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【コミカライズ開始】身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第七章 わたしの初めての誕生日

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生まれてきてくれて、ありがとう

「ふ、旧い神……」

「楓と離れるのはさみしいし、楓が尽紫に触れられるのを見るのも嫌だった。こういうのをなんと言うのだろうな。独占欲か。まったく恐ろしい感情だな。楓には俺だけの巫女でいて欲しい。物分かりのいい保護者を辞めていいんだと分かったら、心の中の箍が外れたみたいだ」

「紫乃さんどうしたんですか、今日ちょっと……違いません?」

「言っただろう、湿度くらい自由に変えられるって」


 そう言うと、紫乃さんが顎に手を添えて軽く唇を触れ合わせた。


「え」


 信号が変わる。

 紫乃さんは当たり前のように発進した。私は硬直していた。


「あ、あの……あの……今……」


 淡く光を帯びた鮮やかな瞳が、いたずらっぽく細くなって私を見つめた。


「尽紫には命がけで付き合ってやったんだから、俺にも少しは構ってよ」

「あが……」


 頬が熱くなる。紫乃さんの熱に炙られるように。


「まだ嫌だった?」

「そそそ、それはその、構いませんけど。というか歓迎します」

「歓迎?」


 紫乃さんが交差点を曲がりながら、笑みを零す。


「じゃあ信号待ちのたびによろしくな」

「待ってください!? そ、そんなキャラでしたか紫乃さん!?」


 屈託のない笑みを浮かべる紫乃さん。


「楓が受け入れてくれるなら、俺は遠慮しないよ」

「確かに、か、歓迎とは言いました、だとしてもですよ」

「交換日記から始め直したほうが、楓は好き?」


 私は言葉を失っていた。

 この人、本当は、もしかして。


「……結構、紫乃さん……そういうひと、なんですね……?」

「人じゃないよ、神様だよ」


 紫乃さんは笑う。


「旧い神がどんな倫理観(かんかく)してると思ってるんだ」

「湿度変えるの早すぎますよ、歓迎とは言いましたけど、その、に、肉欲がないって言ってたのは嘘ですか!?」

「触れ合うのは好きだよ。肉体に振り回されないだけで気持ちはいいし。食事と同じ」

「いきなりとんでもないこと言わないでください」


 左右確認のついでに、紫乃さんは私に色っぽい視線を送る。


「俺に教えたのは楓だろう? 今の璃院楓になる前の、ずっと前」

「えーん、どんなこと仕込んだの前世の私─ッ!」


 紫乃さんは声を上げて笑った。私の反応が心底楽しい様子だった。

 尽紫さんが演技していた紫乃さんも、案外合っていた可能性すら生じてきた。

 私は顔を覆った。神様って、なんなんだろう。

 愛が重くて深くて強くて、私を魂ごと絡めとる。ずるい。騙された。

 そんな紫乃さんの本質を垣間見ても、嫌いになんてなれない。愛してしまう。

 ひとしきり大笑いした紫乃さんが、上機嫌にアクセルを踏んだ。


「誕生日祝い、まだしてなかっただろ」


 紫乃さんが語調を変えて切りだした。


「そうですね」

「これから祝いのパーティだ。飛ぶぞ、複製神域に」

「えっ!?」


 次の瞬間、紫乃さんの車が思いっ切り那珂川に突っ込んでいく。

 悲鳴をあげる私。

 きらきらと水しぶきを飛ばした先には、賑やかなパーティ会場が私を待っていた。

 私の故郷。帰る場所。そして、紫乃さんが傍にいる場所。


「うおおお! 楓ちゃん! 誕生日おめでとう!」

「おめでとー!」

「十八歳おめでとー!」


 割れんばかりの拍手。

 花吹雪。先生が生み出す梅の木が、私にアーチを作り季節外れの梅花をほころばせた。

 祝福を前に、私は紫乃さんに手を引かれて車を降りる。

 気づけば私は巫女装束に着替えていた。

 深紅の旗のように、装束が誇らしく海風に吹かれて揺れる。


「……楓」


 たまらないとばかりに紫乃さんが私を抱え上げ、ぎゅっと抱きしめた。

 強く、強く。ずっと待ち望んでいた私を、永遠に離さないと誓うように。


「生まれてきてくれて、ありがとう」

「こちらこそ、……待っていてくれてありがとうございます」


 何度でも、私は神様(このひと)のもとに帰ってくる。



お読みいただきありがとうございました。

12/6発売の書籍版では紫乃と楓の過去の出会いを書き下ろしております。

また特典SS6種では、書き切れなかったネタを全部盛り込んでます。

おたのしみいただけましたら幸いです。ありがとうございました。

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『身に覚えのない溺愛ですが そこまで愛されたら仕方ない 忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです』
漫画:月森のえる 原作:まえばる蒔乃 キャラ原案:とよた瑣織
2025/09/30連載開始

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