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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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109 ミラとシアン

「あのクソガキ、勝手に行動しやがって。誰のせいでこんなクズみてーなトコ来てやってると思ってんだ。上から余計な仕事までやらされてよ」


「余計な仕事?」


「コホンッ。隊長」


文句を垂れ流すジンガの言葉を拾って聞き返す俺に、態とらしく大きな咳払いで制止の合図をするカナン。


「ああ。別にテメーには関係ねェよ。聞かなかったことにしとけや」


それに対し、隠し事が下手クソな男は整えられた額を掻きながら話題を流そうとする。

気になる態度ではあるがこれ以上は野暮らしい。詮索はしないことにしておこう。


(なんて言うか……)


ジンガは苛立って口を尖らせているが、少し心配をしているような様子でもあった。

なんだろう。捜されているイレクトリア自体は立派な成人であるしそんな心配をされるような年齢ではないのだが、まるで迷子の子供を捜索する父親のような雰囲気がある。

ジンガ自身小さな子供が居てもおかしくはない年齢故に想像するには容易いが、今は彼も仕事場。

機械都市は子連れで来る遊園地や都営公園などではないはずだ。


隠し事も気にはなるが、それよりも正直な感想。

俺はちょっとジンガらしくないというか、今までの彼からは想像しなかった一面を垣間見た気がする。

こんな顔もするんだな。と。


「わかった。イレクトリアなら俺は見てないよ。俺らもさっき着いたばかりなんだ。なあ、ユーレカ」


「むう~~~~……」


「ぴょ~~~~……」


同意を求めた俺の隣で、ユーレカはジンガの顔をじいっと見詰め眉間に三本筋をぎちぎち並べている。

にらめっこをしているのだと勘違いしたメナちゃんも真似しているからやめなさいと言いたい。

しまいにはその厳ついおじさんに穴が空いちゃうぞ。


「コルベール氏にお伺いして放送で呼び出して貰いますか?」


ジンガの隣ではやれやれと溜め息をつくカナン。

所々にカメラやスピーカーが設置されているとは思っていたが、それを実行したらイレクトリアは本当に迷子の子供役になってしまうな。それはそれで滑稽なんだけれども。


「はぁ? そんなのがあのバカに効くと思うか?」


提案に眉を歪めるジンガは、軽く手を振ってユーレカとメナちゃんの睨みから視線を逸らしつつ喉を鳴らす。

そういえばこの人、子供には弱いんだったっけ。

睨まれている間居心地の悪そうな顔をしていた。


「効かないと思うな……」


確かに。と、俺も思わず頷いてしまった。

流石、父親役候補のジンガはイレクトリアの性格をよく理解している。

まぁ、俺ですらあの人が呼び出しに応答することもなければ、呼ばれたことに恥じらうこともなさそうだとは思うけれど。

そうこうしている俺達のところに別の二人組が現れる。


「お話中失礼致します。お待ちしておりました、マグ先生。今回の件の担当を致しますミラ・ワイユと申します。こちらは研究科のシアンです」


「……」


「はじめまして。よろしくお願いします」


俺に話し掛けてきた女性たちは、テーオバルトが言っていた都市の研究者で間違いないだろう。

いかにも研究者といった雰囲気を持つ二人の女性が、俺の挨拶に合わせて軽く頭を下げる。


先に自己紹介をしてきたミラの方はメガネを掛けた白衣姿の方。

前髪を後ろ髪と一緒に纏めて束ね、クリップで留めて持ち上げている。ツリ目が少し勝ち気そうな印象を与える外見だ。


シアンという名前で紹介されたもう一人は、顔全体をマスクで覆いフードを被っていて声を一切発さなかった。

俺は彼女のことを名前の響きや背格好で女性だと判断したのだが、シアンの方は全く顔が見えないし声も聞かせてくれないので、もしかすると少年の可能性もないとは言いきれない。

実態を悟られたくないとでもいうような風貌をしているのは何故なのだろう。


「セファ先生とテーオバルト先生からお話はうかがっております。貴方のお力を是非我々にお貸しください」


俺とユーレカはジンガ達と離れ、彼女らに着いていった。



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