103 リュワレ
大きな仕掛け扉の前に立つと、ゴゴゴゴと音と地鳴りがして厚い鉄板が左右に別れて開く。
続けてプシューッという雰囲気たっぷりな空気の音で仕掛け扉が一気に上に持ち上がる。
吊り橋がかかるみたいに銀色の道がぎゅーんと押し並べられ、茶色の地面はたちまち塗りつぶされていき、一本の歩道が組みあがった。
日曜の朝の変形ロボットのごとく。ガションガションジャキーンって感じの大袈裟な演出。
我ながら語彙力がなくってすごさが伝わらない。いいのよ。とにかく。
「は、ハイテクですね……!」
「ぴゃあ! ぴゃっぴゅ!」
見たことのない仕掛けに大興奮のメナちゃんと私。
マグ先生と一緒に警戒しながら歩道の上に乗っかる。
見るからに自動で動き出しそうな足場だったけれど、残念ながら私たちを運んでくれる機能は無し。そこからは徒歩で機械都市入りとなった。
機械都市の中まではテーオバルトさんが連れ添って案内してくれることになっていた。
この人はマグ先生の知り合いでスーちゃんと同じ竜人さんなんだとか。
角と羽根と尻尾が生えてて髪が長くてちょっぴり中性的な顔立ち。そこそこイケメンだと思う。物腰も丁寧。奥さんとお子さんが遠くにいるけど忙しくて半年くらい帰れてないみたい。
美人なのは種族柄なのかな。私が以前、召喚して出会った彼女ほどではないけれど竜人はみんな綺麗な容姿をしている気がする。
(ファリー……)
ふと、会いたい人を探すため、私に別れを告げて飛び去ってしまった友達の事を思い出してしまった。
真っ白に輝く鱗のとてもとても美しい竜。絵に描いたような……って、彼女のことは私も絵本で見て呼び出したのだけれど。
ほんの短い間だったけど私とファリーの仲には友情があった。
だから、離れた彼女にも幸せになっていて貰いたい。
今頃はきっとどこかでーーーー。
(あれ? ……でも、何か大事なことを忘れてるような……ファリーのことで……)
「ようこそ! いらっしゃいませ。お客人様方!」
感傷に浸り掛けた私の耳に少女の高い声が響いた。
顔を上げて前を見ると、桃色の長い髪をした女性がこちらへ手を差し伸べてくれていて。
「どうも……って、あれ? すり抜けちゃった」
「それ自動再生のホログラムみたいだよ。ユーレカ」
「よくお越しくださいました。どうぞ皆さま、夢と希望の世界をお楽しみ頂けますように。快適で理想的な暮らしを機械都市で!」
明るく挨拶をする女性の足元をよく見れば野球ベースのような台形の装置がある。
成るほど、銀色の壁の向こうでのお出迎えはこの自動音声と映像機能が行っているらしい。
早速もう一歩入ったときから機械都市ってわけだ。急にSFになった。といってもSFってスペースファンタジーのことだったと思うし、ファンタジーであることに変わりは無いのかも。
ほんの数分前まで剣と魔法の世界にいたくせに、私もマグ先生も日本での記憶のお陰かこの世界観をあっさり受け入れてしまっている。
私たちより先に機械都市に来たことがあるらしいテーオバルトさんも同じだ。動じない。
「テーオバルトさん、この映って喋ってる人は誰ですか?」
ホログラムに映し出されている女性は、女性と表現するにはまだいくらか幼かった。
私たちよりもずっと若い。もしかしたらまだ十代前半の女の子。
身長をごまかす厚底を履かされ、露出の多い服を着せられて、大人っぽく見えるように化粧を施されているみたいだしそう振る舞っているみたいにも見えた。
背伸びをさせらながらこの映像を録画したんだなぁ。と、いったような印象。
コルベールさんのような機械人間とはまた違った作り物感がある。良い言い方じゃないかもだけど、着せ替え人形みたいだ。
「この方はリュワレ様ですよ」
私が尋ねると、テーオバルトさんは彼女を誇らしげに紹介した。
「機械都市の発展に身を捧げた第一人者、オーミット氏のお嬢様です。彼女はこの都市の繁栄の象徴なんです」
「機械都市の顔ってこと?」
「わかりやすく言えばそうですね。機械都市を代表する方でもありますので」
なるほど。まだ小さいのに偉い人なんだ。
自動再生機でみた限りだとテーマパークのアトラクションの案内係かマスコットキャラクターみたいなんだけど。
テーオバルトさんはリュワレちゃんに「様」をつけて呼んでいるし、この女の子がとりあえず高い位にいるのは理解できた。




