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【コミカライズ開始】身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第三章・竜宮にて――三池

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水底の神様

 (かささぎ)がばさばさと飛ぶ。筑後平野を通って、佐賀に。


「なるほど、まだ楓さんと筑紫の神は、婚姻関係を結んでいない、と」


 電柱の上に立っていた謎の男が言う。

 そこにもう一人、女の子が立っている。珠子だ。


「そこで何をしているの(ばしとるとね)佐賀の方士よ(さがんもんが)。……さてはあなた(あんた)があ()()けしかけた(とね)?」

「これはこれは三池の女神。水底の竜宮城にいなくていいんですか?」

「あ()たは知らなくていい(んでよか)たい()。……あ()た、自分も千年を生きる方士(ほうし)なら(とやったら)、土地神と巫女に手を出すのがどれだけ(どげん)やってはいけないこと(やっちゃいかんこつか)か、わかっていない(とらん)とはいわせ(いわせんばい)ないわよ(このばかちんが)

「始皇帝も袖にした私にそれ言います?」

「あ()た追い出されたいのかしら(るうごたっとね)?」


 珠子の霊力が広がり、スカートとおさげ髪が広がる。

 プリーツスカートの裏の闇から、半透明の龍神が顔を覗かせる。大蛇に嫁いだ姫君の異類婚姻譚と、龍神信仰と祇園信仰。いくつもの祈りが絡み合って形を為した三池山の女神は、大蛇であり龍神であり、山の姫神でもあり炭鉱(ヤマ)の女神でもあった。

 彼女の怒りなどたいしたことないとばかりに、徐福は扇で顔を覆ってどこ吹く風だ。


「ここを追い出されても私には別の場所がありますので。あなたとは違って」

「私の居場所はここよ」


 強く、珠子は言い切る。


あなた(あんた)それで済むとお思い(ちおもうとっとか)? あ()たがそのつもり(そげんかつもりで)だったら(おるんやったら)、私も肥前の姫たち()に黙ってはいられない(とられんけん)わよ(けんな)。嘉瀬川の淀姫様も背振の弁財天も、私と女子会やっ()る仲だからね(やけんな)

「おお怖い……ああ、本当に筑紫の女神は恐ろしいことですよ」


 風の流れが変わる。

 すっと、プリーツスカートの中に龍神が消えていく。

 落ち着いた珠子が、徐福を見据えたまま尋ねた。


「あ()た、妙に煙に巻くけれど(ばってん)、何か知っているのではなくて(とっちゃなかとね)? あの消えかけだった(ようごたった)猫が遠い距離()移動できたとは思えないもの(んもん)。佐賀からうちに渡って来る(くっ)ときに、土地神の私も紫乃も、気づけなかった(づききらんかった)のはおかしいわ(おかしか)

「さあてね。大海原に通じる恐ろしい水底の姫ならば、全てを知っているのでしょう? 有明海から飛び出せば、何か見えてくるかもしれませんよ」

「……そういうこと(そげんかこつ)?」

「ご想像にお任せしますよ、姫君」


 消える徐福。溜息をついて、それから珠子は水底を見つめる。

 この地の炭鉱は全て閉山した。

 閉山した炭坑のさらに奥に、とある神を閉じ込めているのは知る人ぞ知る話だった。

 珠子は三池港に降り立つ。

 夕日の落ちる有明海は黄金色に照らされ、空も海も眩しかった。

 風に目を細めていると、彼女がお父さんと呼ぶ魂たちが集まってきた。


「おおい、珠子ちゃん。大丈夫ね?」

「なんかえらい話し込んどったみたいやね」

「大丈夫よ。心配かけてごめんね、お父さん」


 彼女は屈託ない少女の笑顔で返す。そして迎えに来てくれた父親たちを抱きしめた。

 父と呼ぶのは便宜上で、出自だってばらばらだ。彼らの共通項は、今はみんな平等に、彼女の『父』であるということ。土地神の彼女にとって、彼らは父であり兄であり、弟であり子どもたちだった。

 土地神である己の傍にいてくれる、等しく愛しい魂だった。


「私はずっとここにおるよ、お父さん。……ずっと、一緒よ」


お読みいただきありがとうございました。

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『身に覚えのない溺愛ですが そこまで愛されたら仕方ない 忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです』
漫画:月森のえる 原作:まえばる蒔乃 キャラ原案:とよた瑣織
2025/09/30連載開始

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