104 天鵞空の下で
「わぁ。すっごい……あれってモノレール? でも、誰も乗ってないみたいだけど……」
「あちらを走っているのは無人の電子馬車です。貨物輸送用ですね」
私たちが越えてやってきた銀色の高い壁の向こう側。
機械都市の内側は、メナちゃんだけでなく私やマグ先生にとっても目新しい物で一杯の世界だった。
予想していた通りといえばその通りで、挨拶をするホログラムを過ぎても鉄の道が続く。
足元はずっとどこまでもそんな感じで、上を見上げるとレールの下に箱形の乗り物がぶら下がって走っていた。
さらにその上には空があるのだけれど、この空がちょっと見た目にも今まで見てきた空と違っている。
広くて遠いんだけれど、薄暗くて。
目をよく凝らして見てみるとうっすらと天井らしき境目があるようにも感じられた。
実際に天井が付いているのかをテーオバルトさんにきいてみたけど、それは彼にも解らないのだそう。
「我々は機械都市の空を『天鵞空』と呼んでいます」
「そうなんだ。確かになんとなく、硬いような柔らかいような?」
「どっちだよ?」
歩く先々で見掛ける建物は、記号化されたみたいにずっと同じぐらいの高さのビル……もと来た世界で日常的に見ていた都会のビルのような物で、10メートルあるかないか。背丈を揃えられて建っている。
景観を維持するように決められてるのかな。不気味なくらい形にも色にも差が無い建物しかない。
都市とは呼んでいるけれど、機械都市の立地は国から見たら一つの大きな島みたいなもの。
四方が海に囲まれていて港町から舟に乗ってきたわけだし、渡航には検問が必要で隔離されている様子からみてもそう。
そんな島の中だけで技術を向上させて発展した機械都市は、国の各所大陸とは異なる独自の文化を築いているとかなんとか。
読み終えたら消えて無くなるカードサイズの画面……立て看板から引き抜いた一枚に書いてあった。
「なぁんか、どこも外との差がおかしいほどありすぎると思いません? また違う異世界に来たみたいです。こう近未来的な?」
「まぁ、拳銃や機械技術はここから外へもたらされたものらしいからあながちそう言えなくもないかもね」
「まるで映画の中みたいですね。空飛ぶ車とか、ゼリーみたいなご飯とかあるんですかねぇ」
「呑気だなあ。ユーレカ、あのな……」
「難しい顔してないで、折角来たんだから楽しまないと損ですよマグ先生!」
「ぴゃーんっ。ぴぴょ」
テーオバルトさんを追いかけながらマグ先生と話していると、肩から提げているケースの中でメナちゃんがぴょこんと跳ねた。
反応した方向を見ると、
「あっ、ほら自動販売機がありますよ!」
「自販機? それにしては随分と派手な……」
「ぴぴぽ! ぴぴぽ!」
元居た世界では当たり前のように見ていたジュースの自動販売機が立っていて、近付くとメナちゃんもはしゃぎ出す。
私が教えてあげた大好物の名前を連呼してる。
「ほんとだ。これ、未来のいちご牛乳かな? 300円? ちょっと割高だけど買ってみよう」
「ぴゃーんっ!」
お金を入れ、テレビみたいなスクリーンにあるイチゴのイラストが表示されている部分に触れる。
ガシャコンッ。
が、しかし、出てきたのは瓶でも缶でもペットボトルでもなくて。
「……んえ? なんじゃこりゃ?」
「そちらは電子煙草の風味変換器ですね」
「ネオシガー?」
「ぴぴぽ……ぴょ……」
しょんぼりするメナちゃんを励ましてはいるけれど、私も正直がっかりしている。
イチゴの絵が描かれた棒状の物体は、機械都市で出回っているタバコの代替品の味や香りを切り替える装置だったとか。
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