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追放令嬢は宝石職人に拾われる~宝石の声が聞こえる私は、彼と相性抜群のようです~  作者: 川上とむ


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第三十二話『ガラモンド宝石工房』


「これはこれは、ガーベラ様じゃないですかい。お一人で来られるのは珍しいですね」


 ガラモンド宝石工房の店主さんは、ニコニコ顔で私に話しかけてきた。


「え、ええ。たまには一人で足を運びたくなったの」


 一瞬困惑したものの、すぐに私と妹を間違えているのだと気づく。必死に妹の口調を思い出し、演技をする。


「せっかくいらしたのですし、中にどうぞ。お茶でもお出ししましょう」


 笑顔を崩さぬまま、店主さんは私を店内へと招き入れる。

 妹とは雰囲気も服装もまるで違うけど、普通の人は双子の姉がいるなんて夢にも思わないだろう。特に、この街では。


「資金提供、ありがとうございます。おかげさまで今年も優勝を狙えそうです」

「そ、そうですか。それはなりよりですわ」


 高級そうなポットにお湯を注ぎながら、店主さんは言う。

 ガーベラの家は、資金繰りに困っていたはずだけど……資金提供ってどういうことかしら。


「もちろん、例の約束も覚えておりますよ。お任せください」

「例の約束?」


 紅茶の入ったカップを渡してくれた彼に、私は思わず聞き返してしまう。


「ご冗談を。二年連続で優勝した暁には、ガーベラ様の名を関したブランドを立ち上げる。先日お約束したではないですか」

「も、もちろん覚えているわ。あなたを試したのよ」


 そう口にしたものの、私は背中に冷や汗をかいていた。できるだけ優雅に紅茶を口に運ぶも、その手は震えていたかもしれない。


「これは手厳しい。とにかくご心配には及びません。大船に乗ったつもりでいてください」


 目の前の彼は豪快に笑う。それに合わせるように作り笑いを浮かべつつ、私は考える。

 方法はよくわからないけど、ガーベラはどこからか資金を用意して、この工房を援助したのね。

 そしてゆくゆくは、自分のブランドを立ち上げて一発逆転を狙っている……あの子らしいやり方だと思う。


 でも、そうなると……私たちが優勝すれば、この話はなかったことになるのかしら。

 その後、店主さんとしばらく雑談をしたものの……その内容は私の頭には一切残らなかった。

 なんとも言えないモヤモヤを抱えたまま、私はお店をあとにしたのだった。


 ……ハーヴェス宝石工房に戻った私は、展示されていた優勝作品について、ウィルさんたちに詳しく話して聞かせた。


「スーパーセブンでしたか。それはなかなかの珍品ですね」


 私でも、あれだけ高品質なものは見たことがなかったし、ウィルさんは感心しきりだった。

 ちなみに、ガラモンド宝石工房の店主さんとの会話については、ウィルさんにも話していない。私としても、まだうまく整理ができていないし。


「あちらも去年以上に資金が潤沢でしょうし、より珍しい宝石を使ってくる可能性が高いですね。我々も明日、レイナードさんのところへ行きましょう」


 そんな私の胸中など知る由もなく、ウィルさんはやる気に満ち溢れていた。

 私がいくら気にしても仕方がないし、ここはウィルさんと一緒に頑張らないと。


 ◇


 その翌日。私とウィルさんは宝石仕入れ業者のレイナードさんの家を訪れていた。


「そろそろ来ると思ってたぜ。とっておきの石がある」


 私たちの顔を見るなり、レイナードさんはニヤリと笑い、奥の部屋へと案内してくれた。


「ちと狭いが、コンテスト用の珍しい原石はここに保管してある」

「……ではお尋ねしますが、スーパーセブンはありますか?」

「ほほ、さっそく聞いてくるねぇ。ほらよ。こいつだ」


 ウィルさんに問われ、レイナードさんはどこか嬉しそうに箱を取り出す。それはバスケットほどの大きさだった。


「前回の優勝者がスーパーセブンを使ってたからな。用意はしてある」

「なるほど。これは良い石だ」

「だが、値も張るぜ。そうだなぁ……3万ルピアス。いや、2万8000までなら下げられる」

「……そうですか」


 レイナードさんの言葉に、ウィルさんは表情を曇らせる。さすがに高すぎる。


「少し、アリシアさんと相談させてください」

「構わないぜ。俺は店のほうにいるから、じっくり考えな」


 ウィルさんの言葉を受けて、レイナードさんは倉庫から去っていった。


「ものは試しと聞いてみましたが、さすがに高いですね」

「まさかウィルさん、スーパーセブンを使うつもりですか?」

「そのつもりは毛頭ありません。何より、この石がコンテストに出たがっているかもわかりませんし」

「そうですね……聞いてみます」


 私はそう言って、スーパーセブンの原石に語りかける。


『ええっ、コンテスト!? そんなの絶対無理だから!』


 その見た目に反して、原石さんは小心者のようだった。これは無理そうだ。


「……絶対出たくないと言っていますね」

「そうですか……他の原石たちの中で、コンテストに出たいという石はいますか? まずは彼らの気持ちが一番だと思いますので」


 室内を見渡しながら、ウィルさんは言う。石たちへの配慮が見られて、私は嬉しくなった。


「わかりました。この中で、コンテストに出ていただける方! 返事をしてください!」


 その気持ちを隠しきれず、私は声を大にして、原石たちに問いかけた。



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