意見を遠慮なく言うユーレカは良くも悪くもリュワレにかなりの影響を与えたのだろう。

世間知らずな深窓のご令嬢にとって異界の転生者の言葉は新鮮で、なんでも斬新に耳に響いている。


一体どこからの知識なのか。その知識はフィクション過ぎるだろう。と、よく知らない俺でさえ突っ込みどころ満載なのだが、婚約破棄の一言から一人盛り上がり続けていくユーレカの話に、彼女の頭の中の妄想トークとは知らず真剣な顔で相槌を打っているリュワレ。

二人が打ち解けているのは微笑ましいし、良いことではあるのだけれど。


(力になれると言った手前、強くは注意できないな。でもそろそろ割って入らないといつまでも終わらないぞ、これ……)


呆れた俺はコッホン。と二人の注意を引くよう大袈裟に咳払う。


「ユーレカ。そのくらいにしておかないとリュワレが全部本気にしちゃうだろ……」


「いやですねぇ。私はいつだって本気ですよ。かわいいリュワレちゃんのしあわせを考えてのことです」


「わ、わたくしも、ユーレカ様が嘘をついているようには聞こえませんわ」


一旦打ち解けてしまうと騙されやすくてお人好しになってしまうのがリュワレの本来の性格らしい。

つい数時間前まで地下でのことはイレクトリアが彼女を唆したか操ったのだと思っていたが、この様子だと奴にとっては唆すまでもないタイプだ。

俺から見ても呆れるほどちょろすぎる。


もしかしたらリュワレ自体もともと人を見る目がないのかもしれない。

世間知らずな深窓のご令嬢ゆえなのかもしれないけれど、それにしても人を容易く信じ過ぎてしまう。そういう性分なのだろう。良くも悪くもだ。

無知で純粋なだけで、悪い子ではないことは少し一緒にいたなら誰でもわかる。


警戒はするが、信用したら一瞬だ。まるで子犬のように尻尾を振ってついてきてしまう。

失礼だが迂闊だ。コルベールが四六時中ほとんど彼女を見張って口出しをしているというのもわかる気がする。

それを不自由な思いをしている、や束縛されている、という言葉で片付けるのもどうだか。

気付かせてあげたいが切っ掛けがないと難しい。


「だいぶユーレカが自分勝手に楽しんでるように見えるんだけどなあ」


「そんなことないですってば。ねっ、リュワレちゃん」


「ユーレカさんのおっしゃる通りです。とてもためになります」


注意してみたがまったく相手にされることはなく。

女子同士で団結し段々俺との間に距離を置いて二人の世界になっていく様子を見守りながら、ちょっとばかり居心地が悪くなってきた頃。


「マグ先生、ありがとうございました。戻りました」


(あっ。た、助かった……)


どうやらカナンが戻ってきたようだ。

彼女の声を聞いて内側から鍵を解錠する。自動扉が開き見慣れた黒い制服の女騎士が入ってきた。

スーツスタイルから着替えてきたらしい。


「……ええと、失礼ですが彼女は?」


「ああ。ユーレカは俺の生徒だよ。中央の塔まで一緒に来たんだけど途中ではぐれちゃって。来てみたら先にリュワレとこの部屋にいたんだ」


「マグ先生の優秀な助手、ユーレカです。さっき着いてリュワレちゃんともお友達になりました」


「ぴゃい!」


胸を張って打ち合わせた肩書きを名乗るユーレカと、真似をしてケースの中でぴょこんと跳ねるメナちゃん。


「そうでしたか。私は銀蜂隊カナン・ベルベットと申します。お見知り置きを」


対して無駄無くかしこまった自己紹介を返すカナン。

真面目な彼女らしくユーレカと比べると初対面ではかなり堅苦しい所作だが、表情は俺に向けるよりずっと柔らかい。

といっても同僚のフィーブルやミレイほど砕けてはいないし、微々たる違いではあるけれど同性の年下相手だとこんな感じなのだろう。

カナンの年齢は聞いたことがないし、精霊換算だといくつになるやらだが彼女の新しい一面を知ることができた。


「カナンが戻ってきたことだし、俺も男部屋に戻ってシャワーでも浴びてこようかな」


「マグ先生、その前にもう一つ宜しいでしょうか?」


女性は女性同士で交流するだろう。

二人の側には俺よりもカナンがいてくれたほうがお互いにとっても居心地がいいと思う。あとは任せよう。

俺も以前ほどジンガやイレクトリアに苦手意識はないし。

そう思って来た道を辿って戻ろうとする俺をカナンが引き留める。


「その、先生はお酒はお強い方でいらっしゃいましたか?」


そして続く質問に俺は首をかしげた。

聞かれて思い返すが、マグの体で無茶をするほど飲んだことがない。

いつだったかジンガに招かれて居酒屋に行ったときも控えめにしたので、どのくらいで酔い潰れるか測ったこともない。


「お酒? 多分人並みだとは思うけど。でも急にどうして?」


「それが……コーデュロイ隊長から晩酌に付き合って欲しいと申し出を受けておりまして……」


「えっ。俺も一緒に? あの人と?」


「はい。お願いできますか?」


何かまだ勘違いをされたままのような気がするのだが。

しかもこれを受けることによって更に勘違いが加速してしまうのではなかろうか。


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