第12話 親友と昼食に向かう(塚原 元)
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
本来であれば塚本と食堂に向かうのだが、今の塚本は応じてくれるだろうか?
俺は授業の合間ごとに塚本に対して言い訳を試みたが、全てなんちゃって敬語で返されてしまったのである。
絶交という言葉を本気だとは思わないが、流石に少々不安になってくる。
「……塚本」
後ろを振り返り恐る恐る声をかけると、塚本は机に伏していた。
まだ高等部に上がってから間もないというのに、いきなり居眠りとは……
「……ん、お? もう昼か。塚原、飯行こうぜ」
「つ、塚本……!」
「って、何泣きそうな顔してんだよ! 男に泣かれても何も嬉しくないぞ!?」
それは女になら泣かれると嬉しいってことか?
随分と悪趣味なヤツだな……
「いや、別に泣きそうになんてなってないぞ! ただ、あんなことで十年来の親友を失いたくはないからな……」
「いやお前、別に俺以外にも友達くらいいるだろうが……」
「もちろんいるが、だからといって親友を失っていい理由にはならないだろう」
そりゃあ俺にだって、少ないながらも友達はいる。
有難いことに、親友と呼べる存在も塚本以外に二人ほどいる。
しかし、だからと言って塚本と縁を切っていいとは決して思わない。
代わりがいるから失っていいなんて考えは、間違っている。
「……ったく、お前ってヤツは。……ま、いいや、さっさと行こうぜ。伊藤も待ってるだろうしな」
「そうだな……」
塚本は何故俺の頭をポンポンと叩いたのだろうか?
謎である……
まあ、それはともかくとして、確かに伊藤を待たせては別の被害が出る可能性がある。
速やかに学食に向かうとしよう……
「先輩!」
立ち上がり、教室を出ようとしたところで、一人の少女が立ちはだかる。
先日俺に告白してきた中等部の生徒、朝霧 柚葉さんである。
「先輩! あの、一緒に昼食を……」
「……悪いんだけど朝霧さん、俺はこれから塚本達と昼食に行くところなんだ」
そう言うと、見るからに残念そうな表情を浮かべる朝霧さん。
幼さの残る顔立ちの美少女にそんな顔をされると、凄まじい罪悪感がこみ上げてくる。
「あーっ!? 塚原! アンタ、また私を置いてくつもりだったでしょ!?」
俺が罪悪感に打ちひしがれていると、今度は別方向から甲高い声が響いてくる。
確認するまでもなく、前島 郁乃の声だ。
「置いていくも何も、約束なんかしてなかっただろう?」
「SNSで送ったじゃん!? 返事なかったけど、ちゃんと既読付いたから見たんでしょ!?」
「……え、いや、ゴメン、なんか長かったから、最後の方しか読んでないや」
風呂から上がってスマートフォンを確認すると、無理やり登録させられたSNSに、前島さんから20件以上のメッセージが届いていた。
無視するのは流石に気が引けたので一応見はしたのだが、無駄に長文な上に絵文字だらけでとても読むに堪えられず、ほとんど読み飛ばしてしまったのである。
「ムッカーッ! 既読スルーどころか、読みすらしてないとか! 信じらんない! 修君に言いつけてやるんだから!」
ムッカーって使う人本当にいるんだ……
それに言いつけるって、先輩は保護者か何かなのか……?
「……それで、何の用? 前島さん。俺達、そろそろ行かないとマズいんだけど」
「今のもスルー!? 本当頭に来るんだけど!? 修君の指示じゃなかったら、アンタと昼食なんて絶対しないのに! アンタの方がソレってマジ酷くない!?」
ああ、もしかして一緒に昼を食べようって話だったのか。
それならせめて、SNSじゃなくて電話で言ってくれれば良かったのにな……
まあ、断ったと思うけど。
「ストーーーーーップ!!!」
そのとき、割り込むように塚本が大きく声を張り上げる。
「前島さん、少し落ち着いて! 塚原も、女子をそんなぞんざいに扱うもんじゃないぞ!」
「はぁ? アンタ誰よ」
「ぐお……、同じクラスになったこともあるのにこの扱い……。い、いや、今はそれは置いておこう! とりあえず、昼食に関してはこれから皆で一緒に取らないか!? 積もる話もあるだろうしさ!」
塚本がなんとか場を収めようと、折衷案のようなものを出す。
しかし、気持ちは有り難いが、この面子で食事をするのはどうなのだろうか……?
正直、俺は食事するならもう少し平穏な方が良いのだが……
「え? 嫌よ、塚原とだけでも嫌なのに、これ以上余計なの増えるのは勘弁」
「……私も、先輩以外の人とはちょっと」
「……塚本、悪いが俺もそんな気分じゃ」
「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ! 何!? 実は君達、本当は仲良しなんじゃないの!? 独り身の俺を馬鹿にしてたりしない!?」
いや、俺も独り身なんだけど……
結局、あーだこーだと塚本が説得を続け、俺達は一緒に食事をとることになってしまった。




