#012.檻のなかの私 【ハルナ視点】
私は檻の中で居住まいを正して、座りつづけていた。
月光が格子の隙間から差しこんで、私の揃えた膝のうえに縞を落とす。
あの人が、言った。
私をここから出すと。必ず戻ってくると。
私は、言った。
信じますと。
私はあの人の名前を知らないし、あの人は私の名前を知らない。
だけど一目見たときにわかった。この人なのだと。
昔、いまは亡き父母に言われたことがある。
狼牙族に生まれた者は、いつか必ず、お仕えするべき相手と――真の主と出会うのだと。
私は、そんなことは信じていなかった。父と母は部族の誰よりも強く、自分はその父母に仕えるのだと思っていたから。
だがその父母は倒れた。
狼牙族にとって、それが尋常なる勝負であっても、たとえ尋常ならざる勝負であっても、勝利と敗北とは、神聖なものだった。
騙し討ちで罠にかけられたのだとしても、私に恨む気持ちはない。狼牙族の信仰する「真の強さ」というものは、騙し討ちや罠や、その他ありとあらゆることを越えたところにあるものだった。
そして〝戦利品〟として、自分が奴隷に身を落としたことにも不平はない。
ただし、〝主人〟と称して私を買おうとする者に、従うかどうか――それは別だった。
服従の首輪を付けられていても、それで縛れるのは体のみ。心までは決して縛られない。
私の心は、いつか出会う真の主に捧げられている。
そして、その方とは、もう出会った。
「まったくおまえは、困った不良在庫だね」
「ご迷惑をおかけしています」
声の主は、この奴隷店の店主。
しばらく前から店主がそこにいたことに、私は気づいていた。狼牙族は狼とおなじぐらい鼻が利く。
「迷惑を掛けていると思うなら、売れていってくれると助かるのだけどね」
「すみません」
私は本当に済まない気持ちで、そう言った。
四度、私は返品された。
そのうちのどの一回でも、殺処分されても仕方がなかった。
なのにこの店主は、私を生かしてくれた。チャンスを与えてくれた。
この人は悪人のふりをしているが、いい人だ。狼牙族は匂いで人を嗅ぎわける。この人からは、いい人の匂いがしている。
「そういえば、小耳に挟んだのだがね……」
店主は世間話をするような口調で、そう話しはじめた。
私は耳を傾けた。
「今日、冒険者になったばかりの若者が、大金を求めて、一人でダンジョンに潜ったのだそうだ。そしてこんな遅くになっても戻ってこないそうでね。明日の朝には、捜索隊が組まれるそうだが……」
私の尻尾が直立した。
迷宮に何度も潜った私には、その恐ろしさを、よくわかっている。
明日では遅い。今夜。いますぐに出る必要がある。
そう……。
私にはわかった。わかってしまった。
あの人が私を身請けするお金を稼ぐため、冒険者になったこと迷宮に潜ったこと。
そして捜索隊の目的が、初心者冒険者の救出ではなく、遺体回収にあること――。
「彼には期待していたから、残念なことにならなければいいと思っている。なにしろ。うちの不良在庫を買い上げてくれるかもしれない人だからね」
私は物凄い焦燥感に駆られていた。
店主がなにを思って、このことを告げてくれたのか、正直、わからない。
いますぐに迷宮に駆けつけたいところだが……。奴隷である身の私には、逃亡は数分後の〝死〟を意味している。
あの人の元に辿り着くことさえできないだろう。
私は凄い形相をしていたかもしれない。獣の顔をしていたかも。
「ああ……、そうそう」
立ち去りかけていた店主は、なにかを思い出したかのように立ち止まった。
「今夜は。よい月だね」
夜空を見上げて、そう言った。
正直――。月なんて、いま――。
「散歩に出かけることを許可しよう。――あまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ」
店主は、こんどこそ、歩き去っていった。
ああ。やはり私の嗅覚は正しかった。
店主からは、いい人の匂いがしていた。
私は、月に向かって高々と遠吠えをすると、檻を打ち破って、外へと出た。
満月の夜の狼牙族は、すこしばかりスペシャルなのだ。
そして私は――。
あの人のもとへ――。
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名前:ハルナテーア
種族:狼牙族
年齢:17
職業:獣闘士Lv23
HP :115/115
MP : 78/78
STR:131
CON:120
INT:85
WIS:98
DEX:87
AGI:250
CHA:48
LUK:20
装備 :奴隷の服
スキルポイント:0
取得可能スキル:(一覧)
スキル:
『爪闘技』『剣術Ⅲ』『盾装備Ⅱ』『鎧装備Ⅲ』
『腕力上昇Ⅱ』『敏捷上昇Ⅳ』『体力上昇Ⅲ』『器用さ上昇Ⅱ』
『フットワーク』『超集中』『ド根性』『嗅覚Ⅲ』
『チャージ』『ソニックブーム』『フィニッシュクロウ』『獣咆哮』
『礼儀作法』『もふもふ』
転職可能職業:
『戦士Lv10』『村人Lv5』
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獣闘士は、獣人種限定の戦士の上位職です。
ぶっちゃけ、現段階の主人公よりも強いです。この第一の嫁さん。




