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ロストスペル  作者: 海老飛りいと(えびトースト)
第4章.機械都市
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102 お金にはかえらんない

「……おいくらですか?」


「お値段据え置き10万円です」


「買います! 現金で!」


一聞、法外なお値段ではあるけれど、コルベールさんが提示した金額なら手持ちで間に合う。

ちょっと多めに用意しておいて良かった。

それにしても。今まで何度もお金のやりとりはしてきたけれど、(エン)なのがファンタジックな世界観に合わなくてなかなか慣れないなぁ。と、思いながらお札でいっぱいの財布を出す。


「そ、即決?!」


エルトから奪って……じゃなかった、預かってきた私のパンパンのお財布を見てマグ先生がぎょっとした。

確かに、日本で学生をしていた頃にはこんなにたくさんのお金を持ち歩くことなんて無かったし、一万円札を十枚も一気に出すような買い物なんてしたことなかったわね。

きっとその感覚はマグ先生も私と一緒なんだ。

彼とは違うところ、今の私の要点は、そう。


「メナちゃんには代えらんないですよ」


「この子のことをそんなにまで……」


「毎度どうもありがとうございます。それでは、どうぞ。機械都市での良い旅を」


代金と引き換えにコルベールさんから超高性能スーパーハイパーエクセレントペットキャリー(命名)を受け取り、蓋を開けてメナちゃんを中に入れる。


「ぴょ? ぴーゆ? んぴ?」


良かった。カプセル型の蓋越しに声をくぐもらせるメナちゃんの様子は上部の覗き窓からばっちり見える。

メナちゃんも私を見上げて首をかしげた。心配してた表情から、「よかったの?」と尋ねてくるような感じで。


「うん。大丈夫だよ。いい子にしててね、メナちゃん」


「ぴゃいっ」


私が言わなくたってメナちゃんはこの世界の誰よりもお利口さんでいい子なんだけれど、元気な返事が返ってきたので安心した。

流石十万円のウルトラ……略、キャリー。居心地も悪くはないみたいで早速メナちゃんも丸まって落ち着いている。


ふと見れば大事なメナちゃんを散々ペット呼ばわりした腹立つ係員も、コルベールさんの前ではペコペコ頭を下げてばかりいて。

生き物の持ち込み自体が禁止って話も彼が上手く通してくれたみたい。

なんだかなあ。偉い人がいれば対応が変わるみたいなの、気になるところだけれど。

私はメナちゃんと一緒にいられるならそれでいいや。深くは考えないことにしようっと。


それからすぐ後、検問所から機械都市までは船で移動するのだと聞いていたんだけれど、それにもまたびっくりな事が。

なんと、乗船時間は6分足らず。もっと言えば体感5分強って感じ。あんまり変わんないか。

そもそも船っていうのも想像していたものと違って、乗用車くらいの大きさがあるかないかだった。

見た目で言えば小舟というよりもただの長四角い鉄箱がぽっかりと、桟橋の先で浮かんで私達を待っていた。


「なんか……私、もっとこうでっかい海賊船みたいなのをイメージしてました」


「まぁね。俺もだよ」


メナちゃんが入っているスーパーキャリー略の構造の謎もあるし、ファンタジー背景にミスマッチな鉄箱が出てきても驚きはしなかったけれど、乗ってから到着までの所要時間には本当にびっくり。

一体時速何キロで海の上を大横断したというのだろう。

乗り込んだ船には窓も付いていなかったから移動中の様子は解らなかった。




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