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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
116/140

115 今日から俺らは誘拐犯

赤い靴の移動魔法もこれで二度目。

少しは体が慣れたのだろうか。


イレクトリアに引かれる腕を追いかける体と俺の頭は、以前同じ魔法に便乗したときよりも少しだけ冷静でいられた。

それでも、空間転移の如く素早く巻き戻される背景の中を縫って歩くのには足元が不安定だしまだまだ酔ってしまいそうだったけれど。


「うおっ!? いきなり出てくんな!!」


急停止して道から逸れた場所に飛び出し、行き着いた先は機械都市の居住区だった。

片隅で隠れながら煙草を吸っていたらしいジンガの隣に到着する俺達三人。


三人……そう、俺とイレクトリアともう一人。

イレクトリアが人質に取っていたところを、物語(じゅもん)を唱えるうちに俺が弾みで手を握ってしまい一緒に連れてきてしまったピンク髪の少女、リュワレもここにいる。


「あ、あうぅ……ここ、ここは……?」


「落ち着いて、リュワレ。俺たちは君を傷付けたりしないから。さっきイレクトリアが言ってたのも詭弁、というか……」


「キベン? キベンとはなんですの……?」


彼女は何が起きたのかも、ここが何処だかもわからないといった挙動不審の状態で目を白黒させて大混乱状態だ。

声をかけるとじっとこちらを見上げ、俺の服を掴んで固まってしまった。


「イレクトリア……お前なぁ。今までドコほっつき歩いてサボってやがった……っつうかなんで先公も一緒にいんだよ? 研究者どもについてったんじゃなかったのか?」


俺達の登場に驚きつつも数秒後には受け入れ「テメーらのせいで貴重な煙草を一本無駄にしちまった」と普段の文句言いになる様子から、ジンガもイレクトリアの魔法には慣れているみたいだ。

状況を説明する気がないのか、何か考えて黙っているイレクトリアに代わってここは俺が話してやるべきなんだろうか。


「いや、それが色々あって。俺たち……」


「隊長、カナンさん」


俺が経緯を話し出そうとするのを遮りまたもイレクトリアが会話に割り込む。


「奴等の尻尾を掴みました。研究の実態も」


相当なきまぐれなのか表情からでは彼がいつ話し出すのかタイミングがいまひとつ俺には察せない。

そんな俺とは対照的に、彼の二言だけで察したらしいジンガとカナンの顔付きがふざけあえるお喋りモードを止めて真剣なものへと変わった。


「……ああ。話してみろ。テメーもだ先公」


「俺も?」


「今何か言おうとしてただろ。見たモン全部吐け。適当なことは言うなよ」


「教諭、嘘発見器はごいりようです? 話しづらいようでしたらかけて差し上げましょうか」


「結構です! 俺も……すぐあんたたちに話さなくちゃって思ってたんだ。中枢の地下で眠らされてる結晶の被害者の人たちのことも、機械都市が彼らを殺して燃料にしようとしていることも。俺一人じゃどうにも出来なくて。だから……」


俺は地下でミラに見せられたこと、見たものを全て言葉で伝えられる限りのことを銀蜂隊に話した。


機械都市の研究者たちが始めようとしている新たなエネルギーの生産方法に国から運んできた何も知らない人々を組み込み利用する計画を立て、その計画に共謀を持ち掛けられたこと。

彼女たちは結晶を除去する俺の魔法ではなく、俺自身が魔法で人々を救えることを彼女たちの計画にすり替え、俺を頼りにする人々に与える影響を欲しがっていただけだったこと。


既に計画は実行段階を間近に控えていて、俺はそれを治癒団リントや国王に伝達し計画を阻止したいと思っているとも。


俺の話を受けたジンガたちは「上部に指示された余計な仕事」の内容を今度は正直に話してくれた。

確かに数年前に黒織結晶に侵された人々は治療方法の研究の名目で、国王の認可のもと王国騎士団バテンカイトス金鷹ギース隊によって機械都市へと送り届けられていたらしい。


その後も暫くは取り決めに従って機械都市から王国側へ定期連絡を寄越していたとのことだが、今年に入ってからその連絡が滞ってしまったそうで、件に何らかの問題があるのではないかと度々騎士団の会議にも挙がっていたため今回別の用件で訪問することになったジンガたちに調査が任せられていたそうだ。


ファリーの件に続いて今回もまた協力関係を結ぶことになった俺と銀蜂隊だったが、俺のピンチにイレクトリアが現れたのはなんとも幸運な巡りあわせだったらしい。

ジンガがコルベールに探りを入れながら商談を行っている間に、イレクトリアはリュワレと接触を図り尋問を通して地下隔離部屋へ辿りついたところ俺がミラに脅されている現場に出くわしたのだという。


偶然とはいえあの場に彼が来なかったら今頃どうなっていたことか。


俺たちばかりですっかり話し込んでしまっていたがあの場といえば、


「あっ、あのぅ……わたくしはその……どうしたらよいのでしょうか……?」


彼女、リュワレもあの場にはいた。

落ち着いてから暫く経っても俺らの話題についてこれず混乱させたままだった。

おどおどしていた少女は今、雲った表情で不安そうに俺たちを見上げていて。


「解放しては頂けません……です、よね?」


「念のためリュワレには事が済むまで人質でいてもらったほうがいいんじゃないかな……」


「そうですね」


「えっ? ええーーーーっ?!!!」


珍しく意見が一致した俺とイレクトリアの言葉に彼女はまた意識を失って倒れそうになっていた。

当然の反応だと思う。

俺から巻き込んでおいて可哀想だけれど、しばらくは彼女にかける気の利いたセリフが思い付きそうにない。

眩暈を起こして、きゅう。と倒れてしまうリュワレを俺はそっと両腕で受け止めた。



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