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【コミカライズ開始】身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第四章・蓬莱を求めて――肥前と猫、方士

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†黒歴史†との対面

 しんと静かな部屋に入り、私は壁を見渡す。

 白いオーク材の可愛らしい本棚には、びっしりと綺麗に本が並べられている。その二段目、整然と並べられたアルバムを一つ手に取った。

 悪いことをしているようで、胸がどきどきする。

 同じ装丁のアルバムで丁寧に纏められているので、よほど大事にしていたのだとわかる。前から部屋に入るたびに、目に入っては気になっていたものだ。


 ソファに座り、私は思い切ってパカッと開く。

 一ページに約六枚ずつ、時にはそのときの手紙や小物も含め、日付が書かれて綺麗に纏められていた。


「ま、まめだなあ昔の私……」


 間に挟んであるメモを見る限り、私が纏めていたらしい。

 撮りためた写真や思い出の品を、ハーフ成人式などの記念のたびに、纏めていたようだ。

 濃密な、私の過去が目に飛び込んでくる。


 ─幼稚園の卒園式で、紫乃さんに抱っこされて笑顔の私。

 ─小学校の運動会。

 体操服姿で抱き上げられ、折り紙の金メダルを誇らしげに掲げる私。

 ─中学生になると並んで撮る写真が増えて。


 それでも紫乃さんは保護者として傍にいた。

 ずっと同じ姿の人が、服装を変え、髪型を変え、私の傍にいてくれている。


 紫乃さんの目はいつも優しかった。


「……いやずっと老けないなこの人」


 しんみりしそうになったけれど、容姿をごまかすつもりがない大胆っぷりに思わず突っ込みを入れる。スーツや髪型が変わっているだけに、いっそう「絶対に容姿を変える気はないぞ」という信念を感じる。


「うーん、誰か突っ込み入れる人いなかったの」

「いなかったよ。福岡市は転勤族も多いし、結構人入れ替わるから」

「わっ!?」


 驚いて飛び退く。真横から紫乃さんが覗き込んでいた。


「お、おかえりなさい」

「悪い、驚かせるつもりはなかったんだけど、あんまり真剣に見てるもんだから声かけそびれてた」


 紫乃さんは隣に座る。ふわっといい匂いがしてどきっとする。


「香水使ってたりします?」

「使ってないけど」

「いい匂いがしますよね、紫乃さん」

「よく言われる」


 認めつつ、彼は私の隣でアルバムに目を落とした。

 そして写真の中と同じ眼差しで、懐かしそうに写真を撫でた。


「懐かしいな。……楓は本当に面白い子だったよ。何度呼び出されたか」

「それを面白いで済ませてくださってありがたいような、申し訳ないような」


 言い訳するかのように、私は言葉を続ける。


「その……昔の自分がどんなだったのか知りたくて、アルバム開いてました」

「ああそれなら日記も読んでみたらどうだ?」

「いいんですか?」

「いいんじゃないか? 自分なんだから」


 紫乃さんは場所を知っている動きで、本棚の下のキャビネットに詰められたノートを取り出す。年季の入った色とりどり、サイズもバラバラのノートはプライベートな感じのものだ。


「勝手に開けちゃだめですよ」

「大丈夫だよ、ここは共用。日記といっても俺との交換日記だから」

「こ、交換日記?」


 紫乃さんは一番奥にある絵日記を取り出す。A4ほどのサイズの大きめの日記帳は、表紙に大きく「さくらぐみ りいWかえで」と書かれている。豪快なひらがなだ。


「幼稚園の頃、保護者と交換絵日記を書くことがあってな。楓はそれをすごく喜んで、卒園してもずっと続けていたんだ。絵日記じゃなくて普通のノートに変えたり、いろいろ変遷しながら。俺も今の楓がどんな世界で生きているのか知りたくて続けていたんだ」

「ほんとに丁寧に父親代わりしてたんですね……」


 私は日記帳を開く。自分が描いた大胆な絵と豪快な文字は、読むのが難しい。

 けれど隣の紫乃さんの文字は、綺麗なボールペンの字でとても読みやすい。そちらを見ると、だいたい私が何を書いているのかわかった。


「いもほりでいもむしほじくるのに夢中になってたんですね」

「生き物が好きな子だったよ」

「この『みちにちまみれのおねえさんがいた』は?」

「先生には赤いペンキの見間違いだとごまかしたけど、まあ地縛霊が見えてたんだな」

「……異能を持ってたり霊が見えてたりする子って、人と違う自分に悩んだり苦しむんじゃないのって思っちゃうんですけど……全然悩んでないですね、私」

「早いうちから『自分の家は他の子の家と違う』と理解していたからな。それに同級生にも数人はあやかしの子どももいたし、その子たちとごまかし方を学んでいってたよ」

「健やかに育ったんだなあ」

「ああ、本当にいい子に育ってくれた」


 紫乃さんが保護者の眼差しで写真を見つめている。

 その横顔を見ながら、やっぱり関係壊さないほうがいいのでは? と不安が頭をもたげる。けれどもたげた不安は、綺麗な日記帳を使うようになった中学生くらいの日記を読んで吹っ飛んだ。


『紫乃、いつも好きだと言ってくれるけれど、紫乃の好きはどんなスキ?』

「うわー!」


 バシーン。

 私は日記帳を閉じた。


「どうした?」

「な、なんでもないです」


 意を決して、もう一度日記帳を開く。そこには生々しい思いが綴られていた。

 紫乃さんの過去の恋愛遍歴について尋ねたり。

 それとなくどんな女の人が好みか聞いていたり。

 絶叫しながらノートを破り捨てたくなるほど、なるほどこれは盛り上がっていた。

 ちなみに紫乃さんの返事は実に淡々としていて、楓がいるから他はいないとか、時代によってファッションも違うしあまり見た目に頓着したことはない、でも勉強をする子は好きだと答えたりしている。


「めちゃくちゃ好きじゃないですか、楓、あなたのこと」

「そうだな」


 わかってないのか、気にしていないのか、判断に困る反応だ。

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