125 そんな婚約破棄しちゃえ
リュワレが俺たちに打ち明け話した困り事。
そこには、彼女がどうしても上手くコミュニケーションを取ることができないという二人の男性が出てきた。
一人は彼女の婚約者で、ジムディという男。
婚約者といってもリュワレとは親と子ほど歳が離れた人物らしい。
伴侶になる相手として認識はしているものの、共通の話題を広げることが難しく会話が続かないそうで、同じ部屋に一緒に居るのが苦痛。嫌っているというわけではないのだが、ジムディと自分の関係が将来良くなっていく見込みを感じられず、気を遣って本当の事が言い出せないという。
彼女の悩みの種の第二は、俺とユーレカも検問所で顔を合わせたコルベール。
彼はリュワレの両親の身の回りを世話していた使用人の一人で、父親の秘書ような立場にいた。
彼女の父母が亡くなった後、機械都市の中枢で重役として置かれるようになった機械人形。
機械人形という呼び名は機械都市では一般的に素体となる人体の八割以上を機械化したヒトを差す言葉らしく、コルベールは皮膚以外の部分がほぼ全て機械になっているとのこと。
体の九割を機械化した機械人形が自我を持って動いている例は先にも後にも彼しか存在せず、彼はリュワレの父が手掛けた機械人形でも最高傑作だった。
父を尊敬していたリュワレは父の作品で優秀なコルベールにも世話をしてもらっていたのだそう。
だが、父亡き後に機械都市の重役を引き継いだリュワレの専属執事を志願した彼を受け入れて以降、コルベールは人が変わってしまったという。
リュワレを機械都市の人々の信仰を集める象徴として表舞台に立たせ、実際は彼が糸を引き操っている。
コルベールは彼女に窮屈な暮らしをさせ裏で支配するだけでなく、機械都市の住人全ての生活を掌握しようと目論んでいるのだ。と、リュワレは熱弁した。
前説したまるで気の合わないジムディとの婚約も、コルベールが彼自身の私欲のために取り付けたものだ。
「ですから、わたくしの意思なんて何一つありませんの……」
「酷いじゃない。むっかつくね」
彼が全ての元凶だとリュワレは力説した。
「なるほどねぇ。じゃあそのジムディさんって人とコルベールさんが機械都市では偉ぶってるんだ。そんでもってリュワレちゃんはその人たちがあんまり好きじゃないってわけ」
「ええっと、それは……その……」
物凄く端的にまとめるユーレカにリュワレは戸惑いおろおろしてまた口元を押さえる。
言いすぎてしまった。と、思っているのだろう。確かに柄にもないというか、物静かそうな外見からは予想だにしない言葉もいくつか飛び出していた。
溜め込んでいたものを俺たち相手に吐き出すほど気を許してくれた……といえば聞こえはいいのだが。
「大丈夫だって。ここなら私たち以外に誰にも聞かれないし。思ってることぜーんぶ言っちゃって平気よ。リュワレちゃん」
「俺らで力になれることもあるかもしれないからね」
「そうそう! ってゆーか、嫌なら破棄しちゃえばいいじゃない。そんな婚約!」
「ふえぇ……っ?!」
勢い任せに思ったことを口から発射するユーレカに、またリュワレは驚いて口をふにゃふにゃにする。
頷きたいけれど肯定するわけにもいかない、肯定寄りの反応で「はわわわ」とだけ音にして開いた口が塞がらずわなわなしている。
「それは、その……確かにそう……ユーレカさんのおっしゃる通りなのですけれども……」
ユーレカははっきり言い過ぎなんだよな。と、俺が言ったところできかないんだろうけれど。




