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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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124 男女関係ってむずかしいので


そういった話があってカナンと入れ違いに女性陣の部屋へ来てみたところ、予想外な別の先客がいてリュワレと談話中。と、いう状況であった。


「……ユーレカ、あのさ。そろそろ……落ち着いてくれたかな?」


「ううぅ。本っっ当に、私、心細かったの……マグ先生ちゃんと理解してくれてるんですかぁ……? 私をほったらかして、鼻の下伸ばして……美人のお姉さんにホイホイついてったの、反省してるんですぅ?」


「ぴぴゅぴゃぁ?」


「してるよ。じゅうぶん、痛いくらい理解した。本当にすまなかったと思ってる」


俺の胸を拳でぽかぽか叩きながらわんわん泣きついた後、今度は十分ほど正座をさせてまた十分。

談話中とさっきは表現したが、談話していたというよりも一方的にリュワレににじり寄っていた気がする彼女……ユーレカが予想外な先客の正体だった。

彼女が提げたかごの中で、メナちゃんも真似をして膨れたり跳ねたり。ぷりぷり怒っている。


ミラに対して鼻の下を伸ばしていた覚えはないのでそこのところは俺も尊厳を守りたい。

ただ、彼女の言う通りユーレカを置いてミラと二人で深部に行ったのは事実。

あの後とんでもない提案を受け、秘密を知ったばかりに慌てて逃げてきたことを説明して弁解してもユーレカは納得いかない様子でいた。


「事情は話した通りだよ。泣き止んでくれって。これからの話をしたいからさ。……な?」


「いやです。まだ赦してあげません! やぁ~だ~!」


「ぴゃぁ~ゆ~!」


「ユーレカ……メナちゃんまで……」


納得できないのは多分彼女らの感情的な問題。

理論的に解説することは出来ても機嫌をとるような上手い言い回しが浮かばない。

言いくるめ技能の乏しい俺では、駄々っ子のようにごねる一人と一匹にどう話をつけたらいいか。

埒が明かずどうしたものか困り果てていると、


「んふっ。うふふふっ」


俺とユーレカのやりとりを傍で見ていたリュワレがくすくすっと笑いをこぼした。

振り向き見ると彼女はお嬢様らしく上品に両手で口元を隠して、


「も、申し訳ありません。わたくしったらつい……」


噴き出してしまったことを謝罪し慌てる彼女。


「リュワレちゃん、笑ってる!」


「わらって……?」


こてん。と首を傾げるリュワレにユーレカが駆け寄る。


「そう! 笑ってくれてる。よかったぁ。笑顔のほうが百倍かわいいよ! ですよね? マグ先生?」


「あ、ああ。そうだね」


俺への怒りはどこへやらでリュワレに興味を移してはしゃぎ出すユーレカ。

流されるままに頷くと、ケースの中のメナちゃんも機嫌を直してピョンピョン跳ねていた。

メナちゃんの感情表現はユーレカを見本にしているだけのようだ。彼女と全く同じ反応をする。


「その……お二人は恋人同士なのですか?」


「は? 恋人? 全っ然そんなじゃないです!」

「別に俺らはそういう関係じゃないよ」


リュワレからの質問へ即否定の解答。

コーデュロイからといい、今日この手の質問をされたのは二回目になるのだが。

息の揃った俺とユーレカの返事にリュワレは柔らかく笑い、


「では、とても仲良しさんなのですね。わたくし、あまり人様とお話しすることに馴れていなくて。お二人を見ていて、わたくしも婚約者の方とこんな風に遠慮せずにお話しができたら……って、思いましたの」


羨望の眼差しを俺達に向けて言った。

リュワレが少し口下手で流されやすい性格なのだろうということは、俺にもなんとなく察しがついていた。

イレクトリアがどんな話術を使って彼女を騙したのかは知らないが、彼女自身に惑わされないような確固たる意志があれば、今とは違う展開になっていたかもしれないし、連れ去られる場で抵抗していてもおかしくはなかった。


それがなかったということは、彼女には機械都市に対して何らかの不満や迷いがある。とも俺は思っていた。

リュワレを知っていくことは、機械都市の本来の姿や舞台裏を明かすのことへの近道になるかもしれない。

そんな俺の思案を知ってか知らないでか、


「リュワレちゃん、婚約者がいるの?! この歳で?!」


「は、はい……その、物心がついた頃には決められておりまして……」


「えーっ? なになにそれ! 詳しく聞かせてよ~!」


何か言いたそうにしているリュワレに対してユーレカはぐいぐい突っ込んでゆく。

自然と話すように促せるのは物怖じしないユーレカの性格としても、同性同士で話しやすいのだろうか。

リュワレも聞かれたことを彼女になら素直に答えてくれるようだ。


予期せぬ再会は結果的に強力な助っ人との再会となった。

二人の少女を見守る俺が視線を下ろすと、メナちゃんが存在しない鼻をフンッと鳴らして自慢げにこちらを見ていた。


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