表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放令嬢は宝石職人に拾われる~宝石の声が聞こえる私は、彼と相性抜群のようです~  作者: 川上とむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/39

第七話『初めてのお客様』


「いらっしゃいませ! お嬢様、本日はどのような品をお探しでしょうか?」


 初めてのお客さんということで、私は気合を入れて少女へと近づいていく。


「そうねぇ。わたくしに似合う宝石を探しに来たの。お願いできるかしら」


 まだあどけなさの残る少女は大きな金色の瞳で、まるで品定めをするように店の中を見渡す。

 その栗色の髪は肩ほどで切り揃えられていて、開け放たれたままの扉から流れ込む風で、ふわりと揺れた。


「は、はい! お任せください!」


 一瞬見惚れてしまいそうになるのを必死に堪え、私は言葉を紡ぐ。

 この店のお客様には貴族様や商家の方が多いそうだし、この少女もその関係者に違いない。失礼のないようにしないと。

 幸いなことに、貴族相手にへりくだるのは慣れている。あとは、お店にお気に召す品があるかどうか……。


「……エレナ、そろそろやめないか」


 そんなことを考えていた矢先、ウィルさんが立ち上がり、呆れ顔で少女を見る。


「……あははっ。ごめんなさい。お嬢様なんて呼ばれたの、初めてだったので。つい調子に乗っちゃいました」


 その直後、少女は凛とした表情を崩す。一気にあどけなさが増した気がした。


「あの、ウィルさん、この女性はお知り合いですか……?」

「……妹です」


 状況がわからずに問いかけると、彼はこめかみを押さえながらそう口にした。


「え、妹さん……?」

「よく見てくださいよ。こんな貴族様、いるわけないでしょう?」


 言いながら、エレナと呼ばれた少女はその場でくるくると回る。

 冷静になってみれば、彼女の服装は貴族のそれとはまるで違う。一般庶民のものだった。


「兄から話は聞いています。エレナ・ハーヴェスと申します!」


 その直後、彼女は体の前で両手を揃え、深々とお辞儀をする。


「アリシアと申します。お兄様には、ずいぶんとお世話になりまして」


 あえて家名を名乗らずに自己紹介をし、同じように頭を下げた。


「妹は転送師(てんそうし)でして。いつもは街の反対側にある郵便局で、住み込みの仕事をしているんです」

「テンソウシ?」


 聞き慣れない単語に、私は首をかしげる。


「転送魔法を使って、遠く離れたところへ手紙や荷物を届けるお仕事です!」


 えへへ、と、満面の笑みを浮かべながら言う。先程までの態度がウソのような無邪気さだ。


「郵便局に遠距離配達の部署があると聞いたことがありますが……まだお若いのに、すごいですね」

「ありがとうございます! と言っても、まだまだ見習いなんですけどね!」

「そうだね。この前練習に付き合った時は、貴重な指輪が屋根の上に飛ばされてしまったし」

「に、兄さん、その話はやめてください! わたしの利口なイメージが崩れちゃうじゃないですか!」

「……ふふっ」


 そんな兄妹のやり取りを見ていると、思わず笑いがこぼれてしまう。


「……ところでアリシアさん! 兄とはどのようなご関係ですか!?」


 次の瞬間、エレナさんは前のめりになって尋ねてきた。

 ……あれ? もしかして、何か勘違いをされてない?


「エレナ、アリシアさんの事情は朝のうちに話しただろう。それだけの関係だよ」

「いーえ、兄さんの話は信用できませんから。アリシアさん、本当のことを言ってください!」


 ますます顔を近づけながら、彼女は訊いてくる。その瞳は輝いていて、期待に満ちていた。


「兄さんは仕事のことしか頭にないんです。そんな兄が、女性を雇うなんて! これはもう、ロマンスが始まる予感しかしません!」


 キラキラと瞳を輝かせながら、エレナさんは言う。


「ほ、本当に何もありません。お会いしたのも、昨日が初めてなんですから」


 迫りくる彼女に気圧されながら、私は言葉を紡ぐ。


『エレナは恋バナが大好きだから』

『なんだかんだで、年頃の乙女だよねー』


 その時、宝石たちの中からそんな声が聞こえた。その情報、もう少し早く教えてほしかった。


「エレナ、いい加減にしないか。アリシアさんも困っているよ」


 その時、圧倒されている私を見かねて、ウィルさんがわずかに声を荒らげた。

 この一言はさすがに利いたのか、エレナさんは気落ちした様子で私に背を向ける。


「……まぁ、年頃の男女がひとつ屋根の下。ゆくゆく熱い恋に発展する可能性も大いにありますよね」


 ……否、全然気落ちしていなかった。

 小さな声で何か言っていたけど、ここは聞かなかったことにしよう。


「それはそうと! わたし、アリシアさんのために色々と持ってきたんです!」


 ようやく静かになったかと思いきや、エレナさんは満面の笑みで振り返る。

 そんな彼女の足元には、大きな木箱が置かれていた。


「エレナ、何を持ってきたんだい?」

「女性のための品物です。ここには兄さんがいるので、わたしの部屋で話しましょう!」


 言うが早いか、エレナさんは木箱をひょいと持ち上げると、肩に担ぐ。

 それから私の手を取ると、ウィルさんの横を素通りして住居スペースへと向かっていく。


 彼女は予想以上に力が強く、とてもじゃないけど逆らえなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ